儲かるアパレル、儲からないアパレルの違いが判明!「TOC」をわかりやすく解説!

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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余剰在庫を減らすのではなく在庫が余らないように先手管理する

Parradee Kietsirikul/istock
Parradee Kietsirikul/istock

河合 「全体最適」のコンセプトをもう少しくおしえてもらえませんか?

飛田 「全体最適」の反対である、「部分最適」を考えると分かりやすいです。調達部門はなるべく安く仕入れる、物流部門はなるべく安く運ぶというように、それぞれの部門が自部署のKPIを追求する行動をとることが「部分最適」です。

 しかし、安く調達できた服が、100枚のうち50枚しか定価で売れない、ディスカウントしてもあと20枚しか売れなかったら? 30枚の売れ残りは、1年寝かせるか、アウトレット行き、シーズン後の財務成績は散々な結果になります。

 全体最適の考え方では、業務のつながりに着目し、流れの改善に注力します。調達、物流、販売というモノの流れがありますよね。この中で、「制約」はどこかを考えるのが最初のステップです。「制約」とは、能力を少し上げたら、利益(のように最終的に上げたい数字)もそれに応じてあがる場所のことです。調達、物流、販売のつながりでは、「制約」は、ほぼ「販売」になります。(もちろんディスカウントに頼ることなく)「販売」が1%あがれば、利益もそれに応じてあがりますから。

 見つけた「制約」を最大活用するのが次のステップです。販売機会は限られていますので、利益の取り逃しがないように業務をするということです。これができていないことが多いんです。一消費者としての経験でいうと、せっかく買おうと決めた服が、自分のサイズがなく、購入をあきらめたという経験は一度や二度ではありません。流れはここでストップし、最後の販売に至らなかったわけです。

 実は、コンサルティングの仕事を通して、店舗網全体の在庫状況を俯瞰して見るようになって分かったことがあるんです。それは、ある店舗では、商品の在庫が切れていて機会損失が起こっているのに、別の店舗では在庫が4枚も余っているケースは珍しくないということです。売り切れが起こる原因には、仕入れ時の予測が少なすぎて思った以上に売れたという場合もありますが、仕入れた在庫が店舗間に偏在していることで、本来は得られた売上を取り逃していることも極めて多いのです。システムの力を使ってこれを正すだけで、売上が15%上がったという例は、珍しくありません。

河合 セレクトショップなど、余剰在庫の解決を謳うシステムを販売している企業はたくさんありますが、それらとはどこが違うのでしょうか。

飛田 余剰在庫の問題に取り組もうとしているシステムは、複数あります。しかし、それらのほとんどは、どの在庫が余っているのか、どの在庫はよく動いているのかを集計して「見える化」してくれるシステムにすぎません。余っている在庫が分かれば、それらを処分するための手を打つことができます。これは、従来、アパレル企業が手作業やってきた業務の一部を自動化することで、在庫処分によるロスを少しでも小さくしようとする試みであると考えています。

 一方で、従来の業務プロセスを変えようとしていませんので、本質的な変革や競争力強化にはつながらないことも多いと言えると思います。実際改善幅が1~2%に留まるケースも報告されています。各商品の売れ行き計算はシステムが自動でやってくれますが、計算結果を分析し、意思決定し、現場に伝え、実行させるのは人の仕事で、属人性が取り除かれなく、行動までに時間がかかるために、大きな改善につながりにくいのだと思います。人が受け持つ部分が多いと、店舗数やSKU数が増えるほどに、全部には目が行き届かないということも効果が頭打ちになる原因の1つです。

 当社のシステム、Onebeatは、現実の変化に即応しながら、各店舗、各SKUの「適正在庫数」を最適化し続け、即作業(出荷や店間移動)可能な作業指示を自動で出力できるAI(人工知能)です。Onebeatは、「見える化」し、「分析」するというステップはコンピュータがやってくれ、店舗ごと、SKUのきめ細かい管理を毎日、精度良くこなしてくれます。人手が足りないと、大型店だけ、売れ筋トップ100だけという重点管理に陥ることが多いものですが、ややサイズが小さい店舗や、売上中位の商品でも、いつどこに在庫を置くかでプロパー消化率も、最終消化率も上がります。初期投入、シーズンのピーク、ピークアウトの時期、キャンペーン時、そして地域ごとに異なる気温変化や好まれる商品に応じて、最適在庫数を調整し続けられるのです。そこにピタリと合わせてくれることが最大の特徴で、疲れ知らずの「スーパーディストリビュータ」を雇ったようなものです。結果、余ってしまった在庫をどうにかするという発想ではなく、そもそも在庫が余らないように、初期の段階から精度を上げ、プロパーで販売できるものを最大化するという先手管理ができるのです。

河合 なるほど。それはおもしろい。余剰在庫削減だけでなく、そこにさらに他の部分も全体の動きが同期化するというメリットがあるわけですね。昔、ビルゲイツが「思考スピードの経営」という書籍をだしましたが、思い出しました。そうなると、巷に溢れる余剰在庫削減のパッケージより高い精度で在庫ロスが減り、欠品が最小化されますね。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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