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一流コンサルタントが教える、コロナ解決のための「問題解決思考」と解決策

私は前回、誤った産業政策のため、「コロナに殺される前に経済に殺される」実態とその根拠を書いた。ビジネス誌は、大手世界アパレル企業にインタビューし「コロナなど関係ない。うちは大丈夫」といった記事を載せているが、日本に2万社あるアパレル企業の、最も例外的に成功している企業にインタビューをして、何が産業問題解決のヒントになるのか、と疑問を持つ。本稿は、批判ではなく、アパレル産業のみならず、小売産業を救済する提言を行うことを目的にしている。

Tony Studio / iStock

海外と日本の違いは、貧富の差

 公開されているバラバラのデータをつなぎ合わせれば、最も合理的な問題解決の方法がハッキリ見えてくる。

 まず、51日に日経新聞に掲載された、コロナ対策の「世界のお手本」とされているシンガポールでコロナが爆発的に拡大している記事が掲載された。また、泣く子も黙らせる独裁者トランプがいる米国で、なぜコロナ感染が世界一の拡大を起こし、玉虫色の、後手に回る政策しかだせない日本でコロナ感染のスピードが遅いのかという疑問を持つ人もいるだろう。

 しかし、状況をよく見れば、シンガポールで感染が拡大しているのは、貧富差の「貧」の人々だということがわかる。彼らは、劣悪な環境に住み「三密」を避けられない状況にある。つまり、独裁政治や行き過ぎた資本主義の末路として国民を富裕層と貧民層に分けた結果、コロナが蔓延したのだ。

 このように考えれば、世界で類を見ない「国民皆保険」という世界に誇る制度を持つ日本、そして、国民の生活レベルが世界と比べると一定以上であるという日本の状況を考えれば、世界の拡大分布の意味も違う見え方ができるわけだ。

 今の日本に必要なトップは、返り血を厭わない「独裁者型」

 断っておくが、私は独裁政治を否定しているのではない。

 政治を企業経営に例えるなら、経営者には3つのスキルが必要となる。一つは、「事業の立ちあげ」、もう一つは「安定化」、そして、最後に「事業の再生」である。

 「事業の立ちあげ」時には、ビジョンを示しながら仲間を集め、世の中にない未来が見える力、そして、そのビジョンに向かってチームを力強く引っ張る推進力が必要だ。

 次に、事業が「安定期」になったときは、様々な意見を調整し、誰からも嫌われない調整能力が必要な経営者が求められる。

 そして「事業が衰退期」になったときは、まさに独裁者として君臨し、例え反対勢力に会っても時に毅然とそれらを律し、流血を伴ってでも企業救済を選択する力が必要となる。

 この3つを同時に備えている者は少なく、「独裁者型」が事業立ちあげをやっても人がついてこないのでうまくゆかないし、「事業立ちあげ型」が、安定期にトップに立つと「博打経営」を繰り返し、会社を窮地に追い込んでゆく。

 

 いま、日本に必要なのは独裁者型である。だから、たとえ感染が拡大していてもシンガポールやアメリカなどの政策からは学ぶことが多いのだ。感染が拡大しているのは、国の統治機構が異なり、その結果、国が見せられない部分があるからで、ここには因果関係における構造の分析力が必要となる。

 

 

 感染者の増加停止と、経済困窮者の救済、どちらを優先すべきか?

 メディアは「いかに、感染拡大と経済安定を求めるか、そのバランスが求められている」などと報道をしているが、それは違う。

 問題解決というのは、常にシングルディレクション(一つにしぼりこむこと)だ。ダメな経営者ほど、現場に複数の指示を出す。「どちらかを捨てろ」、といっているのではなく、問題解決の因果関係と構造を理解し、どこに再注力するかという戦略的判断(選択と集中)を行えということを言っている

 今、日本人に突きつけられた課題は大きく分けて2つある。

  一つは、感染者の増加を防ぐこと。つまり、「Stay home」である。本稿を書いている54日、緊急事態宣言が5月末まで延長されることが決まった。その際「新しい生活様式」を提案するというが、論点設定がズレていると思う。これは第二次世界大戦時、本来は戦争を早期に終結すべきことに注力すべきだったのに、「欲しがりません勝つまでは」と、真面目な国民に本土を焼き尽くされるまで追い込んだときの政策と本質的に違わないように見える。

  二つ目は、止まっている経済困窮者に対して国が補填をするというものだ。しかし、これも、アパレル業界だけでいえば、平均すれば年商10億円から100億円程度の会社が2万社近くもあり、1ヶ月で1社あたり3000万から3億円のキャッシュが流出しているという実態からすれば、補填金額の桁が冗談かと思うほど異なっている。中小企業の救済になっていないのだ。

