「新人職人殴打事件」を封印した有名すし店オーナー

神南文弥(じんなん ぶんや)
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受け入れ態勢を整え、以前からの従業員が嫉まない仕組みを作ろう

 人手不足や好景気の影響、今後の労働力不足の時代などを踏まえ、新卒採用を始める中小企業がある。今回の背景には、そのような事情がある。私は、次のような教訓を導いた。

こうすればよかった①
受け入れ態勢を整える

 新卒採用の場合、いわゆる母集団形成(エントリー者を増やすこと)や面接の仕方をどうするか、といったテクニカルな面に注意が向きがちだ。一方で、定着や育成について深く考え、効果のある施策や取り組みをつくろうとしている会社は必ずしも多くはない。

 今回の店も、例外ではない。新卒を雇い入れた場合、中堅の職人の下につくのは想定できていはずだ。それならば、事前に中堅を集め、パワハラなどについいて繰り返し教え込んでおくことはできなかったか。職人の世界ならば、ありそうではないだろうか。職人出身であるはずのオーナーがそのことに鈍いのが、私としては残念だった。

 「受け入れ態勢」というと、それを整えるまでに相当なコストと時間が必要に思える。その通りなのだが、はじめは、中堅や幹部に「パワハラ」「いじめ」「セクハラ」など重要な事柄を教えるだけでもいい。その後、「コーチング」などをテーマとすればよいのではないか。トラブルになりうることは、はじめに教えておきたい。

 

こうすればよかった①
高卒者が妬まないような仕組みを作っておくべき

 定着率を上げる場合、社内の風土にも目を向けたほうがいい。例えば、今回のように高卒者が多数いて、そこに大卒が数人入る時は、嫉妬などの感情が何かのはずみで働く時がある。数十人の職人の感情に発展すると、深刻である。集団で、大卒の新卒者をいじめる場合もある。今回も、それに近い側面はあるのかもしれない。

 少なくとも、高卒者が妬まないような仕組みを作っておくべきだった。例えば、高卒の職人に対し、今後のキャリアの道筋を設けて、それを繰り返し説明すると、将来についての不安は減る。それが、大卒者への嫉妬心を軽減することになる。学歴に限らないが、新卒者が可能な限りすんなりと仲間として受けいれやすい風土は作りたい。

 

神南文弥 (じんなん ぶんや) 
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。

当連載の過去記事はこちら

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