イオン(千葉県/吉田昭夫社長)グループで、ペット用品販売のほか、動物病院、グルーミング、ペットホテルなどペット関連サービスを展開するイオンペット(千葉県/米津一郎社長)。1998年の創業以来、堅調に成長を続け、現在はペット用品販売193店舗、グルーミングサロン172店舗、ペットホテル155店舗、動物病院53院を擁する。犬や猫をはじめとするペットとの暮らしが当たり前となる中、同社はどのように市場顧客ニーズに対応してきたのか。本稿では、リテール事業を管掌する新田健一取締役と動物病院事業・グルーミング事業・店舗開発を管掌する小倉政光取締役に聞いた。
販売チャネルの多様化への対応に注力
ペットフード協会の調べによると、ペットフードの市場規模は右肩上がりで成長を続け、2022年度で3875億円に達した。飼育の支出額も年々増えており、とくに犬では、小型犬以上のフード・医療費の増加が目立つ。猫に関しても犬ほどではないが主食・おやつの支出が増えている。一方で、23年における犬の飼育頭数は対前年比約20万頭減の約684万頭、猫の飼育頭数は前年から横ばいの約906万頭となっている。
そうした状況下、ペット関連商品の販売チャネルの構成にも変化が見られる。依然としてホームセンター・ディスカウントストアが強い領域ではあるが、近年はECやドラッグストア、スーパーマーケットの構成比が上昇し、ペットショップは低下している。コロナ禍を経てペットに向き合うニーズが着目されるようになり、各業態が売場面積を拡大させたことが影響している。
そのような状況について、新田氏は「各チャネルにおいて商品・サービスの専門店化が進み、従来の事業モデルのままでは差別化がしづらくなった」と分析する。飼育頭数は減っているものの、犬と飼い主が向き合う時間が増えたことで健康や衛生、飼い主と動物とのコミュニケーションに関する商品・サービスへのニーズは高まっているという。
他方、猫の飼育頭数は横ばいで推移しているものの、これは譲渡や拾い猫の実態を把握しきれていない事情を鑑みると、実際の飼育頭数は増えている可能性も考えられる。猫関連の商材の売上も伸長しており、同社を含め犬中心から猫関連用品にも注力するメーカー、ショップが目立つようになった。
販売チャネルの多様化は、イオンペットのような専門店にとって脅威となるのだろうか。「ペットオーナーの視点でとらえると身近な場所で商品が手に入るのはよいこと。こうしたペットオーナーの生活様式の変化に伴い、当社の事業モデルや商品提供のあり方も革新していくことが重要だ」と新田氏は語る。
イオンモールを中心としたショッピングセンターに出店している強みに加え、自社ECサイトを生かしながら、日用品のみならず、アパレルや健康関連など付加価値型の商品やサービスを強化し差別化を図りたいとしている。
実際、店頭の売上に占めるナチュラル系やオーガニック系のプレミアムフードや、コミュニケーションツールとしての役割を持つおやつの割合が増えているそうだ。今後は店舗のコンテンツ強化にチャレンジしたり、病院・サロンサービスも増やしたりしたいと考えている。新たな試みとしては、イオンモール幕張新都心内に保護猫の譲渡施設を一体化した猫の専門店もオープンし、多店舗展開をねらう。今後も猫をはじめとする人気カテゴリーを深堀りし、業態開発に着手していく。
顧客データを活用しPB・SBの拡大を狙う
商品開発や展開においては、グループ全体での最適化が重要になる。イオンペットはストアブランド(SB)の「PETEMO」を通じて、付加価値型商品の提供を中心に据えてきた。小売事業、グルーミング事業、動物病院事業の3事業を保有しており、獣医師や愛玩動物看護師、しつけトレーナー、グルーマーを直接雇用しているのが強み。こういった知見を商品開発に活かし、専門性が高くペットオーナーに寄り添った商品開発を推進したい考えだ。
イオングループのプライベートブランド(PB)商品比率とイオンペットのSB商品比率をあわせて、オリジナル商品の売上高構成比率を5割までに将来的には高めたいという。ペット業界の専門店化が進むなか、品揃えは差別化要因となり、商品開発を加速させることは急務だ。「PETEMOブランドはトップバリュ商品とともに各カテゴリーの顧客ニーズに対応することが求められる」と新田氏は語る。
近年のヒット商品の一例が、猫向けのおもちゃ「ネズミのしっぽロングニョロ玉」だ。よくある猫じゃらしとは異なり、不規則な動きが猫の狩猟本能をくすぐるのが特徴で、ユーザーがSNSにアップした動画が話題となった。イオンペットでは従業員の約8割が現在・過去にペットと暮らしており、こうした経験が商品開発に生かされているという。犬用の商品では布製品のおもちゃ「スリッパトイ」がヒットし、犬用おもちゃ部門で1位となった。単純に遊ぶものではなく、健康やコミュニケーションにつながるといったプラスアルファの機能を持つ商品がより求められるようになったと新田氏は分析する。
こうした商品開発に生かされているのが、WAON IDをはじめとする顧客データだ。イオンペットにおけるWAON会員数はのべ200万人を超えており、2025年からは顧客データに基づいたone to oneマーケティングを稼働させる予定だという。ペットとの出会いから予防接種、食事、ケアをトータルでサポートするネットワークの形成をめざす考えで、顧客軸に加え、ペット軸でアプローチしていきたいという。
高度医療を提供する医療センターを拡充
そのほかイオンペットは動物病院事業にも注力しており、高度医療を提供する「ペテモどうぶつ医療センター」をはじめとし、50以上の医院を展開している。今後の方針について、「あまり(病院の)拠点数は追いかけておらず、現在はサービス内容を充実させている」と小倉氏は述べる。
従来は多くの人が集まる利便性の高いショッピングセンターで敷居の低い病院を開設するのがコンセプトだったが、新規出店のショッピングセンターの数は減っている。なおかつ犬の高齢化が進み医療ニーズは増えていることから、専門的な医療を提供できる病院が必要になってきた。
「CTなどの設備があり、白内障の治療ができるセンター病院が全国に8拠点あるが、2030年までに10拠点まで増やしたい」と小倉氏は目標を語る。動物病院の開業は初期投資が大きく急拡大はできないが、底堅いニーズを期待できるのが強みだ。
現在は小売事業と動物病院事業でポイントを連携しているが、将来的にはDXにより顧客情報を一元管理し、医療情報をもとに商品購買につなげるとともに、その反対も想定している。また、譲渡施設などペットと触れ合う機会を増やし、ペットとの豊かなくらしを未来にもつなげたい考えだ。