ヨレヨレ、雨シミ、臭い?それでもバーバリーなど英国3コートブランドが愛されるワケ
糊が剥がれ、ヨレヨレになるマッキントッシュのゴム引きコート
バーバリーのコートがギャバジン編みという「編み方」で特徴を出すとしたら、加工で防水をだしているのがマッキントッシュである。余談ながら、三陽商会がMacintosh London (マッキントッシュロンドン)というフルラインナップの高級ブランドをだしているが、あれは、バーバリーのライセンス契約を失った後に三陽商会が立ち上げたブランドで、イギリスには存在しない日本だけのブランドであることは意外と知られていない。
そのコートは独特だ。私がヘビロテ(ヘビーローテーション:何度も何度も着る)する一着である。これは、やはり綿糸で台紙のようなものにラバライズ(ゴムをとかした液体を何層にも重ねて塗る)し、サンドイッチのように綿糸でできた台紙を重ね合わせて引っ付ける。このコートは縫い目の裏地に防水テープを貼り付け完全防水を実現しているのだが、この部分は“縫製”をしておらず、糊(のり)で貼り付けている。糊が乾けばコートはパリパリになってピンと立つ。このコートも、バーバリーと同様非常に扱いが難しい。まず、信じられないことだがポケットの糊がはずれて穴が空く。縫製がないものだから、専門家に直してもらわないとならない。さらに、いくらラバー(糊)をサンドイッチ構造にしているからといえ、裏も表も綿糸でできているのだから、直ぐにシミがつく。
私のように、ファッション大好き人種にとって、このようにヨレヨレになったコートが格好良いと思うのだが、普通の人がみたら「だらしない」ように映るに違いない。一度、どこまで防水・撥水性が高いか試すため、雨の日にマッキントッシュのコートをきて外出したことがあるが、コート中がシミだらけになってヨレヨレになってしまった。また、ポケットや前後の剥ぎの部分の糊が溶けてはずれボロボロになってしまった。その日から、「雨の日にマッキントッシュは着られない」という、なんとも不思議な約束ごとができてしまった。
でもこういうことがご愛敬。「これがファッションだ」と割り切れない人は、マッキントッシュのコートは高く付くだろう。マッキントッシュのコートの洗濯表示を見るとすべて×になっている(つまり、何もできない)が、イギリスの本社がオーソライズした工場が日本にあって、そこでならクリーニングもリペアもできるため、私も2年に一度の頻度でお直しにだしているのだが、修理費に毎回3~5万円もする。当然ながら、新品のコートが買える値段だ。こんなところからも、ファッション好き以外は着られないコート、それがマッキントッシュである。
オイルで汚れるからしまうのにも気を遣うにもバブアー

最後が「バブアー」である。今回紹介する撥水性の3つのブランドの中でもっとも扱いが難しいが、ファッション好きがはまるのがバブアーだ。このバブアーも素材は綿糸であるが、なんとオイルを服に塗りたくるのだ。当然、服はオイルでベタベタ。匂いも独特のオイルの匂いがするから、無造作にクローゼットに入れることなどできない。私も1-2年着たら、洗濯機で洗い、オイルを洗い落とす。別売りのオイル(缶に入っている)を服に塗ってベタベタにするのだ。オイルは強烈で、寒い風も全く通さない。もともとのオリジナルは、北海の不順な天候の元で働く水夫や漁師、港湾労働者のために、防水性、耐久性の高いオイルドクロス製ジャケットを提供したのが始まりである。
非常に扱いが難しい服だが、私が最も愛用している一着だ。
ゴアテックスやユニクロでいいじゃないか、という声が聞こえてきそうだが、ファッションというのはこういう「無駄」や「歴史」を装うことなのである。みなさんも今年の冬に一着いかがだろうか。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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