誰も語らなかったZARA圧勝の秘密1 日本企業がZARAに勝てない理由

河合 拓
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ZARAに日本企業は絶対に勝てない理由

 私は前回、ハイテク技術を使ったZARAに日本企業は勝てないと言い切った。ZARAと同じ土俵に立ち、トレンドという予測不可能な情報に一喜一憂することなく、ハイテクを駆使した競争相手とのトレンド勝負から離れることで、独自の勝ちを掴む手法を提言したのである。
 実際、私が調べた高収益企業はすべからく、値引きをしない定価販売と5年以上のライトオフの組み合わせで利益率を高めていたことは書いたとおりだ。理由は明白で、調達原価率を押し上げる要因はマークダウンとライトオフ(損金処理、評価減)だからである。この二つが解消されれば、50%以上の原価率に苦しむアパレルは、理論的に30%以上のコストダウンが可能となる。

 しかし、こうした単純な計算さえできず、単純に原価が高いからといって、自らの消化率を高める努力を怠り、商社や工場を叩いて商品劣化を加速させ消費者離れを起こす
 また、すでに市場が吸収できないほどの衣料品が市場に出回っているにもかかわらず、ハイテクツールを使い「需要予測」をやれば余剰在庫はなくなると考え、過剰投入を行って赤字をますます増やし業績を悪化させている。こうして、多くの日本企業は逆立ちしても勝てないZARAに真っ向勝負を挑み、私が株式取引で惨敗したように負け戦を続けているわけだ。

 的外れな主張を繰り返す無責任な人達

 こうした負のサイクルに拍車をかけたのは、科学的な分析をせず、アパレルビジネスを語るコンサルやアナリスト達だった。正直、私自身の職業であるコンサル批判をするのは胸が痛む。しかし、私が本気でアパレル業界を救いたいという気持ちであることを理解し、建設的に受け取って頂きたい。

 以下、その代表例を列挙する

 1.「プロパー消化率など関係ないから見る必要は無い」
アパレルはどんぶり勘定で仕事をしろと言っているのと同じで、4KPI(プロパー消化率、オフ率、残品率、企画原価率)なくしてアパレルビジネスの評価と計測は不可能である

 2.「ZARA VS ユニクロで、回転率でユニクロは負けている」
長期開発、長期販売型のユニクロと、高速回転型ZARAは、ビジネスモデルが全く違う(後述) ため、回転率で比較するのは的外れ

 3.「次のトレンドはサステイナブルだ」
ビジネスはトレンドのような確証性のないものを追いかける博打(ばくち)でなく、再現性と反証性を前提としたサイエンスであり、こうした博打ビジネスはアパレル企業を破滅に追いやる危険性さえある。トレンドでなく、ビジネスモデルのサステイナビリティ (トレンドがどのように変わっても生き残れるビジネスモデル)を提言すべきだ。

 4.「このシステムはユニクロが使っているから導入すべき」
今、自ら判断できない経営者に対するシステム導入の殺し文句は、「これはユニクロが使っている」である。しかし、大量生産、大量販売型のユニクロモデルは、流通改革を成し遂げたユニクロのみができる「一人勝負」であり、コスパで圧倒的に負けているアパレル企業がユニクロの仕組みを導入すれば、店頭は山のような在庫を押しつけられ余剰在庫の山となるだろう。デマンド型とサプライ型は全くビジネスモデルが違うのだ

  みなさんも、これらのフレーズをどこかできいたことがあるだろう。これら4つは全て誤った考えである。

 

 ここまで読んできて、ZARAと我々国内アパレルのビジネスモデルがいかに違うか、そして、間違った戦い方でZARAに勝負を挑み無残に敗れ去ってきたが理解できたと思う。これを踏まえ、次回からZARA圧勝の秘密を解き明かしていく。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

河合拓氏_プロフィールブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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