最近、アパレル産業が徐々に移り変わっていることを感じている。「アパレル産業はもうダメだ」と言われ続けて久しいものの、「衰退期がない」産業だけに他の消費財とは事情がまったく異なるのだ。例えば、フィルム式カメラがデジタルカメラにかわるように、消費財は「成長期」「衰退期を」経て、まったく異なる消費財に変わってゆき、やがてなくなってゆく。しかし、衣料品は、どれだけ年月が経とうと人間がいる限り、そこには服があり、服のビジネスもあり続ける反面、大きなイノベーションといえる変化は起こりにくい。その意味で、アパレル・ビジネスには衰退期がないまま、進化も退化もせずに時間がすぎてゆく。人口が増加すれば、その分衣料品の数も増えてゆくのである。それでも、着実に変化が起こっている、それが今回の論考のテーマである。
売上100億円の超高収益アパレルの台頭
アパレル業界の最大の変化は、売上高100億円程度と小規模だが、きわめて調子のよい企業が少しずつ表れてきたということである。たとえば私が相談にのっている企業の売上高は150億円と小粒だが、営業利益は10億円と高い収益性を誇っている。話を聞く限りではバランスシート(貸借対照表)も「綺麗」(資産に不良在庫も積みあがっておらず、借入金も適正範囲内ということだ)で、プロパー消化率は80%、残品率は5%以下である。
売上100億円前後ながら、こうした超優良企業の特徴は以下の6つである。
- ディレクターなど企画担当がおらず、社長がそのままディレクションをしている
- KPIがほとんど存在しないか、あっても、まともに使われていない。感性を大事にする
- 単品の完成度が高く、商品は高額である
- 中には、Made in Japanで主たる顧客はインバウンド(訪日外国人)である(普通のアパレルの逆)
- プロパー消化率は80%を超え、在庫はほぼ残らない
- ネット販売に強く、初期はZOZOTOWNなどで販売し、大きくなった
例えば、昨年アパレル業界の話題をさらったマッシュスタイルホールディングスやTOKYO BASEが、このタイプなのだが、マッシュのように1000億近くまで企業として成長するのは希だとして、「ミニマッシュ」ともいえる小型企業が次々と現れているのだ。アパレル産業は人が存在し続ける限り終わりがなく、成熟期にさしかかると、進化も退化もしなくなり、オペレーション勝負になるというのが特徴だ。
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ユニクロと共通する高収益のポイントとは
ここで、一つの疑問を持つ方もいらっしゃるだろう。ビジネスの基本として、規模の大きい大企業ほどバイイングパワーを活用して安く仕入れられるから、低い原価率を実現できる。適正な価格で販売さえすれば高い利益率を確保でき、それは企業規模の小さな企業よりも優位ではないか、と。
だがそれは、アパレル産業においては誤った認識である。
アパレル企業が高収益になるのは、「余剰在庫を残さない」からだ。上で挙げた超優良アパレルのプロパー消化率は80%と極めて高いのだ。
なお、仕入れた商品を売り切って、余剰在庫が残らなければ企画原価率の逆数が粗利益率となる。
具体例を挙げて説明したい。アパレル企業が調達原価率35%の商品を1万円で売るとする(調達原価(=3,500円)。10個商品を仕入れた時、それがすべて売れれば10万円の売上となり、粗利益高は6万5000円となる。しかし、8個しか売れなかったらどうなるか?すると8万円の売上に対し、粗利益高は5万2000円となる。さらに売れなかった2個分の調達原価7,000円(=3,500×2)をどこかでマイナス計上しなければならなくなる。
だから、アパレルは期末になるとセールで売価を半分ぐらい下げて(最近では30~40%程度だが)、仕入れた在庫を売り切るわけだ。先の7,000円の損失も、50%のオフ率(値段を50%下げる)で、3,500円の損失に変わる。これが、セールのメカニズムである。つまり売れ残りが発生する場合、セールにしたほうが、セールにしないより儲かるのである。
私達の多くは、セールを乱発すれば価格が下がって儲からないと考えている人が多いが、実際は、「上手にセール(売価変更)をやる」ことで、儲かるのである。
これはユニクロの強さの秘密でもある。ユニクロは、なぜあれだけ安価な商品を市場にだせるのだろうか。私の推論も交えると以下の通りになる。
- そもそもの上代(販売価格)が安いため、プロパー消化率が高くなり、余剰在庫が最小化される
- 大量に購買するため調達価格が安くなる
- 上手に売変(あえて、セールとはいわない)をコントロールし、余剰在庫を残さない
- 店舗内人件費を下げることで、販管費を大きく下げブレークイーブンを下げる
- 商社など、中間流通を使わない
スケールの違いはあれど、冒頭にあげた次世代のモンスターアパレルと「勝ち筋」が非常に似てはいないだろうか?逆に言えば、100億円程度の企業にユニクロのような科学的経営管理、KPIをきちんと導入すれば、マッシュスタイルホールディングスがそうなったように1000億円企業へと飛躍できると思う。
今、円安の影響もあるが、日本で企画したアパレルが復活しつつあり、企画力をみても世界で一目置かれる存在になりかけていると感じている。実際、私が相談にのっているアパレル企業のインバウンド比率は売上ベースで30~40%を占めるほどに高まっている。商品をみても、日本人がつくったことがよくわかる丁寧な仕上がりで、実際に私が着ても(高くて何着も買えないが)非常に品質が高くデザイン性も高い。「すぐに劣化してボロボロになる」と話題のパリオリンピックのメダルとは大違いだ。
アパレル産業は、人類が存続する限り終わりなく存続し続け、人口が増えれば好不況に関係なく、出荷枚数は伸びる。そして、まだ荒削りなるも、上記のようなモンスターの卵のアパレル企業が次々と生まれてきているのだ。今、アパレルのスタートアップに目が離せない。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
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