ユニクロがこれまで自社工場を保有してこなかった根本理由

河合 拓
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Product Lifecycle Management(PLM)とは、製品の開発・設計・製造といったライフサイクル全体の情報をITで一元管理し、収益を最大化していく手法である。欧米の有力アパレルチェーンでは続々導入が進んでいるのだが、日本のアパレル企業ではほとんど導入が進んでいない。その理由について、これまでファーストリテイリングが自社工場を保有してこなかった理由と合わせ、解説していきたい。

Photo by Wachiwit
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世界で広がるPLM が日本では全く導入が進まない理由

 2016年某日、私はペニンシュラホテルのカフェで2人の外国人とミーティングを行っていた。相手は世界的に有名なProduct Lifecycle Management(PLM)パッケージベンダーのCEOである。なおPLMとは、製品の開発・設計・製造といったライフサイクル全体の情報をITで一元管理し、収益を最大化していく手法である。

 彼は、アジアの経済大国、そして、世界でも広大なアパレル消費国である日本でPLMパッケージの導入が進まない理由が理解できないということで、私をこの領域の第一人者とし、その理由を理解すべくディスカッションを求めてきたのである。議論はすべて英語だった。今から3年前の話である。

 私とのミーティング後、彼らはファーストリテイリング代表取締役会長兼CEO、柳井正氏と会うという。このような大物とどんな話をするのか私は知るよしもなかったが、同社がPLM導入を進めている、あるいは検討をしていることは明らかだった。 

 PLMパッケージがカバーするアパレルの生産領域業務フローについて、残念ながら、日詳しいコンサルタントやデジタルベンダーは日本では皆無に等しい。アパレルメーカーの人間もさることながら、商社IT担当者であっても、調達、生産管理業務については、エキスパートと言える人間は私の知る限りそれほど多くない。

  アパレル「メーカー」といっても実態は名ばかりで、生産を商社、そして、その上工程である生産工場に委託し、自らは「調達業務」を行っているいわばファブレスメーカー(工場を持たない製造業)である。私は、このブラックボックス化した生産管理、そして、調達業務の「ど真ん中」で、9年の実務経験を持つコンサルタントである。

  私は、この20年、大きく分けて二つの仕事をしてきた。一つは破綻企業の再建、そして、もう一つは生産領域の改革だ。手がけた生産領域改革プロジェクトは20件を下らない。そして、それらのほぼ全てにおいて5ポイント以上のコストダウンに成功し、事業再建に大きな貢献をした。当初私は、「商社キラー」と呼ばれたが、逆に、私と一緒に改革をしたいといってくれた商社も現れた。「もう口銭商売を続けてゆく時代ではない」という私の考えに彼らは賛同し、企業のターンアラウンドの仕事に多大な協力をしてくれた。私は幾度も彼らに助けられた。

 ファーストリテイリングが、なぜあれだけの事業規模を持っていながら、自家工場を保有してこなかったのか。その理由は、「売場」と「作り場」では、KPI (主要業績評価指標、その領域にとって最も重要なパフォーマンス計測数値) が異なり、例えば、「売場」では交差比率といって商品回転率が最重要視され、「作り場」では稼働率が最重要視されるからだろうと思う。今となっては、私は、同社は自家工場を持つべきだと思うのだが、同社の戦略の根幹に関わることだ。私には関係の無いことである。

 

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