「ドン・キホーテ」を中核事業に成長を続けているパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(東京都/吉田直樹社長:以下、PPIH)。2019年1月には総合スーパー大手のユニー(愛知県/関口憲司社長)を傘下に収め、同社既存店を業態転換した「ダブルネーム店舗」の売上・利益・客数が大きく伸長。その結果、18年度の決算ではグループ売上高はついに1兆円の大台に乗り、国内大手小売業の一角を占める存在となっている。しかしそうした一方で、PPIHはある“危機感”も抱いている――。ドン・キホーテ躍進の理由と、今後の成長を左右する「死角」は何か。
売上高はついに1兆円の大台に
「経営トップとしてこれ以上ない達成感を得ている。従業員、取引先さまはもちろん、すべての関係の皆様に深く感謝の意を表したい」――。19年8月に開催されたパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下、PPIH)の2019年度6月決算発表会見で、大原孝治CEO(当時)は万感の思いを込めてこう語った。
それもそのはず、19年6月期の同社の連結売上高は1兆3289億円(対前期比41%増)、営業利益は631億円(同22%増)、純利益は483億円(同32%増)といずれも2ケタ成長で過去最高額を更新、株式上場から23期連続で増収増益を達成したのである。
さらに、15年に策定した5カ年の中期経営計画「ビジョン2020」で掲げた「売上高1兆円」「店舗数500店」「ROE15%」の達成を、目標としていた20年度から1年前倒しでクリア。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けている。
驚異的な成長を見せる「ダブルネーム店舗」
18年度の業績がここ数年のなかでも際立って飛躍した背景には、19年1月に総合スーパー(GMS)大手のユニー(愛知県/関口憲司社長)を傘下に収めたことが大きい。ユニーをめぐっては、17年8月にドンキホーテホールディングス(HD)がユニー・ファミリーマートHD(現ファミリーマート)と業務提携し同年11月にユニー株40%を取得。19年1月には残る60%の株式も約280億円で取得して完全子会社化したという経緯がある。ユニーの売上を単純合算して小売業界4位の規模に上り詰めたドンキホーテHDは、その後2月にPPIHに社名を変更している。
そして、PPIHの新たな成長エンジンの1つとして注目されているのが、そのユニーと共同出店しているダブルネーム店舗である。これはユニーが展開するGMS「アピタ」「ピアゴ」の既存店を、「MEGAドン・キホーテUNY」または「ドン・キホーテUNY」に業態転換するかたちで出店している新たなフォーマット。PPIHはユニーの既存店約180店舗のうち100店舗をダブルネーム店舗に転換する方針で、18年2月に1号店「MEGAドン・キホーテUNY横浜大口店」を神奈川県横浜市にオープンして以降、今年11月末までに25店舗の転換を完了している。
ダブルネーム店舗の基本的なコンセプトは、食品の売上ボリュームが高かったユニーの店舗に、ドン・キホーテが得意とする化粧品や日用雑貨、家電などの非食品カテゴリーを付加するというもの。ユニーの強みである生鮮を含む食品で価格を訴求して集客を図りつつ、粗利益率の高い非食品の同時購買を促すことで店舗の収益性を高めるねらいがある。
その“転換効果”は今のところ絶大だ。PPIHの決算資料によれば、19年度に転換した10店舗では、転換前と比べて売上高が2.2倍、客数が1.6倍、粗利益高は2.2倍にそれぞれ増加している。
このダブルネーム店舗成功の要因は大きく「顧客層の拡大」と「売れる商品の変化」に分けられる。旧来のユニーの店舗は50代以上の客層がメーンだったが、ドン・キホーテならではの充実した品揃えや圧縮陳列、POPの多用などによる「時間消費型」の店づくりにより、若年層やファミリー層を獲得。また、ユニーが従来あまりカバーしていなかった、単価の高い家電や雑貨、コスメ用品の販売に力を入れることで売上・利益をアップさせたというわけである。
ユニーの“戦力化”を急ぐPPIH
競合GMSの苦戦を尻目に成長を続けるPPIHだが、解決すべき課題もある。
1つめは、ユニーとの組織面での“融和”だ。完全成果主義の人事システム、徹底した個店経営システムなど、PPIHの「常識」を、ユニー社員が一朝一夕で理解することは難しい。そのためか、PPIH傘下となって以降、ユニーでは管理職を含め退職者も増えているという。
しかしPPIH側は、ユニーの組織風土を変えようと必死だ。今年4月には、かつて長崎屋を「MEGAドン・キホーテ」に転換して軌道に乗せた関口憲司氏がユニーの社長に就任。本部主導型の経営システムから個店経営体制に移行させるなど、早くもドンキ流の経営手法を移植している。また、ダブルネーム店舗では原則として「総店長」にドン・キホーテ出身者、「店長」にユニー出身者を配置し、総店長から店長にドンキ流の個店経営の手法を継承。将来的には、ユニー社員だけでダブルネーム店舗を運営できるようにしたい考えだ。
PPIHとしても、ダブルネーム店舗ばかりにリソースをかけているわけにはいかない。グループ全体で継続的な成長を続けるためには、いち早くユニーの組織変革を完遂し彼らを戦力化する必要に迫られているのだ。
※本稿後編は明日、12月26日に公開します。