地域の特産品などを気軽に買えるスポットとして人気の「アンテナショップ」。「2022 年度 自治体アンテナショップ実態調査報告」(一般財団法人 地域活性化センター)によると、運営を民間企業などに委託しているケースは47 %と半数に満たず、自治体や第三セクターなどによる運営がいまだ優勢となっている。
その中で異彩を放っているのが、近鉄百貨店が運営する「北海道どさんこプラザ あべのハルカス店」だ。物産展などで長年培ってきたバイイングや売場編集の経験を生かした店舗運営で、2021年9月のオープン以来好調を維持している。2022年11月には奈良店にも2店舗目がオープンし、他の都府県のアンテナショップも計画が進むなど、勢いに乗っている。
好調の秘訣と、百貨店としてアンテナショップに注力する理由を、近鉄百貨店専務執行役員の長野公俊氏に聞いた。
関西初出店の「北海道どさんこプラザ」が大ヒット
近鉄百貨店あべのハルカス近鉄本店2階の玄関口「ウエルカムガレリア」。最も人の往来の多いスポットの目の前に「北海道どさんこプラザ あべのハルカス店」はある。約70㎡の店内にはスープカレー、チーズケーキ、ラーメンなど北海道のご当地グルメ商品約700品目が所狭しと並び、女性客を中心に連日にぎわいを見せている。
北海道の公式アンテナショップ「北海道どさんこプラザ」の、初の関西エリア出店として2021年9月にオープンした同店。店舗運営は、近鉄百貨店が「一般社団法人北海道貿易物産振興会」と共同で行っている。
仕入れを担当するのは、同百貨店で約30年にわたって北海道をはじめとする物産展のバイヤーをしてきた社員。関西の顧客の嗜好やニーズを熟知した「物産のスペシャリスト」が、特色のあるセレクションを行っている。
「関西の『だし文化』とも関係があるのかもしれないが、ここでは他のどさんこプラザと比べて、羅臼や利尻などの昆布や『ねこんぶだし』『こんぶラーメン』などの商品がよく売れている」
専務執行役員の長野公俊氏はこう言って笑顔を見せる。コロナ禍の中で、百貨店にとってはキラーコンテンツの一つである物産展が十分に運営できない状況が長く続いていた。そこからの反動も相まって、「北海道どさんこプラザ あべのハルカス店」の業績は当初計画に対して24 %増の売上を達成(2023年2月末時点)するなど、好調を維持している。
また、2022年11月には鈴木直道・北海道知事も来店するなど、北海道庁をはじめ地元自治体も、関西エリアにおける物産や観光のPR拠点として大きな期待を寄せている。
「地域商社」を掲げ、地域産品のブランド化を支援
旗艦店であるあべのハルカス本店をはじめ、近畿圏に11の店舗・商業施設を運営する近鉄百貨店。長期計画において「地域に寄り添い、地域と活きる」とのESG方針を掲げ、以前より地域の自治体や商業団体とのコラボレーションに力を入れてきた。
2018年から「地域商社事業」と銘打った地域物産のプロデュース事業を開始。大和路(奈良県)・伊勢路(三重県)・紀州路(和歌山県)・近江路(滋賀県)の「4つの路」をコンセプトとしたローカルショップなどユニークな取り組みを展開し、地域産品のブランド化支援や販路開拓支援を推進してきた。
それと並行して、近畿圏を中心に各自治体と地域連携協定を締結。物産の紹介、観光のPR、防災協力の分野で、官民の連携強化を図ってきた。
そのように早くから「地域共創」の旗を掲げ、官民共創のブランドづくりや店舗運営を手掛けてきた近鉄百貨店に、北海道庁とアンテナショップ共同運営の話が持ち上がったのは自然な流れなのかもしれない。
「特に需要の見込める物産展については、常設ショップが運営できないか以前から考えていた」(長野氏)という近鉄百貨店側にとっても、集客力の高い北海道の物産を取り扱えるアンテナショップは願ってもないチャンスだった。こうして、「どさんこプラザ」の関西エリア初出店は決定した。
