アングル:ソフトバンクG、自社株買いでくすぶる大型資産売却の思惑

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ソフトバンクグループによる大型資産売却の思惑がくすぶっている。写真は都内で2016年6月撮影(2020年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 18日 ロイター] – ソフトバンクグループ(SBG)による大型資産売却の思惑がくすぶっている。先日決めた自社株買い5000億円の「原資」ねん出のためだ。株式市場では好感される自社株買いだが、クレジット市場にとっては財務のバランスを崩しかねない危険な選択であり、早期の資産売却による資金創出が期待されている。相場が不安定な中で、すんなり売却できるかは見通しにくい。

クレジットと株式で割れる市場の受け止め

SBGの孫正義社長は、実質的に投資を本業とする会社に生まれ変わったと話す。自社株買いに前向きの姿勢を示しつつ、規模や時期は社債の格付けへの影響に配慮する考えも示していた。

投資会社を見る際、クレジット市場では純負債の保有株式に対する比率であるローントゥーバリュー(LTV)率が重要視される。SBGは、通常時に25%未満、異常時でも上限35%で運営する方針を示している。 足元のLTVは19%付近で、まだのりしろはある。ただ、相場が不安定な中では、保有株の株価が下落しLTVが下押しされかねない。これに加えて、LTVにネガティブな自社株買いにも乗り出した。

S&Pグローバル・レーティングは17日、SBGの長期発行体格付けを「BB+」で据え置く一方、アウトルックを「安定的」から「ネガティブ」に変更した。相場急落の中での大型自社株買いで、財務健全性と格付けを重視する姿勢に疑問が生じたとしている。 一方、株式市場は自社株買いを歓迎。追加の自社株買いにも期待を寄せる。同社株を取得している米ヘッジファンドのエリオット・マネジメントが2兆円規模の自社株買いを要求していると伝わっており、さらなる自社株買いへの思惑も根強い。 SBGは自社株買いの目的に株主還元の充実を掲げつつ、株主価値と株価の乖離も背景の一つとした。2月の決算発表時には株主価値25兆円に対し、時価総額約12兆円と開きがあった。 SBI証券の森行眞司シニアアナリストは「狼狽売りの流れの中で『安い』という判断はあってしかるべき」と前向きな評価を示す。自社株買いは自社の株価が安い時に買い付けるのがセオリー。株価が安ければ、同じ金額でより多くの自社株を買い付けられる。

資産売却が一つの解決策に

こうした両者の「相克」を解決する1つの手段が資産売却だ。S&Pは格付けを据え置いた理由の一つに、新規投資の抑制や資産売却などで自社株買いの財務への悪影響を吸収できる可能性があるとした。S&Pの西川弘之上席アナリストは、SBGの保有資産は「規模が大きく、上場資産が7割超で流動性も高い。平均的な信用力も高い。質の良い資産」と話す。

過去のSBGによる大規模な自社株買いは、資産売却とセットだった。昨年2月発表の6000億円の自社株買いでは、通信子会社ソフトバンクの上場で得た資金を活用。16年の5000億円規模の自社株買いでも、手元資金に加え、保有資産の売却資金を充当した。クレジット市場はこうした「配慮」を期待していたが、いまのところ具体的な資産売却の話は出ていない。 SMBC日興証券の原田賢太郎シニアクレジットアナリストは、資産売却を伴わない自社株買いが今後、増えていくようなら「市場環境に左右されやすい性質がより強まりかねず、クレジット投資に際して長期のリスクを取りづらくなる」と指摘する。

もっとも、現在のような経済、市場の状況では、株式とクレジットの両市場が満足できるような価格で資産売却できるかは不透明だ。SBI証券の森行氏は、経営体力のあるSBGは相場が戻るまで待つのが得策と話す。「乱調相場はいつまでも続かず、いずれ相場が改善すれば売却可能な資産や資金調達の手段も増える」と指摘する。

SBGの孫社長は、虎の子のアリババ株について今後も成長性が見込めるとして売却に否定的な立場だが、その一部の売却はあり得ると市場では見られている。傘下の米スプリントとTモバイルUSが4月に予定する合併後に、相場動向を見ながら持ち分の一部を売却するとの思惑もある。

17日には、SBGが米シェアオフィス大手・ウィーワークへの30億ドル相当のTOB計画の撤回を検討しているとの観測報道も伝わった。S&Pは、SBGがウィーワークに対する巨額支援を打ち出したこともネガティブと捉えている。S&Pの吉村真木子主席アナリストは「財務方針通りの行動が実行されるか待つ必要がある」と話す。

SBGは、LTV25%未満の維持と2年分の社債償還資金の保持という財務方針について「変更はなく、引き続き順守していく」とコメントしている。

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