「やる気にあふれた人は採用しない」1日100食限定「佰食屋」の異色人材採用術

2020/06/02 05:55
    佰食屋 中村朱美
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     わたしたちが「従業員第 1 号」として採用したSくんも、そういう人でした。 10 人ほど面接に来られたのですが、Sくんはなんと、履歴書を忘れてきたのです。「あなたは……どなたですか?」からはじまる面接なんて、後にも先にもあれっきりです。

     彼は、調理師の免許こそ持っていましたが、コミュニケーションが苦手で、おとなしくて、人の目を見て話すことができない人でした。面接したなかには飲食経験者も多く、「大手ファミレスチェーン店でエリアマネージャーをやっていた」という人もいました。けれどもわたしは、Sくんを採用したのです。

     その 1 か月後に採用したYさん……そう、のちに佰食屋の店長を務めてくれた社員です。彼女もまた、面接では緊張しすぎて、ちっとも目を合わせてくれず、なにか尋ねても、ボソボソッと答えるような人でした。「いつか自分でカフェを開きたい」という夢を持っていたにもかかわらず、カフェのアルバイトに応募しても、面接で落とされるばかりだったのです。

     ではなぜ、佰食屋はそんな二人を採用したのか。佰食屋には、「アイデア」も「経験」も「コミュニケーション力」も必要ないからです。

     まず、佰食屋のメニューは年中同じです。ですから、「季節限定のメニューを出せばもっと売れるんじゃないですか?」と新しいアイデアを考える人にとっては、少し退屈な会社かもしれません。

     そして、メニューはたった 3 種類です。ですから、厨房でも接客でも、マニュアルがなくてもわかるくらい、すぐに仕事を覚えることができます。ですから、経験は必要ありません。

     佰食屋では、入社すると 1 週間ほど店舗に入って、先輩従業員がやっているのと同じ仕事をしてもらいます。今日は厨房、その次は接客、と担当範囲を変えていって、仕事を真似してもらうのです。それを 1 100食分、つまり「 1 100回同じことを繰り返す」ので、やっているうちに体で自然と覚えていくことができます。

     また、メニューは 3 店舗ともABCにしてあるので、誰でもわかるようになっています。日本語・英語・中国語・韓国語の 4 か国語で書かれてあるので、いきなり外国人のお客様をご案内しても、指差しだけで伝わります。 

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    最後に、佰食屋は 1 100食以上なにがあっても売りません。ですから、店頭に出て呼び込みをする、といったちょっと勇気がいることもする必要はありません。

     結果として、佰食屋が採用した従業員はみんな、話すのがちょっと苦手で、ちょっと不器用で、そんな愛すべき人ばかりです。みんな、言われたことをきちんと真面目にしてくれるし、毎日同じ仕事を黙々とこなすことが得意ですし、どんなお客様にも丁寧に接してくれます。やさしくて、本当にいい方ばかりです。それが、佰食屋にとっての「仕事ができる人」なのです。

     ビジネス書ではよく、従業員の主体性を引き出す方法や、アイデアを生み出す方法について語られています。けれども、みんながみんな、そういう人になる必要がありますか?

     コツコツと丁寧に、毎日決められたことを、きちんとやる。むしろそっちのほうが得意だ、という人も多いのではないでしょうか。「コミュニケーション力がある」ことは、あくまで一人ひとりが持っている「得意なこと」の 1 つに過ぎない。そして、得意なことは人それぞれ違うのです。

     

     

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