第115回 「売ったらおしまい」にあらず!モノが売れない時代に改めて考えたいSCの役割
「モノが売れなくなった」と言われて久しい。しかし、本当にモノは売れなくなっているのだろうか。今回は、この点についてじっくり考えてみたい。

小売業の推移と不調の印象
コロナ禍前の2019年と比べ、2024年の小売業の売上高は減少しているどころか年率約3%で増加している(図表1)。最近の物価高の影響もあるが、決してモノが売れなくなったとは、このデータからは言い難い。
では、なぜ、「モノが売れなくなった」というイメージがあるのか。それはショッピングセンター(SC)など商業施設がこれまで主として扱ってきた分野「織物・衣服・身の回り品小売業」の不調によるものである(図表2)。「飲食料品小売業」はコロナ禍に左右されることなく堅調に推移している(図表3)。
常に売れる3つのモノ
本連載第35回でも解説したが、売れるものは、消費者にとって、①必要なもの、②心が躍るもの、③課題を解決するもの、この3つに収れんされる。最寄り品である食料品や医薬品など人が生きていくために必要なもの、たとえば、牛乳、卵、米、洗剤などが、その典型だろう。
一方、生活に必要ではないものでも、消費者の気分が高揚したり、生活が豊かになったりする買回り品や贅沢品は、衝動買いにつながる。会社帰りに見つけたおいしそうなスイーツや、”推し活グッズ”などはその典型であり、壊れたわけでもないのに新機種が出るとスマホを買い替えるのもその一例である。
そして、冬の寒さ対策に買う保温性下着、健康維持のためのジムやスポーツ、老化防止のための化粧品、資格取得のためのスクールなど各人が持つ課題を解決する商品やサービスに、消費者はお金を払う。テレビCMでもお馴染みの筋肉質で痩せた体形を獲得するジムには相当の金額が必要だが、多くの消費者が駆け込む。ユニクロの「ヒートテック」も、冬を暖かく過ごしたいという課題を解決するからこそ買う。ヒートテックそのものが欲しくて買う人は少ないだろう。
逆を言えば、①生活に必要のないもの、②心が躍らないもの、③課題を解決しないもの、を売ることは難しい。「うちの店はなぜ、売れないのか」「このブランドはなぜ売上が低下していくのか」。こうした悩みを持つ店舗や企業は、流行りのデータベースマーケティングなど難しいことはさておき、まずこの3つを考えて欲しい。
自らの提供する商品やサービスは、消費者が生きていくために必要なものなのか、客の心を高揚させているのか、消費者の課題を解決しているのか、もし、どれにも当てはまらないようなら再考の余地があるだろう。
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