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モスバーガーが音楽レーベルを立ち上げた“意外”な理由

モスバーガーを展開するモスフードサービス(東京都/中村栄輔社長)が、店舗で働くスタッフの音楽活動を支援しようと、音楽レーベルを立ち上げたことが話題となっている。その名も「MOS RECORDS(モスレコーズ)」。オーディションを行い、最優秀者はモスレコーズからデビューでき、さまざまなバックアップも予定されている。なぜ今、音楽レーベルを立ち上げることを決めたのか、その背景や狙いについて、取締役上席執行役員 営業本部長の太田恒有に話を聞いた。

モスで働きながらデビューのチャンスを提供

モスレコーズサイトトップ

 モスバーガーといえば、全国に1300店舗を構える人気のハンバーガーチェーンだ。地域に根差したオリジナリティのある店舗展開を行い、働くパート、アルバイトスタッフは約25000人に及ぶ。今回、太田氏の発案のもと立ち上がったのが、店舗で働くスタッフの中からアーティスト、クリエイターの原石を発掘し、その活動を応援、共創しようという“MOS RECORDS”(モスレコーズ)プロジェクトである。

 スタッフの中には、モスバーガーで働きながらアーティスト、クリエイターとして活動している人も少なくない。そこで、モスレコーズというレコードレーベルを新たに設立し、音楽デビューに必要な活動を全面的にバックアップしようという試みだ。

 このプロジェクトの目的の一つは、外食産業共通の大きな課題「人手不足」の解消だ。

 「これまでも『人材確保』『生産性向上』のためにさまざまな取り組みを行ってきたが、他社と同じことをやっていても厳しい現状がある。現状を打破するには、まったく新しい突き抜けたことをやらなければいけない。そこで考えたのが、アーティストやクリエイターを目指すスタッフが活躍できる場を用意し、モスバーガーで働く大きな魅力として打ち出していくことだった」(太田氏)

 モスバーガーは郊外型店舗が多いのが特徴で、一度働くと20年、30年と長く続けるパートスタッフが多いという強みがある。一方で、「この先安定的に人材を確保していくには、若い世代をスタッフとして呼び込むことが不可欠」と太田氏。働きながらデビューできる、というステージを用意することで、夢を応援してくれるモスバーガーで働こう、と思う若者が増えることを狙う。

全国各地から幅広い世代のスタッフが応募

オーディションの審査風景

 いざ「音楽」に着目してみると、全国の店舗ではBGMをかけているのに、これまでモスバーガーでは、流す音楽にまったくこだわってこなかったことに気づいたのだという。

 「お店でおいしい食事を楽しんでもらうのに、BGMとして流す音楽にも意味づけが必要だと考えるようになった。さらに、コロナ禍において音楽活動の場が一切なくなってしまったことから音楽を諦めてしまったスタッフもいるはずだと思った」(太田氏)

 「人材確保」「店舗で流す音楽の意味づけ」「音楽活動の場の確保」という3つがリンクし、モスレコーズという音楽レーベルを立ち上げることが決まった。

 第1回オーディションの募集は、「歌手・シンガー」「バンド・ユニット」「DJ・トラックメイカー・DTMer」「ギター」「ベース」「ドラム」「ピアノ・キーボード・シンセサイザー」「作曲」「管楽器」「和楽器」「ダンサー」の11部門が対象で、2024年4月から5月末にかけて応募を募った。

 「最終的な応募数は、100組。店舗オーナーの皆さんもプロジェクトの趣旨を理解して、スタッフを応援してくれたのもありがたかった。全国から応募があり、世代も16歳から50歳と幅広い。応募の動機を読んでも、若い世代のパワー溢れる内容はもちろん、『一度諦めかけた夢だけどもう一度挑戦してみたい』といった勇気あるものまで、どれも本気度が高いことがひしひしと伝わってくる」と太田氏は話す。

 先日、太田氏とモスレコーズの監修者で音楽プロデューサーの海老原俊之氏の2名を中心に、厳選な審査を行った。審査に合格すると、楽曲制作やミュージックビデオ制作などにおいて海老原氏の協力を受けながら、配信デビューまでの活動をモスレコーズが全面的にサポートする。

 審査におけるポイントは、「音楽の素人の私が見るのは、モスバーガー創業からの『感謝されることをしよう』という利他の心があるかどうか。当社で働いてくれているスタッフには共通していると思うが、モスレコーズに所属するにあたっては、よりそういう心を誠実にもっている人かを見ていきたい」と言う。

モスレコーズの存在が働く動機に

オーディションの歌唱審査

  “MOS RECORDS”(モスレコーズ)プロジェクトが発表されたのは2024年4月だが、早くも採用における成果が出始めているという。

 「うれしいことに、ホームページから応募のあった新規のアルバイト応募で、10代、20代の応募率が1.3倍程度に上がっている。さらに、『モスレコーズに入りたいのでアルバイトに応募しました』という人が、すでに10人以上いるとの報告も受けた」(太田氏)

 実際、モスレコーズからデビューできる恩恵は相当インパクトがあるようだ。というのも、デビューまでフルサポートするだけでなく、デビュー後に受けられる恩恵も大きい。

 その一つが、Apple Music、Spotify、TikTok、Instagram、YouTube Musicなどのほか、モスバーガーのオウンドメディアやSNSなど、50以上のプラットホームで世界185カ国にサブスク配信してくれる点だ。

 さらに、「1300の店舗でデビューソングを流す、コラボグッズをつくるなど、目に見える形でさまざまな宣伝活動ができるのが一番大きなメリットだと考えている」と太田氏が話す通り、全国の店舗網を活用することによって絶大なプロモーション効果が期待できる。

 これほどのバックアップ体制が充実している音楽レーベルからデビューできる可能性があることは、多くのアーティスト、クリエイターにとって大きな魅力であることは間違いなさそうだ。

厳しい環境下でもポジティブな発信を継続

取締役上席執行役員 営業本部長の太田恒有

 早くも今年12月に、第2回オーディションが予定されているという。今後モスレコーズプロジェクトをどう広げていく予定なのだろうか。

 「常に考えているのは、創業の心である『感謝されることをしよう』をどう実践するか。世の中は今、暗い話が多く、私たちも人口減少の影響を大きく受け、機械化、集約化などの検討を余儀なくされている現状はあるが、そんな中でもモスバーガーは下を向くのではなくて、常にポジティブな発信をしていく会社でありたい。地域のために、ともに働く仲間のために、とできることを考え続けて、しっかりと道をつくっていく」(太田氏)

 その上で、今後の検討事項として、夢が叶わなかった人のケアも重視していくという。

 「まだ始まったばかりだが、このプロジェクトによって傷つく人がいるのなら継続はしないという想いがある。たとえば、次のオーディションの候補生にする制度や、2番手になったスタッフでユニットを組んでもらうなど、そういった別ルートもうまく取り入れながら、最も良い支援のあり方を探っていきたい」(太田氏)