働き方改革が進み、残業時間削減や有休休暇促進、在宅勤務に踏み込む会社が増えてきた。それにともない、働きやすい職場が注目されている。本シリーズでは、部下の上手な教育を実施して働きがいのある職場をつくり、業績を改善する、“働かせ方改革”に成功しつつある具体的な事例を紹介する。
いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。諸事情あって特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に「ここがよかった」というポイントを取り上げ、解説を加えた。
今回は、ITツールを使い、効率的な会議をする方法を紹介したい。コロナウイルス感染拡大対策で在宅を進めようとしている企業も多いと思うので、参考になるはずだ。
第10回の舞台:IT企業
(社員40人)
ハングアウトで遠隔会議
Backlogで情報共有
現在、200を超えるソフト開発のプロジェクトが進行中だ。それらを統括の立場で時間や予算の管理などマネジメントをするのが、取締役の男性だ。
この企業は、創業6年目。3年前に、新卒や中途の採用を正確に効率的に進めるソフトを開発した。1年程前から人事、労務の関係者の間で静かにヒットし、業績を拡大してきた。半年ほど前に、大手のベンチャーキャピタルから資本提供を受け、ジャスダック上場を念頭に躍進している。
会社の生命線である多数のソフト開発を効率よく進めるために頻繁に使うのが、ITツールだ。特にグーグルのコミュニケーションツール「ハングアウト」と、チームコラボレーション「Backlog」が中心となる。
取締役たちが外部の開発会社のエンジニアとプロジェクトの進行について話し合う場合はまず、パソコンの前で双方が内臓のカメラに自分を映す。次に、「ハングアウト」を使うことで相手の画面に自分が映るようにする。互いのやりとりを「ハングアウト」でリアルタイムに行えるようにする。
「Backlog」は、各プロジェクトのふだんの作業についての情報共有を進めるものだ。随時、エンジニアたちがチャットや掲示板に書き込み、それに対し、取締役が迅速に答える。やりとりをすることで、1週1回の「ハングアウト」を使った話し合いを一段と深いものにしてきた。その意味で、2つのツールは互いに支え合うものと社内では位置付ける。現時点では2つ以外のツールは通常、あえて使わないようにしている。
「ハングアウト」を使った会議には、会社側からはある時点までは、取締役が1人のみが参加する。決裁権を持つ社長は取締役とエンジニアの話し合いが終了した時点で加わり、5分ほどでその場で承認していく。ムリ、ムダ、ムラを省き、効率よく進めるためだ。
社長は、1か月ほど前、私のヒアリングにこう答えていた。
「ITツールを使うほどに、会議を減らすことができる。我々は、会議の場で不必要なことは話し合わないようにしている」
新卒採用者の定着を図り、社内組織の協力体制を構築
今回は、ITツールを使い、会議の効率化を図り、働きやすい職場づくりをしている事例と言える。最近は増えてはいるが、これはある意味での盲点があるケースなのだ。私が導いた教訓を述べたい。
ここがよかった ①
ITツールの効果的な使い分け
最近は、ビジネスの現場で従来のメールや社内のイントラネットに加え、チャットツールやスカイプ、フェイスブックなどを使うケースが増えている。しかし、その使い分けとなると、一部では混乱している場合すらある。それぞれのツールの効果や用途が社員たちに十分には浸透していないとも言える。言い換えると、ツールを使う際の業務の内容や課題が正確に理解されていないと捉えることができる。実は、これは盲点なのだ。
たとえば、今回は、会議で外部のエンジニアとのITツールを使う話し合いに参加するのは、取締役のみ。この会議には、相当な範囲で権限を握る取締役が1人で概ね決める。しかも、ふだんから取締役がエンジニアと「Backlog」を使っているから深い話し合いになる。最後に社長が加わり、承認をするほうが効率的で、合理的と判断をしたためだ。このように会議の目的や意味を心得ているから、ITツールの使い分けができるのだ。
ここがよかった②
不要な話し合いはしない会議
会議で無駄な雑談をする場合があるが、これも効率化を妨げる一因になっている。この事例では、トップ自らがそれを認識している。「ITツールを使うほどに、そのような会議を減らすことができる」のは、確かにその通りだと私は思う。だが、「会議の場で不必要なことは話し合わないようにしている」ことを理解し、実践している会社は依然として少ないのではないだろうか。
この会社の規模ならば、社長や役員の考えが相当に大切だ。つまり、経営陣の明確な考えや意識→業務の内容や意味、目的の正しい理解→ITツールの使い分けとなる。この一連の流れがないと、まず上手くはいかない。私の観察ではこの流れをつくらないまま、各部署や個々の社員がバラバラに、ゲリラ的にITツールを使っているのでないだろうか。
神南文弥 (じんなん ぶんや)
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。
連載「私は見た…気がつかないうちに部下を潰した上司たち」はこちら