流通業界の再編が活発化している。2018年4月にイズミ(広島県)とセブン&アイ・HD(東京都)が業務提携したかと思えば、同10月にイオン(千葉県)とフジ(愛媛県)の資本業務提携を締結。直近ではドラッグストア業界ではココカラファイン(神奈川県)をめぐってマツモトキヨシHD(千葉県)とスギHD(愛知県)が争奪戦を展開するなど、従来の大手による中小チェーンの獲得から大手同士の再編に発展している。一体何が流通業界を再編へと駆り立てるのか。
HD=ホールディングス
事業や不動産だけでなく、時間と人材を買う
流通業界は再編の歴史だ。古くは不動産会社の秀和が中堅スーパーの合従連衡構想を打ち出し、総合スーパー(GMS)の忠実屋(ダイエーが吸収合併)、長崎屋(東京都)、食品スーパー(SM)のいなげや(東京都)などの株式の買い占めに動いたのが思い起こされる。
実は、この秀和の背後で動いていたのがダイエー(東京都)の創業者である中内㓛氏であったという説がある。中内氏は「一流主義より一番主義。成長には絶対一番でなければならない」という考えのもと、積極的なM&A(合併・買収)を展開した。
規模を拡大すれば、小売はメーカーとの交渉を有利に進められるようになる。仕入れ原価は下がり、買収先の店舗網を自陣に取り込むことで勢力範囲を広げられる。M&Aで相手先の事業や不動産だけでなく、それまで築いてきた時間と人材を買う−−。ダイエーのM&Aが残した教訓だ。
しかし、ダイエーは一時期3兆2000億円(1995年2月期)にまで拡大した規模を生かせなかった。小売がバイイングパワーを発揮させ、メーカーへの対抗力を確保するというのが当初のねらいだったものの、いつの間にか規模の拡大が「目的」化した。規模を活用して「質」へと転換しなければ、それは単なる膨張である。
現在、ダイエーはイオン(千葉県)傘下に入り、経営再建を進めている。ダイエーが残したM&Aの足跡は、再編が活発化する現在に通じているのだろうか。
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M&A巧者イオンの戦略
「革新的小売業」になれるか
これに対し、1番というのは全体の規模感ではなく「1店1店が地域で一番になることの積み重ねが必要」と説いたのが、セブン&アイ・HD名誉顧問の鈴木敏文氏である。現在もコンビニエンスストア業界トップをひた走るセブン-イレブン・ジャパン(東京都)はほとんどM&Aをしてこなかったことでも有名だ。
消費が伸びていた時は、再編による合従連衡が有効に機能した。その好例はイオンである。「M&A案件が浮上すると決まってイオンの名前がでてくる」(ある一般紙の記者)といわれるほど、イオンはM&Aに熱心だ。
イオンのこれまでのM&Aの歴史を振り返ると、ダイエーが本業以外にも手を広げすぎたことを他山の石とし、「本業の小売業に関連する領域でしかM&Aをしなかった」(イオン関係者)。このことが現在の売上高8兆5000億円という規模を築き上げる原動力になっている。
しかし、令和の時代になった。「もはや『GMSだ、SMだ』という業態論の時代ではない。デジタルを活用していかにお客に寄り添っていくかの時代ではないか」。あるIT企業の社長はこんな見方をする。
これからの流通に求められるものは、米国の経営学者マルカム・P・マクネアが提唱した「小売の輪」理論を持ち出すまでもなく、「革新的小売業」になれるかということであろう。
たとえばGMSが展開する各カテゴリーに対してアンチテーゼを唱えたユニクロ(山口県)はじめ、ニトリHD(北海道)、良品計画(東京都)のようなカテゴリーキラー、そして、仕入れ方法や品揃え、価格を含めたGMSそのものに挑戦を挑んだドン・キホーテ(東京都)の成長がそれを示している。
次に出てくる「革新的小売業」とはどんな企業なのか。そのために流通業はM&Aの何に価値を見出そうとしているのか。価格か、商品か、はたまたサービスか。それを具現化する競争はこれから活発化していくーー。(次回に続く)