衣料品のEC化率が10%しかないので、全体の10%でしか売れない。百貨店はさらに厳しい情勢だ 写真:ロイター/Toru Hanai

 つまり、この重要な2つの課題の対策は、どちらも中途半端、結果的にコロナ対策も後手にまわっている。このままでは、暖冬でテクニカルノックアウトを食らったアパレル企業は、あと3ヶ月と持たないだろう。秋頃には医療崩壊でなく産業崩壊が起きる。すでに、彼らは、春夏物は仕入れをしており、回収しなければ資金ショートを起こしてしまう。衣料品の日本のEC率は売上の10%しかないという事実を無視した政策により、全体の10%しかないチャネルでしか売ることしかできない。この結果、3月に論考を書いていたときに40%の売上減少だった百貨店は、すでに6~70%の売上ダウンになっている。百貨店というのは、私が再三提言していたように、Webを使ったオムニチャネルはあやまった戦略的であるということは過去の論考で説明したとおりである。百貨店のECで売れているのは、「お歳暮」と「おせち料理」だけだ。だから、販売チャネルがECに限定された瞬間に足腰がたたないほどのアッパーカットを食らうことになるのだ。

  こうした状況下、論理的な問題解決のアプローチを使えば、今、我々がすべきことはハッキリする。問題解決というのは、常に、現象に対する対処療法でなく、原因の根元の息の根をとめることなのだ。コロナのケースで言えば、最大の原因は、コロナの感染を拡大させている感染者なのだ。

 

緊急事態宣言で 2年で63兆円の経済損失

 53日付の日経新聞の「チャートで見るコロナの感染状況」を分析するといろいろなことがみえてくる。

関西大学の宮本勝浩名誉教授の試算によれば、「緊急事態宣言」に伴う、日本の経済損失は2年で63兆円になるというPhoto by spyarm

 まず、日本で感染を巻き散らかしているのは20代が最も多いことが分かる。あくまでも仮説ではあるが、「高齢者を死へと追いやるコロナウイルスでも、若者に対しては無力である」という噂を信じているからではないか。彼らがどのような感染経路でコロナウイルスをまき散らしているのかは分からないが、論理的に考え、なんらかの場所で複数の人間が会いお互いに感染をシェアしあっているということは事実だろう。それが、夜のクラブなのか、はたまた、飲み会なのかはわからない。また、340代も決して少ないとはいえない状況だ。

  メディアに情報操作をされている可能性があることはよく理解した上での発言だが、パチンコ屋に列をなし「俺は覚悟ができて遊んでいるんだ」とうそぶいている6-70代の人達、そして、河原で「警察に許可をとったぞ」といってバーベキューを楽しんでいる人達もそうだろう。パチンコや河原でのバーベキューが感染経路だというつもりは毛頭無いが、彼らが軽い気持ちで傍観者的な態度をとり、感染をまき散らしている可能性は高い。政府は、こうした可能性を早急に潰してゆくべきだ。 

Stay home」などと横文字をつかい、いくら対処療法をしても「モグラたたき」のように、あちこちで感染者が出てくる、論理的にいって、そのたび金をばらまかなければならくなる。このままでは、先ほどの試算のように、ばらまく金は天文学的数字になる。実際、黒田日銀総裁は、「金融緩和に上限は儲けない」と発言している。

  関西大学の宮本勝浩名誉教授の試算によれば、「緊急事態宣言」に伴う、日本の経済損失は2年で63兆円になるという。また、米国シンクタンクの試算に寄れば、コロナで死亡する日本人は最悪のケースで57万人になるという。これは、甘い「外出自粛」により、感染者が拡大していった、(我々の言葉を使えば)ベースシナリオ(現状の状況がそのまま続いたときの趨勢から算出する手法)である。

  金融に強い人ならおわかりと思うが、もし、際限なく緩和策を続けてゆけば、金とモノの価値が逆転し、日本円は紙くずとなる。借金は減って企業は一時的に助かるかもしれないが、日本人の現金貯蓄の価値はゼロとなり、不動産は天文学的値段に高騰する。自宅をもっている人間は大金持ちとなり、賃貸で暮らしている人間は家を追い出されることになる。また、スーパーで売られている日常品の価格は一気に跳ね上がり生活が崩壊する人もでるだろうし、その前にトイレットペーパーなどを奪い合うような事態が起きるだろう。

 日本経済は、さらに酷いことになる。今は投資をとめている外資金融機関が、価値が下がった日本企業を徹底的に買収し、日本の技術は海外に流出し企業は解体されるだろう。これについては、「ここまでひどくなったアフターコロナのアパレル戦略」という別の論考で詳細を書いていきたいが、これら予兆は今すぐにでも覚えておいた方が良い。