収益構造改革でFC事業に舵を切る
この「どさんこプラザ」だが、テナントという形で出店してもらう選択肢もあったはずだ。なぜ、人件費も負担し在庫リスクも負う直営の形を選択したのだろうか。
その背景には、近鉄百貨店が全社的に進めている「収益構造改革」がある。
「百貨店運営においてだんだんとテナント事業の傾向が強まったことが、収益構造に影響を与えていた」と長野氏は語る。テナント事業は安定な収入源として見込める反面、利益率の相場は10 %程度と高くない。
そこで、同社で力を入れているのがフランチャイズ(FC)事業の強化だ。
「フランチャイジーとして自ら店舗運営に携わるのは、リスクもコストも高いが、そのぶん自分たちの創意工夫で付加価値を生み出せるし、売れるだけ利幅も増える。そこに目下チャレンジしている」(長野氏)
「場所貸し」のテナント事業から、百貨店本来の強みである商売、つまり「いいものを仕入れて、売る」に回帰し、社員自らが責任を負いながら、それぞれの店舗で付加価値を生んでいく――この近鉄百貨店のFC事業強化による収益構造改革は着々と進んでいる。
「成城石井」や「ハンズ」をはじめ、2021年4月には台湾の人気セレクトショップ「神農生活」と日本で初のFC契約を締結。2023年春には飲食店を運営する「ベビーフェイス」とFC契約を結び、奈良市の人気レストラン「ベビーフェイス スカイテラス」をあべのハルカス近鉄本店14階のレストランフロアにオープンした。
「どさんこプラザ あべのハルカス店」も、その収益構造改革の流れを受け、近鉄百貨店が自ら「商売」する道を選択した。その結果、同社が長年培ってきたバイイング力や売場の編集力が発揮され、独自性の高い店舗運営が実現している。
同時に、この自らリスクを負って「商売」に注力する姿勢が、「社員の創意工夫を促し、成長機会にもつながっている」と長野氏は語る。
「FC事業に舵を切る、と発表した当初は、社内にも懐疑的な声は少なくなかった。しかし、最近ではこういった新しい業態にチャレンジしたいと積極的に手を上げる社員も増えてきている」(同)
北海道は3店舗目を計画中、他都府県も視野に
近鉄百貨店のアンテナショップ事業は、もう一つ、同社が掲げる経営改革とも深く結びついている。それは「店舗のスクランブルMD化」だ。
「これもテナント事業化が進んだ結果だが、店舗や商品構成が同質化し、多店舗との差異が図りにくくなっていた。また、お客さまの回遊性も低下していた」(長野氏)ことから、特徴のある店舗運営の一環として、1フロアにあえて衣食住の異なるカテゴリーを組み合わせる「スクランブルMD」の売場づくりに努めてきた。
「どさんこプラザ」をあえて2階コスメフロアの一角にかまえたのも、そういった「スクランブルMD」のねらいがある。
「『どさんこプラザ』ができたことで、お客さまの来店頻度も買い回りも、着実に高まってきた」(長野氏)
「スクランブルMD」においても、アンテナショップは大きなアクセントをもたらすコンテンツとして期待されている。「どさんこプラザ あべのハルカス店」の好調を受け、2022年11月には近鉄百貨店奈良店に2店舗目がオープン。3店舗目も目下計画が進んでいる。
さらに、北海道に続く第2弾として、今夏には他県のアンテナショップがあべのハルカス本店にオープン予定だ。「地域の魅力を生かしたフルーツや野菜、鮮魚などをメインに、独自の魅力を打ち出していきたい」と長野氏は力を込める。
物産展などで長年培ってきたバイイング力と編集力を発揮し、勢いを増す近鉄百貨店のアンテナショップ。「金太郎飴の百貨店」から脱却を図る切り札として、これからも注目したい。