百貨店、存在の証明その4 海外に活路見出すも、安定さ欠く髙島屋の成長戦略

森田俊一(流通ジャーナリスト)
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“不動産偏重”から抜け出せるか

 ただ髙島屋も、ほかの大手百貨店と同様に、不動産事業とインバウンド需要に偏重した収益構造であることもまた事実だ。髙島屋が公表している2020年2月期業績予想を見ると、連結営業利益の見通しは280億円。このうち不動産事業の中核でショッピングセンター事業を行うグループ子会社、東神開発(東京都)の営業利益計画は69億円と、実に約25%を不動産事業が占めるという依存状態となっている。

 インバウンドの変調も気がかりだ。同社の2020年2月期上期のインバウンド売上高は対前年同期比0.8%減の280億円と微減。通期計画では同0.5%増まで引き戻すとしているが、米中貿易摩擦や個人ブローカーを取り締まる中国EC法の施行などを背景に、かつて“爆買い”を巻き起こした代理購買が減少していることに加え、元安も重なるため、先行きは不透明だ。

 百貨店全体に強い逆風が吹くなか、J.フロントリテイリングは不動産事業、三越伊勢丹ホールディングスはECを軸にしたデジタル化と、大手百貨店は旧来の百貨店モデルに頼らない成長戦略に舵を切り始めている。そうした状況下、髙島屋が次代の成長の軸に据えるのが、海外戦略である。

 髙島屋の海外事業は堅調で、とくにシンガポールではショッピングセンターの展開が成功している。海外事業の営業利益は、19年2月期実績で39億円。同社はこれを23年度に110億円にまで引き上げる計画を打ち出している。国外で「髙島屋ブランド」の知名度を高めることで、国内でインバウンド客を集客するといった、相乗効果を引き出す考えだ。

海外事業の堅調続くも、国内の収益確保が急務か

 しかし、元ファミリーマート会長の上田準二氏が「海外で事業を軌道に乗せるまでには10、20年とかかる」と発言しているように、海外事業は腰を据えてかからなければできない事業でもある。実際、シンガポールのショッピングセンターも、93年の開業から20年以上かけてようやく軌道に乗ったという経緯がある。

 国内ならば、「髙島屋ブランド」は誰もが知る老舗ブランドだが、海外にこれを根付かせるためには長期戦になるのは間違いない。中国のように、ECが先行しているため百貨店の位置付けが曖昧になっているような国もある。

 実際、髙島屋も中国・上海の店舗がなかなか軌道に乗らず、今年に入って撤退を発表したものの、家賃交渉で貸主が譲歩したことから撤退を撤回するなど、すべての海外事業が好調というわけではない。

 いずれにせよ、海外事業は時間のかかる事業だ。国内で安定した収益を稼ぐ方策を早急に描かなければ、次の成長も不透明だ。(次回に続く)

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