ファミリーマートが複合店化を進めている。隣接する異業種はフィットネス、そしてコインランドリーだ。コンビニと併設して成功する業種とは何なのか。流通ジャーナリスト梅澤聡氏の著書「コンビニチェーン進化史」から一部編集してお届けする。
24時間営業のフィットネスとコインランドリー
客の利便性を軸にすれば、単店舗よりも業種の異なる複数店舗が同一敷地内にあれば、 より便利になる。しかし、業種業態問わず何でも一つに詰め込めばよいという話ではない。 基本として、購買頻度や利用頻度が似ている業種業態でなければ、客にとっても意味はないし、店側にとっても非効率になる。週に複数回の利用があるコンビニの敷地に宝飾店が あっても、両店に相乗効果は生まれないだろう。
開発や地主の都合上、コンビニとラーメン店、理髪店、書店、カフェなどが同一の敷地に出店したケースもあるが、コンビニチェーン本部が組織的に複合出店を推進した例は少なかった。そこに、ファミリーマートが開発した「24時間フィットネスジム」と「24時間コインランドリー」との複合出店が始まった。
ファミリーマートが運営する二四時間フィットネスジム「Fit&GO」は、18年2月に1号店の大田長原店をコンビニの二階にオープン、以降は首都圏を中心に展開している。Fit&GOは、プール設備やエクササイズスタジオを持たないマシン特化型の24時間ジムであり、「エニタイムフィットネス」など、この24時間利用できる形態のジムは日本でも流行している。新たな市場に切り込んでいくFit&GOの優位性は、コンビニとの併設にある。
既存のファミリーマート店舗には毎日800〜900人が来店する。この客数に、施設の利用 を訴求できるメリットは大きい。集客のポテンシャルの高い立地をすでに確保しているのだ。コンビニとの併設により、「安心感」も訴求できる。隣接する店舗が夜間帯に営業している事実は、利用者にとって心強いもので、事実、既存のフィットネスジムの約15%が コンビニに近接して立地している。
それではFit&GOは、コンビニの事業にどのようなシナジーを発揮しているのか。 Fit&GO大田長原店では、毎日90人が施設を利用し、その54%が運動前か運動後に一階のファミリーマートに来店し、1日3万円程度の売上の押し上げに貢献している。 もう一つ、ファミリーマートが運営する24時間コインランドリー「 FamimaLaundry」は18年3月に1号店「市原辰巳台西二丁目店」をオープン、多店舗展開を始めた。
コンビニは一般的に雨天時に客数が減少する。逆にコインランドリーは客数が増加し、 1・2倍から1・3倍に売上が伸びる。相互送客により、コンビニにとって雨天時の客数 対策となる。またファミリーマートは駐車場を有しているため、駐車場を持たない競合店 に対して優位性を発揮している。相乗効果の結果として、1日にランドリーを利用する 40〜50人のうち、6〜8割がコンビニを利用し、毎日30人前後の客数増に貢献しているという。もともとランドリーは無人店舗を想定しているので、作業は清掃と集金くらいだ。
ランドリー市場は成長期にあり約2万店が出店している。将来的にはコンビニの数に近づくと する予測もある。 これら二つのサービス施設とコンビニとの相性を、別の視点から検証してみよう。 24時間フィットネスジムは、コンビニと同様に、欲しいときに(体を動かしたいときに)、 欲しい商品を(使用したいマシンを)、欲しい量だけ(トレーニングしたい時間だけ)、購入で きる(ジムを利用できる)と、両者が掲げる利便性の高さが一致している。
もう一つのFamima Laundryについても、欲しいときに(洗いたいときに)、欲しい商 品を(使用したい洗濯機や乾燥機を)、欲しい量だけ(洗濯したい量だけ)、購入できる(洗濯 できる)と、利用者のニーズが一致している。
「人手不足」をいかに解消できるか
ファミリーマートによると、コインランドリー市場は「共働き世帯や単身世帯の増加にともない、日中に洗濯をできない方や、週末にまとめて洗濯する方が増えていることに加え、都市部を中心としたタワーマンションなどでは洗濯物を屋外に干すことができないなどから、年々拡大している」状況で、「セルフサービス式で、自宅では洗うことが難しい 布団なども手軽にお手頃な価格で洗濯できることから、主婦を中心とした女性に支持を得ている」という。 またファミリーマートでは、約5800店にイートイン施設を設置しており、待ち時間 に店内で飲食をする客など併設店への売上増にも期待をかけている。
女性の就業率が上昇するにしたがって、本来は昼間に利用していた施設やサービスの使 用が難しくなり、夜間でも安心して出入りできる施設を探し求めるニーズが強くなる。その際に夜間の「人手不足」が大きな壁になる。
だからこそ、コンビニ店舗のスタッフは基 本的にはノータッチが前提になる。紹介した24時間フィットネスジムも24時間コインランドリーも、それをクリアしている。
コンビニは、既存の業種の商品やサービスを店に取り込む中で市場を拡大してきた。現在は有人サービスであっても、AIの活用により、将来的に無人になるサービスも出てく るかもしれない。どれだけ知恵を働かせて夜間の人時を削減できるのかが、コンビニ店舗にとっても併設する異業種にとっても、これからの成長に欠かせない視点となるだろう。