展望2020:日銀のマイナス金利深掘りは副作用大きい=武藤・大和総研名誉理事

ロイター
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都内の建設現場
大和総研の武藤敏郎名誉理事(東京五輪・パラリンピック大会組織委員会事務総長、元日銀副総裁)は27日までにロイターの取材に応じ、日銀によるマイナス金利の深掘りは副作用が多いとして支持しない考えを表明した。写真は都内の建設現場で2017年5月撮影(2019年 ロイター/Issei Kato)

[東京 28日 ロイター] – 大和総研の武藤敏郎名誉理事(東京五輪・パラリンピック大会組織委員会事務総長、元日銀副総裁)は27日までにロイターの取材に応じ、日銀によるマイナス金利の深掘りは副作用が多いとして支持しない考えを表明した。また、日銀の国債買い入れによる低金利を前提に、補正予算・経済対策を常態化させている財政運営の持続性にも懸念を示した。

<日銀「意味ある追加緩和難しい」>

武藤氏は日銀の金融政策運営に関し、「日本経済の現状をみると日銀が緩和的な金融政策を続けなければいけないことは理解できる。近未来の利上げは想定されない。欧米中銀が利上げサイクルに入る場合も日本の利上げは最後でないか」との展望を示した。

景気の大きな下振れの局面では日銀の追加緩和手段が議論の焦点となるが、「追加緩和手段として、マイナス金利の深掘りは弊害の方が大きい」と明言した。さらに、「日銀は追加緩和が必要と判断しても、打つ手は限られており、経済的に意味のある追加緩和策を講じることは難しいのではないか」と述べ、すでに巨額の国債を買い入れている日銀に有効な追加緩和手段は残されていないとの見解を示した。

<日銀買い入れ前提の財政運営、持続性に疑問>

最近の財政政策運営に関しては、「リーマン・ショック後、11年間に13回経済対策や補正予算などの財政出動を行っており、総額で80兆円超にのぼる。ほぼ1年分の予算を組んでいることになる。このような状態が続くと、補正予算などの財政出動を行わなければ、財政が前年度対比で景気の足を引っ張るため、財政出動を続けざるを得なくなってしまう」と指摘。「政治選択として補正編成が必要な場合があることは理解できるが、毎年のように補正予算編成が不可欠の状態は財政の持続性に課題があるのではないか」と懸念を示した。

また、「金融政策も実質ゼロ金利が続いており、国債発行のコストは今のところ小さいが、日銀による国債買い入れの常態化を前提とするような財政政策に賛成はできない」と述べた。リーマン・ショック後、日本経済は恒常的にポリシーミックスを実践してきており、ゼロ金利のまま財政出動を続けているが、「経済の生産性は改善しておらず、潜在成長率も欧米と比較して非常に低い。新しいテクノロジー開発などイノベーションを刺激し、民間活力の活性化で生産性を向上させることが必要だ」と強調した。

財政出動を続けても「日本の財政にはレジリエンスがあり、すぐにデフォルトを起こすとは考えられていない」とした上で、「金利1%の上昇で国債の利払い費が毎年1兆円程度ずつ増加するとの試算もあり、利払い費捻出のために借金をするという悪循環が始まるリスクがある」と指摘した。

「今は日銀による国債買い入れが続いているが、国債の約8%は海外勢が保有しており、日本国債がデフォルトすることはなくとも、国債価格が下落・金利が上昇するなら、損失回避のために海外勢が日本国債を売却することで日本国債の価格が暴落するリスクはある」という。

<米経済予想以上に好調、トランプ氏再選の見方多い>

内外経済環境に関し、武藤氏は現時点で2020年に急速に悪化する可能性は少ないとの見方を示した。2019年の世界経済は、米中摩擦などの影響による世界貿易の減速で3%程度の成長にとどまり、2020年は米中摩擦がこれ以上悪化することがなければ2019年と同様3%程度の成長になると見込んでいるという。武藤氏は「先行き世界貿易が改善する兆しは明確でないが、IT(情報技術)サイクルが持ち直しているのは明るい材料」と指摘した。

また「米国経済は、雇用が良いなど予想以上に好調。米国大統領選は景気に依存するとの見方があり、2020年の米大統領選はトランプ氏が再選する公算が大きいとの見方が多い」と述べた。

同時に「米国経済が悪くないため、トランプ大統領は大統領選を踏まえ、対中国で強めの態度で臨んだ方が有利と判断する可能性があり、簡単な対中融和策は取らないのではないか」との懸念も示した。

「米国は中国からの輸入関税を引き上げたわりに物価が上昇していない。これはドル高が相殺しているため。このため関税引き上げによって米国の消費に激しい悪影響をもたらしてはいない」とも述べた。

<対米自動車輸出減速、内需に悪影響も>

日本経済に関しては、「従来輸出依存型だったが、足元外需は悪いが堅調な内需に支えられている。自動車や化学製品の生産・輸出が底堅く、これらの業種は生産誘発効果が大きく、内需を下支えしている可能性がある」と指摘。「外需低迷、内需堅調の現状がどの程度持続可能かが課題。自動車産業は米国向け輸出が最近減速しつつあり、自動車生産が減少すれば内需にも悪影響が出る可能性がある」とした。

東京五輪パラリンピック後の景気について「これまでは冷え込むと思ってきたが、建設投資などが予想以上に堅調。インバウンドは五輪後も継続すると期待される。やはり世界貿易の縮小がリスクで、内需への悪影響が顕在化するかが注目される」と述べた。

消費税引き上げの影響に関連し、「思ったほど大きくないというのがコンセンサスになりつつあるのではないか。軽減税率や、ポイント還元、幼保無償化などの政策効果で需要の大きな反動減は顕在化していない」と指摘。「今回の消費増税は、マクロでみると、消費者物価への影響はあまり大きくないといえる。消費税率2%の引き上げは、軽減税率の導入等により、コアの消費者物価を0.9%程度引き上げると試算されている。一方、10月からの幼保無償化で0.6%程度の物価下押し効果があり、差し引きコアの消費者物価への影響は0.3%の上昇にとどまる」と述べた。

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