コロナショックに打ち勝つアパレルビジネスの戦略を戦略コンサルの私が提言しよう

河合 拓
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危機的状況時は、解決可能な課題から手を打つのがセオリー

 2020317日の日経新聞によると、一連のコロナショックでリアル店舗は大打撃を受けているが、その一方でAmazonはなんと、グローバルで全従業員の1割にあたる10万人を新規雇用するという。

  また、翌18日の記事によれば、同社は過去最高の売上を更新し、しかも、あのレナウンなど、一般アパレルのEC売上も昨対比7割の増加とのこと。いわゆる「巣ごもり消費」と呼ばれるものだが、コロナウイルスによる在宅待機、海外での外出禁止などによって、ECが一気に加速する可能性が高い。現状の日本では、オムニチャネル、ショールーミング、セールスフォースなど、EC (電子商取引)ばかりがメディアで騒がれているが、実態は、全消費の10%にも至っていない。私たちの衣料品の経済はまだまだ「リアル店舗」で成り立っている。たとえば高収益企業として知られるハニーズのEC化率は5%にも至っていない。

 リアル店舗の重要性は、アパレル企業では依然として高い。同時に今回のことを契機に、EC化が急速に進むと言うわけだ。

  そして、店頭を見てみると、季節は春物へと替わり、次々に魅力的な商品が並んでいる。これらは、コロナウイルス騒動がここまで深刻化する前に、プラスワン(チャイナリスクを回避するため、東南アジア、ベンガル地方などに分散生産すること)生産した商品だ。私は、いくつかのアパレルに「夏物、その次の秋冬物は大丈夫なのか」と聞いたところ、「いまのところ、なんとかなりそうです」との答えだった。しかし、直接イタリアの工場に連絡して話を聞くと、状況は全く違っていた。おそらく、秋冬物、早ければ夏物から、イタリア生産あるいは、イタリアの生地を使っている商品などは、「ノンデリ(ノンデリバリーの略、引渡し不履行のこと)」が多発するだろう。日本のアパレルがどこでそのような間違った情報を仕入れたのかわからないが、もっと冷静に一次情報を収集し、いまから対策を練るべきだ。

  私も、生活必需品に加え新製品ラッシュの衣料品や食料品なども通販を利用する頻度が多くなった。売上の多くをリアル店舗に依存してきたアパレルはECの急拡大に対応できず、また、リアル店舗の激しい落ち込みというダブル・カウンターパンチで、春物の立ち上がりから10%20%の値引き販売をして消費を喚起させている。

 アパレル企業は今まで以上に「本気」になって、オンラインについて考え、効果のないデジタル投資などやめ、もっと戦略的な意思決定をすべきだ。多くのアパレルに出入りしている身から言うと、アパレル企業の明暗は「戦略」の差だ。

 

  問題解決の世界には、「危機的状況の時には、解決可能な課題から手を打て」というものがある。大きく落ち込む売上に精神的にも迷いが出て、営業活動も「巣ごもり」状態に陥ることが多いが、いずれにせよ業績悪化は避けられないのだ。ならば、「できること」だけでもやっておこうという開き直りが大事なのである。今、アパレル企業がやるべきは、こうした、数年に一度訪れるパンデミックに備えEC割合を高めることだ。

  3.11の東日本大震災を思い出して欲しい。全てのテレビ番組は中止となり、連日行われる原子力発電所の行方について追いかけていた。しかし、今の状況はどうだ。お笑い漫才師がテレビでバカ騒ぎをし、テレビドラマは何ごともなく連載をつづけ、コマーシャルも変わらずに流れている。考えてもらいたい。特効薬のないコロナウイルスだが、日本に限っていえば、現時点では人口の0.06%程度しか感染していない。ワクチンが開発されてしばらくたてば、経済はもとにもどるはずだ。冷静になって考えてもらいたい。テレビで報道されている数字と、日本、そして、世界の人口の比率を。

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