米国最大かつ世界最大のホームセンター・チェーンであるホーム・デポ(The Home Depot)。売上高12兆円を超える規模もさることながら、軽く10%を超える営業利益率、新規出店に依存せず既存店売上高を成長させていること、デジタル投資など、これからの日本の小売企業にとって経営の参考になる点がたくさんある企業だ。ホーム・デポは今何に取り組んでいるのか、2020年2月期の決算を読み解こう。
既存店売上が3.5%増
ホーム・デポの大命題はナンバーワンの地位を維持し続けることだ。安さを第一の顧客提供価値と位置づけ、同業他社よりも速いスピードで成長することをめざしている。
その目標を果たすため、ホーム・デポは18年度から3年間の投資戦略「ワン・ホーム・デポ(One Home Depot)」を開始した。「ワン・ホーム・デポ」とは、デジタルとリアルをスムーズに行き来できるシームレスな買物体験のことで、ホーム・デポはその実現を目指して110億ドル(約1兆2100億円)を集中的に投資する。すでにホーム・デポのECは全米で5番目の売上規模を誇るが、EC利用者のほぼ半数が注文した商品を店舗で受け取っている。デジタルとリアルをよりシームレスに融合すればビジネスチャンスは広がるはずとの考えから起案された同戦略は、17年12月に発表されて18年度から実施された。
ホーム・デポは、この3ヵ年戦略の2年目である19年度の業績を発表した。2月2日に終了した19年度の売上高は1102億2500万円(約12兆1248億円)で前年度と比べて1.9%増加した。客数は前年度よりも0.3%減少したが、平均客単価が2.4%増えたことが売上増に寄与した。営業利益は158億4300万ドル(約1兆7427億円)で前年度比2.0%だった。既存店売上高は前年度比3.5%増と好調だった。
最大のライバル企業であるロウズ(Lowe’s)を、売上高と既存店売上高の伸びでは上回った(同社は世界2位、米国2位のホームセンターである)。「複数年にわたる投資プログラムの2年目にあたり、当社の戦略が顧客提供価値を創出しつつあるとこれほど確信を持ったことはない」とクレイグ・メニア会長兼CEO兼社長はコメントした。
店舗とECをつなぐ
クリック&コレクトに集中投資
「ワン・ホーム・デポ」における投資分野は、実店舗の利便性を高めること、新カテゴリーを導入し提供商品を拡大すること、デジタル体験を増やすこと、顧客が好きな方法で商品を受け取れるようにすること、業務用市場でのトップの地位を維持することである。
ホーム・デポがこれまでの2年間の投資で最も多額を割いたのが店舗である。投資総額の半分近くに相当する50億ドル(約5500億円)を店舗に投資した。今後も事業の中核は店舗であるとの考えからだ。
ホーム・デポは、自社の店舗の優位点は便利な立地にあると分析する。立地だけでなく、売場をわかりやすく買いやすい便利にしようと改装に取り組んでいる。求める商品を見つけやすくするために、携帯アプリのナビゲーション・システムを導入するなど、ハード面だけでなくソフト面でも工夫をこらす。あるいは精算レジやECで注文した商品の受取カウンターでの手続きをスピーディにするための設備にも投資している。同社の店舗は19年度末時点で米国、カナダ、メキシコに合わせて2291店舗ある。そのうちの60%以上がすでに改装を済ませた。
ホーム・デポの売上高の約45%は建築業の顧客による売上である。同社は、専門性の高い商品を幅広く網羅し、配達や掛け売り、B2B専用のECサイトの開設など、業務筋のためのサービスを積極的に導入してきた。「ワン・ホーム・デポ」では、これらサービスをさらに発展させることに投資し、既存顧客の囲い込みと新規顧客の開拓を図る。
建築業者などの業務筋の顧客に対しては、配達が成功の鍵と同社は配達網の構築に力を入れる。20年1月、業務用ECの配達に特化したフルフィルメントセンターをテキサス州ダラスにオープンした。ダラスには20年度、個人客向けECのフルフィルメントセンターを開設する予定である。同社はさらに、他の大都市にも、業務用および個人客用のフルフィルメントセンターを建設する計画を示している。
「当社の戦略的投資は概ね順調で、成果が現れつつある。しかし、『ワン・ホーム・デポ』がその提供価値を最大限に発揮するには、まだやるべきことがある」とメニアCEOは決算発表の席で語った。
※ホーム・デポや、ロウズ、ウォルマート、アマゾンの最新経営戦略、デジタル戦略は、『ダイヤモンド・ホームセンター2020年4月15日号』の特集「アマゾンに打ち勝つホーム・デポ 進撃の米リアル小売」に約30ページ掲載しています