正しいTOC(制約理論)の理解 余剰在庫と欠品が激減する本当の理由!

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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「経年データはほぼ意味がない」のがアパレルの特徴

Natee Meepian/istock
Natee Meepian/istock

河合 アパレル・ビジネスで失敗する理由は常にここにあります。例えば、食品スーパーやコンビニエンスストアなどを想像してください。牛乳、野菜、魚、肉など、同じ商品を一定量、毎日仕入を行っています。だから、同一商品の経年変化も見えるし、対策も立てやすい。ところが、アパレル商品は、今年のパンツと昨年のパンツは同じパンツでも、色やデザインが全く違い、売れ行きも大きく変わってきます。

 つまり、経年のデータは食品スーパーやコンビニでやっているような分析には使えないというわけです。ですから、私は10年ぐらい前からQRによる売り増し型の考え方には反対しているのです。今年のパンツは今年だけで、色、デザイン、素材、販売時期、値段などはその年だけに使えるもので、来年には参考情報程度になってしまいます。

飛田 勉強になります。過去データを使って予測が可能なものと、そうでないものがあるということですね。TOCの創始者であるゴールドラット博士も、「関連のないものを関連づけるな」と言っておりました。

 食品スーパーの日配品(例えば、特定ブランドの1リットル牛乳パック)などは、数が売れるので、その日の来客数予測と、商品の売れ行きを関連づけて予測できます。一方で、ある店舗で一日に一枚うれるかどうか分からない衣料品(特定品番のパンツのLサイズ)の場合、来客数が分かっても、変数が多く、いくつ売れるかを言い当てるのは難しい。

 そういう商品はデータを得るまでに長い日数がかかることに加えて、その需要そのものが、ころころ変わっていくとしたら、在庫回転日数によるコントロールはナンセンスだと言えると思います。衣料品は難しい業界で、そもそも天気予報さえろくに当たりませんし、競合店にも類似商品があり、ネットで販売される商品の価格をすべてはチェックできません。

 そんな中でも、在庫運用の成績を上げる方法はあります。ゴールドラット博士は、「現実を直視する勇気を持て」と言っておりました。売れるはずと思って、商品を買い付けても、売れないこともあります。ここで、現実を認めて、素早く反応することが肝要です。シーズンオフまで待っていては、利益を削って処分する以外に打ち手がなくなってしまいますから。昨年のデータが役立たない「今年のパンツ」の例がありましたね。現実のアパレルチェーン店のデータを見ると、ある店舗では良く売れているのに、他の店舗ではあまり売れていないということが多いのです。

 この傾向は販売ランキング中位くらいの商品で顕著です。同じサイズの店舗であれば、シーズン初期にとりあえず3枚ずつ商品を投入するかもしれませんが、現実の売れ行きは店舗ごとに違ってくる。

 ここに、素早く反応するのが、儲けるポイントです。具体的には、次のフォロータイミングで、どの商品をどの店にいくつ入れるかということです。すでに、直近の需要変化を捉え、オペレーションの所与の条件まで加味しつつ、高度なデータ解析を通して、最適フォロー量が自動で提示される時代になっています。

 これに関連して、河合さんに一度聞いてみたいことがありました。「店間移動」です。

 店間移動は善なのか、悪なのかどうお考えですか?

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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