テレビ通販でおなじみのジャパネット。2019年12月期のグループ連結売上高は約2700億円と過去最高となった。15年に創業者で父である髙田明氏から経営を引き継いだ旭人氏は「2代目」の重責を担い、事業戦略や働き方改革、組織マネジメントなどを見直し、いかに「ジャパネットらしさ」を打ち出していくかに注力してきた。ECへの取り組みもその一つだ。ジャパネット流EC戦略の一端を著書「ジャパネットの経営」(日経BP)からお届けする。
ジャパネットのサイトの個性とは何かを考えた
2016年7月、ECサイトを「ジャパネットセンカ」として刷新するのに合わせて、取扱商品数を約8500点から600点程度に大きく絞り込みました。残った商品は7%ほど。商品数を9割以上減らしたことになります。
同じタイミングで、すべての商品に45秒間の紹介動画をつけています。お客様により詳しく、分かりやすく説明するためです。長年、当社はテレビ番組制作をしてきましたから、動画づくりは得意です。
インターネット上にはたくさんの通販サイトがあります。その中で「どうしたらお客様にジャパネットのサイトを見てもらえるだろうか」と考え、当社の強みを洗い出してみました。
スタジオがある、MCがいる、番組制作を自前でやっているといった強みがあり、最近はネット上の動画を視聴する人が増えている。こうした結果から、全商品に紹介動画を載せることにしました。
45秒で商品を紹介するというのも、早い段階で決めました。商品の訴求ポイント3つを、約15秒ずつ説明します。どの商品もすべてこのパターンなので、見る人も理解しやすいですよね。時間的な長さもちょうどいい。
外出先で見る場合など、音声を消して閲覧するケースを想定して、MCが話す内容に合わせて字幕(テロップ)を大きく出したり、タイマーを表示してあと何秒で動画が終わるか分かるようにしたりといった工夫もしています。
7年くらい前にインターネット部門の担当になりました。まだ社長に就任する前のことです。それからずっと「ジャパネットのサイトの個性とは何だろう」と考えていました。
大手ECサイトのように、当社も何十万という数の商品を載せるべきなのかと自問自答していましたが、直感的に「それは違うな」とも思っていました。
2016年の初め頃、たまたまプライベートで欲しいものがあって、ジャパネットの通販サイトで探していたら、一昔前の商品が出てきました。「こんな商品、まだ売っているのか。でも、買う人はいるのかな」と思って調べたら、2、3カ月に1、2個売れている程度でした。気になって調べてみると、ほかにも売れていない商品が結構ありました。
当時、ECサイトに新商品を登録するチームがあり、10人のメンバーがいました。これだけのメンバーが一生懸命登録した商品のなかに、ほとんど売れていないものがかなりある。つまり、あまり需要がない商品を登録するために、ものすごく時間をかけていることが分かりました。
商品数を絞る前よりも売り上げは伸びた
そこでこの部署は解散し、その後半年ほどかけて取扱商品の削減に取り組みました。
「ここまで商品数を絞るとは大胆ですね」と言われます。いくら売れない商品が多かったとはいえ、店頭から93%の商品を撤去したようなもの。7%の商品しか残さなかったのですから、当然売り上げにも影響すると思うでしょう。
しかし、実際には売り上げはさほど減りませんでした。しかも、大して減らないことは事前に分かっていました。なぜなら、残した7%の商品で従来の売り上げの93%は確保できる計算だったからです。
商品数を絞り込めばメリットがあることははっきりしています。
物流拠点で全商品の在庫を持てるようになり、お客様への配送リードタイムを短縮できました。コールセンターでの対応も600商品に集中できるので効率的になりました。全商品の特徴をより詳細に説明できる紹介動画を用意できたのも、商品数を絞ったからです。
商品数を減らして失った売り上げは、残した商品の販売を強化すれば、十分にカバーできます。残した商品はいずれも商品力の高い人気アイテムなのですから。実際、一時的に減った売り上げは、商品数を絞る前より増えています。
すべての戦略の軸にジャパネットらしさがあります。
そもそも、厳選した商品をより多くのお客様に届ける「厳選集中」というのが当社のもともとのこだわりです。せっかくサイトに来ていただいても、選りすぐった商品のみを紹介していなければお客様にそっぽを向かれてしまいます。社長になってから強化したのは、この厳選集中でした。
にもかかわらず、ECサイトの商品数が膨らんでいたのは、いわゆる「ロングテール」の発想で、載せておけば売れるという考えがあったからです。
でもそれはジャパネットはやらなくてもいい。当社はやるべきは、厳選集中という強みを尖らせること。「らしさ」を貫くことが大事です。
※ 髙田旭人氏の著書『ジャパネットの経営』(日経BP)68~71