正しいTOC(制約理論)の理解 余剰在庫と欠品が激減する本当の理由!
店間移動は善なのか、悪なのか その驚きの答え

河合 店間移動といってもいろいろあり、場合によって考え方が変わってきます。例えば、「客注」といって、Aというお店に在庫がないのに、Bというお店には在庫がある。宅急便で送ってもらえば数日で到着する、というセレクトショップでは一般的になっているようなケースですね。この場合は、当然、BからAへ在庫を動かすことになります。
次に、そもそも店のVMD(Visual merchandising: 店頭内での商品の陳列、飾り付けなど、お客様の導線、打ち出し商品、コーディネートの参考など色々な販売戦略をミックスさせて店をリッチにする手法)がある程度きまっていれば、ある商品の46 (イタリアのサイズ)のネイビーだけ極端に売れるなど、商品が歯抜けになってきます。そうしたときに、さらに、VMDを工夫し、欠品を覚悟して売ってゆくわけですが、どうしても動かない商品は、そのブランドのフラッグシップショップに「集約」して売る場合があります。
この場合、2種類の考え方があって、在庫を1カ所に集めて売れ筋をみてMDが配分する。配分が偏ったら在庫を「横持ち」(よこもち:店間移動)して全体最適(売上がマックスになるようなVMDを組む)を実現する、などです。
質問に答えると、一度配分された商品は、その店舗で原則売り切るべきですが、シーズンが動き出したら、横持ちも激しく動き出すのは仕方ないと思います。
もう少し、この問題について話させてください。私が、あるファッションビルのコンサルティングをしたとき、横持ちの禁止を徹底していました。私が、「大きな機会ロスや余剰在庫が発生するからだ」と社長に説明しに行ったところ、社長はそんなことはわかっているんですね。
しかし、それぐらい強いメッセージをださないと組織は動かない。ましてや、100を超える店舗や1000を超える販売員をつかっているような企業であれば、なおさらです。ですので、どこのポジションで景色をみているのかが決定ポイントになるのですが、現場には「禁止!」と伝え、売らせる。経営会議では横持ちは当たり前で、「集約」という言葉で売れる店に商品を動かす。この二階層になっているのが正解です。
飛田 横持ちの意思決定は複雑なのですね。TOCには、「スループット会計」と呼ばれる、儲けるための意思決定をサポートする知見があります。究極まで単純化しますと、「使ったお金よりも、入ってくるお金(利益)が多いならば、やるべきだ」という考え方です。
ただし実際には、「使うお金をとにかく減らせば、節約した分、利益が残る」と考えて行動してしまうことも多いものです。店間移動にはお金と労力が必要です。店舗スタッフは商品をピックアップし、宛先店舗ごとに梱包し、宛名を書き、配送依頼をし、実際に物流経費をかけてモノを動かすわけです。一方、店間移動で動かしたその在庫が、移動先で売れて利益が生まれる保証がないところが怖いところです。
しかし経営的に、全体を俯瞰すれば、在庫の偏在は必ずありますから、店間移動を活用して、在庫を均したり、集約したりしない手はありません。ここでもAIが活躍する時代になっています。各店舗の作業(出し先の店舗数や、商品数)を作業可能な量に抑え、輸送費も最小化、それでいてサイズ崩れによる戦力ダウンを最小化し、期待される売上向上額が十分大きい。こんな店間移動の作業リストが自動で生成できるのです。
この裏側では、膨大な組み合わせ最適化計算を必要としますので、人ではとても無理です。使ったお金以上に、確実に儲けが増えるオペレーションを取り入れれば、会社に入るお金の最大化につながる。こんな形で、稼げるアパレル業界を作ることに貢献していきたいです。
河合 ゴールドラットコンサルティングが、単なるIT屋でなく、業務の深いところまで入り込み、本質的な改革を行っていることがよくわかりました。
飛田さんとの2週にわたる対談で、TOCに対する理解がとても深まりました。TOCは、ひと言で言えば全体最適化をするということですね。その中心軸にMDがあり、SCMがあり、ECがあり、ERPがある。そこをデータ、商品(サンプル、現物)、金などが動き回るが、それらが全てリンクしている全体最適化を実現するのがOnebeatだということです。
サプライチェーンの在庫をどこにどれだけ置くかが、TOCであると思っていましたが、こうしてつながれた複雑な道路をキレイに高速走行できるような道をつくる。その道は、上流工程から下流工程まですべてに影響を与え、より精度を高めてゆく。いわゆる全体最適がTOCの本質なわけですね。
お忙しい中、2週にわたりありがとうございました!
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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