人員効率化と働き方改革の犠牲で、理不尽な長時間労働に苦しむ中堅

神南文弥(じんなん ぶんや)
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このシリーズは、部下を育成していると信じ込みながら、結局、潰してしまう上司を具体的な事例をもとに紹介する。いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に「こうすれば解決できた」という教訓も取り上げた。今回は、日本を代表するテレビ局で、理不尽な長時間労働に苦しむ若手ディレクターの出口のない苦闘を紹介したい。

Photo by Kritchanut
Photo by Kritchanut

 

第20回の舞台:大手テレビ局

正社員2300人程、契約・派遣社員3000人程、アルバイト500人程

 

月間140時間を超す苛烈な残業の理由は?

 深夜2時、真っ暗な廊下を吉村(33歳)が歩く。 

「今日も、朝帰りになるな…。腰が痛いよ。先月の残業が120時間。今月は140時間を超えるだろうな」

 社員が数千人を超える放送局でありながら、人影はまばらだ。「働き方改革」の影響もあり、残業時間を減らす機運は少しずつ高まっている。

 今日は、吉村がディレクターとして加わる情報番組のスタジオ収録があった。

 この局は数年前から「開かれた放送局」を掲げ、視聴者参加番組を増やそうとしている。視聴者が局内のスタジオに来て、収録に参加する機会が多くなってきた。それに伴い、ディレクターの仕事は増える。例えば、ネットなどを使い、参加者を集め、交通費や謝礼などの準備をする。当日は、参加者のエスコートをして、帰りを見届ける。これだけでも、数十時間の負担となる。

 問題は、ここからだ。特に視聴者参加のテレビ番組は数十人で制作をするから、チームワークが必要になる。一方で、番組制作費は年々減り、スタッフの数は10数年前の約7割減になった。仕事の量は増えているのに、対応する人の数は減る。

 そのうえ、もともと、個々のスタッフの役割や権限と責任は曖昧なところがある。例えば、経験の浅いディレクターが担当する仕事を「助っ人」という名目で吉村のような中堅が手伝う。そこで「伝えた、伝えない」といった意思疎通の問題が起きる。

 今日の収録でも、参加者が車で来ることを想定し、局の駐車場をあらかじめ予約しておこうと2人で話し合っていた。だが、当日になり、経験の浅いディレクターが「忘れた」と言い始め、慌てて吉村が局付近の小さな駐車場を予約した。この対応で、スタジオの収録前の打ち合わせに参加することができなくなる。担当のプロデューサーが怒り、収録終了後、双方で言い争った。

 揚げ句、経験の浅いディレクターは私用があると終了後早々と帰ってしまう。深夜になっても、吉村が次回放送に向けて参加者を集める仕事をする。あるフェィスブックの運営者にアプローチし、コミュニティのメンバーに参加を呼びかけようと考えている。

 吉村は、数人しかいないスタッフルームでかすれた声になる。

 「疲れた。いつまで、こんな生活が続くんだろう。あいつのせいで、こんなに残業が増えているんじゃないか…。なんで帰るんだよ。無責任すぎないか」

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