#10 180万世帯が平均4万円を出資してまで利用するコープさっぽろの戦略性
コープさっぽろが道内で多角化を進める本質的な理由
消費生活協同組合法(生協法)は、北海道の生協が海を隔てた本州で事業展開することを認めておらず、コープさっぽろにはもともと道外進出の選択肢がありません。もっとも道内での多角化に活路を求めるのは、こうした制度上の制約だけが理由ではありません。
道内では、グループ売上高3000億円台で並走する「3極」ですが、イオンやアークスがほぼ店舗のみの稼ぎであるのに対し、コープさっぽろは店舗だけだと約1900億円。これには約100台が運行中の移動販売車の売り上げも含まれています。ほかに宅配が900億円弱、残りの100億円弱を共済(保険)、夕食宅配、病院給食、再生可能エネルギー電力の供給、葬祭など多様な事業から生み出しており、もともと多角経営を基本姿勢としてきた組織なのです。
生協に出資する組合員は、その生協を利用する一般消費者です。事業を多角化し、文字通り「ゆりかごから墓場まで」さまざまなシーンで暮らしを支えることが組合員の満足度を高めることになる。一般企業が同じことをやろうとすると、経営効率が悪化してしまいますが、生協は「非営利」が建前。利益は目的ではなく、組織を持続させるための手段にすぎません。むしろ営利企業が手を出せないような非効率かつ社会が必要とする事業を次々と手がけることが支持者を増やし、出資金を集め、事業体の成長につながる性格を持っている。投資家から資金を得て事業を行い、株主利益(株価、配当、株主資本利益率)の最大化を究極の目的とする上場スーパーとは立ち位置が全く異なる組織だということです。
コープさっぽろの大見英明理事長は、協同組合組織の優位性がどこにあるかを十分に理解した上で営利企業に競争を仕掛け、生協への支持者を増やしてきた戦略家です。07年に48歳でトップに就いて以来、食品スーパーとしてイオンやアークスに引けをとらない魅力ある店舗を展開して、消費者と生協の接点をつくり、他のスーパーが手がけることのできない生協独自の事業を通じて「固定ファン」を増やす-という成長の流れをつくりだしました。その結果、コープさっぽろの組合員数は1月に180万人に達し、組合員出資金は730億円を超えました。北海道の全世帯の65%が平均4万円の出資金をわざわざ支払って利用しているという事実が、その戦略性を如実に示していると言えるでしょう。
大見氏は北大在学中から生協運動に関わる一方、コープさっぽろでは水産売り場の担当からスタートして大型店の店長、本部の水産部長などの現場経験を積み重ね、数々の事業改革を成し遂げてきました。「運動家」と「事業家」の両面を高いレベルで兼ね備えているという点で、新時代の生協を代表するリーダーと言うべき存在です。
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