  したがって、私の提言は、現象(経済困窮者の対策)と原因(感染をまき散らしてい人の根絶)を両輪にかけたとき、強い強制力をもって封じ込めるべきは後者であるということなのである。YouTubeで「手洗いダンス」などを放送しているのは、その心の美しさには感動するが、大きな視点で見れば、あたかも第二次世界大戦時に「竹槍訓練」をしたかのごとく感じるのはわたしだけだろうか。

 私自身、毎朝、犬の散歩にでかけ近所の公園にいくのだが、確かに「宴の後」があちこちに見ることができる。私が住んでいる街は、東京でコロナウイルスが最も多い世田谷区である。こうした「宴の後」を見ると、背筋が凍り付くようになる。

 

欧米諸国のように厳格な外出禁止令を行い、国民の動きを完全に止めれば、問題は短期間に解決できる Alex Potemkin / iStock

 国民の動きを完全にとめれば、1ヶ月で問題は解決できる

 あえて、河原でバーベキューをしている人、パチンコ屋に行っている人達の肩を持つわけではないが、政府が「これをやれば、いつまでに問題は解決する」という「期限」を曖昧にしているから、先の見えない不安を解消するため、こうした「息抜き」を行うのだ。テレビをみれば、ある学者は、「コロナ解決には2年はかかる」といい、ある学者は期限を曖昧にし「長期戦になる」とだけいう。彼らに共通しているのは、その世界には、今の日本経済は完全破綻しているということである。

 このように期限がみえない最大の理由は、「コロナウイルス」の潜伏期間が2~3週間あって、その間に本人も周りも自覚症状がないから防ぎようがないからだという。

 ならば、「1ヶ月間 (4週間)」を期限にし、完全に国民全員の動きをとめ、すべての国民を自宅待機させればよい。私は、警察が外を循環し、違反者は逮捕してもよいと思う。コロナの潜伏期間が2-3週間なのだから、1ヶ月あれば「感染者」と「非感染者」がはっきりする。そこで、「感染者」だけを集めて隔離し、人類の英知を使って治療にあたる。数がはっきりすれば、病床の問題も前に進む。

 いまは、(曖昧な隔離政策によって) 感染者が増えているから、どうしてよいのかわからないのだ。私は、1ヶ月だと国民に約束し、国民の動きを完全にとめ、また、国外からの入国者も1ヶ月隔離するなど隔離政策を徹底する。海外のように街を消毒する、あるいは、48時間待ってコロナが死滅するまで待ち、「非感染者」の人達は速やかに経済活動を再開するというのが私の提案である。

 「のぞましい」とか「自粛」など玉虫色の言葉を使い、「これを徹底すればいつまでに解決する」という期限をいわないから河原でバーベキューをしたり、パチンコ屋で列をなしたりし、緩慢な感染拡大がとまらないのだ。

 

「問題解決思考」から導き出した、解決策のビッグピクチャー

 まとめよう。

  1. 感染元を封じ込め、感染者と非感染者を「見える化する」こと、感染拡大による恐怖から、経済困窮者に金をばらまくことの二つについては、前者が原因であり、後者が現象である。原因を根治させねば、現象に対する対処療法はモグラたたきとなる
  2. したがって、全国民に対して「自宅待機」を行い戦時中のように徹底して国民の動きを止める。ただし、「1ヶ月間だけだ」と期限をはっきりさせる。また、経済支援は天文学的数字になるのだから、せこい金額でなく1ヶ月分のロックダウンコストは国が全額負担する
  3. 1ヶ月の間に、感染者と非感染者がハッキリしたあと、感染者は隔離し人類の英知を絞って治療する。また、街を徹底して消毒し、48時間まって、非感染者は通常生活に戻って段階的に経済活動を再開する。

  もちろん、この提案は初期的なビッグピクチャーであり、各論は大いにつめる必要がある。例えば、潜伏期間が1ヶ月以上のケースもないとはいえない、などであるが、こうした批判は、このビッグピクチャーの根幹を揺るがすものではない。問題解決に不慣れなものがこうした討議に加わると、大きなフレームワークと各論を混同し各論が解決しないからといって、なぜかビッグピクチャーの書き換えに戻るなど議論が収束しないことにある。

  再建・再生時には、リーダーは独裁者でなければならない。こういう批判に対しては、1ヶ月でダメなら2ヶ月にすればよいし、例えば、ガン治療のように、最初の1年は3ヶ月毎に1クール、2クールなどのように、ロックダウンを繰り返すなど、建設的な意見をいう人間をあつめて一気にやることだ。

  国民が不安なのは、あいまいな巣ごもりの「期限が見えないこと」と、「経済対策が的外れ」(職を失っているのに、一時金しかでない)だからである。私は、早急に産業別に問題解決に慣れた人間を集め、すみやかに、上記のような骨太なステップをベースにした実行計画をつくり行動に起こすべきだ。現場をしらない人間の「全国一律」策ほど怖いものはない。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)