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過去3年で売上7倍超!家庭料理宅配「つくりおき.jp」とは

料理宅配において、新興料理宅配サービスの「つくりおき.jp」がじわりと存在感を拡大している。2023年春から展開エリアを一気に広げ、現在では展開エリアは東北地方から関西地方まで26都府県に広がった。なぜ同社は冷蔵総菜を宅配するサービスにたどり着いたのか。テクノロジーの活用なども含め、今後の食品ECの可能性について、運営会社Antway(アントウェイ、東京都)の前島恵社長に聞いた。

Antway(アントウェイ)の前島恵社長

チルド総菜の配送が家事労働を軽減する

 「つくりおき.jp」運営会社のAntway2018年の創業で、「あらゆる家庭から義務をなくす」をミッションに掲げ、管理栄養士が監修した冷蔵(一部冷凍も可能)の総菜を週替わりで配送する「つくりおき.jp」というサービスを拡大してきた。24年7月中旬には累計提供食数は1400万食を突破している。

 Antway241月期の売上高は35億円。デロイト トーマツ グループが発表したテクノロジー・メディア・通信(TMT)業界の収益(売上高)に基づく成長率ランキング「Technology Fast 50 2023 Japan」において、過去3決算期の収益(売上高)に基づく成長率631.8%を記録し、50位中6位を受賞した急成長企業だ。

 同社の顧客数と売上高は「つくりおき.jp」がサービスを始めた202月から右肩上がりで伸長している。「機会の平等」への関心から、家庭内労働というマーケットに着眼した本サービスは、メニューを考え、買物に行き、料理をつくり、片付けるという食事に関わる労働を効率化することをめざしている。一日平均4時間(※1)といわれる家事労働のうち、大半を占めるのが食事の準備だとされており、「最も大きく機会を損失している領域の義務をなくす」というコンセプトでこのサービスは開始された。

 同社がサービスを展開するにあたり独自に想定顧客にアンケートやインタビューをしたところ、コロナ禍より定着した弁当やミールキット宅配などの食品ECについて、いくつかの課題点が浮かび上がった。たとえば、「毎日の食事には向かない」「高価である」「調理や盛り付けに時間がかかる」「日持ちしない」などである。それらのハードルを越えられる商品は何かを考え、提供するメニューを冷蔵総菜に絞り込んだという。

「つくりおき.jp」でラインナップする総菜は、毎日食べても罪悪感がなくて飽きがこないように家庭的なメニューが中心となっている。冷蔵であるため温める時間もそれほどかからない。また、1品目ごとに配膳ができるため個食の寂しさがない。完成品なのでつくる手間もない。お客の声を真摯に受け止め、既存サービスや前提にとらわれない発想から同サービスは生まれたと言える。

(※1)出所:国立社会保障・人口問題研究所「2022年社会保障・人口問題基本調査 第7回全国家庭動向調査 報告書」

テクノロジーの力で効率を高める

 手間がかかっているものの、家庭的で毎日食べても飽きない家庭の味をめざしたという「つくりおき.jp」。同サービスでは、週替わりで4人前(大人2名、子ども2名)×3食をまとめて届ける「週3食プラン」(1週間当たり9580円、税および送料込)、または4人前×5食の「週5食プラン」(同14980円)の2つのプランを用意している。

「週5食プラン」のメニュー例

 「お子さまにも食べもらいたいので、サービスに対するイメージの面からも保存料は不必要には使用しない。家族向けの人数×複数日分で単価を上げて配送費に対する売価を高くするかには知恵を絞った」と前島社長は話す。

 1000レシピ以上もある総菜メニューの改廃やコンビネーション(組み合わせ)は、サービス開始前は人の判断に頼っていたが、現在は顧客満足、食材の原価、人件費の3つの変数を満たす組み合わせをAIが導き出した上で人がチェックしている。 原価と過去の作業データ、満足度はお客のアンケートや製造工程の工数などの蓄積されたデータを基に、品目ごとにかなりの精度で予測が可能になっているという。

 これらのメニューを生み出す過程に加え、「たとえば人件費と食材費についても、メニューの組み合わせを決め、工程を分解し、人件費の効率や食材の効率を高める組み合わせなども技術介入の余地があると思う」と前島社長は期待する。「現在は一部メニューのセレクトをできる機能も検討中だ」として、リピート率向上に向けたテクノロジーの活用を今後も続けていく。

 さらにAntwayでは製造工程にもテクノロジーを生かしている。「つくりおき.jp」で提供するメニューは、都内3カ所にある直営の専用キッチンで製造している。千差万別なメニューの製造に対応できるラインを構築するため、各キッチンでは動線設計にこだわっている。また、ベルトコンベヤーやフライヤー、金属探知機など調理に必要なさまざまな製造機械を設置しつつも、一部仕込みの工程で付加価値が高まるラインは、手作業で行うケースもあるという。

 また、最新の調理機器を使用することで、デジタル制御が可能となり、数値管理による均一な味の再現性が確保でき、属人化しない仕組みがつくられている。そのため、パート社員でも約1カ月のトレーニングでさまざまな製造ノウハウが習得できるという。製造品質の確保と、人材育成の効率化が同時に達成できるライン設計を行っているのだ。

 なお、Anwayでは昨年10月には串カツ田中(東京都)と業務提携し、今年5月に串カツ田中が「つくりおき.jp」の製造キッチンを東京都江東区潮見に開設している。

地域複合企業を含めFC事業を拡大

 235月にスタートアップ企業への投資段階の一種であるシリーズ C ラウンドで約8.7億円を調達した同社は、その資金の活用先の一つとして提供エリア拡大のためのフランチャイズ化の推進を挙げている。串カツ田中との業務提携に加え、現在も複数社との事業準備を進めている。その中でもとくに力を入れているのが、協業先が地域に根差し、さまざまな業態を運営する「地域コングロマリット(複合企業)」との提携である。これにより、雇用や食材仕入れ・賃料によって地域経済に貢献しながらも、売上は地域の外から獲得できる、地域企業にとっての「外貨獲得」の手段にもなる。

 ローカルエリアに拠点を置き、FC加盟店には、主に製造、集客、採用、食材発注を中心に担う。一方で、Antwayは、ブランディングやレシピ提供、採用サポート、研修実施、業務オペレーションの実装支援、お客様サポート対応等を担うという仕組みだ。EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)ベースの利益率は11%、面積当たりの売上高は160坪で年商13億円を収益モデルとして提示している。

 地域コングロマリット企業の持つ潜在顧客とのリアル接点や、同社の持つ技術を融合し「全国でサービスを拡大、食だけにとどまらない家事や子育てにかかる義務の解消を実現していきたい」と前島社長は意欲的だ。

 10年以内に売上高1000億円を達成し、「同サービスを食の世界的なブランドとして育てたい」(前島社長)という大きな目標を見据えて進む同社の動向を今後も注目していきたい。