第2回 オーケーとマルエツプチが落語人生を変えた!

落語家:立川 志ら乃
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”オーケーマルプチハーゲンダッツ問題”を寄席で披露してみると…

 「俺は本当にこれからどうしたらいいんだ…」

  その深い、得も言われぬ感情を胸に抱いたまま楽屋入りしたのが、前回の冒頭で触れた「何をやっても爪痕を残せない」と頭を抱えていた落語会「渋谷らくご」。そこで私はこういう思考にたどり着いたのです。

  「今日はどんな落語をやってもダメそうだから落語はやめよう。そして今一番心が揺さぶられている、“オーケーマルプチハーゲンダッツ問題”をぶつけてみよう」――。

 立川志ら乃

 

 「なんで落語をやらないんだ!」

 「スーパーの話なんて興味ねぇよ!」

 といった声が出ても、それはそれでちょっとした伝説になるかも。おそらくこの落語会で、落語をやらずに持ち時間を終えた落語家がまだ存在しないのであれば、とりあえず「最初」という勲章はいただけると思い、高座へ。

 ぶつけました。思いをぶつけました。なんと持ち時間30分のうち、27分スーパーの話をしました。

 あの時、客席にいた皆さん本当にありがとう。会場が爆発するんじゃないかというくらいの受け、リアクション。それまでの落語家人生の中でも間違いなくトップ3に入る超高反応をいただきました。もっとも、残りの3分でオマケのように喋った落語は正直イマイチな出来だったけど、スーパーの話が受けたのは本当。前の出番の二人の高座が見事で、お客さんがかなりいい状態に温まっていたということがプラスされるのですが、それでもあんな受け方もう体感できないだろうなと思うほどでした。

 この日のことを立川吉笑がブログで書いているのですが、要約すると

 「マクラから本編の新作落語もばっちりつくり込み、現場でも予想以上に受けたので、この日一番目立てたんじゃないのか?という気持ちで楽屋に戻り着替えていたら、楽屋のモニターから物凄い笑い声が。あれだけ僕が笑わせたのだから、お客さんはくたびれているはずなのに後に上がった志ら乃兄さんの落語でバカ受け。僕は自分の力がまだまだだと思った」

  というような内容。吉笑よ、褒めてくれてありがとう。でも落語が受けていたんじゃないんだよ!おじさんがハーゲンダッツで死ぬほど落ち込んだ話が受けていたんだよ!

 さらにこの日、ツイッターなどで、

 「師匠!ぼくの近くのスーパーではハーゲンダッツが〇〇〇円でした!」

 「今までコンビニで済ませてましたが、近くのスーパー通います!」

 「オーケー凄すぎ!!」

 など、私に対して声を掛けて下さる方多数。その日までのモヤが晴れるばかりではなく、「私にはスーパーの話が合っているのか?」と少し手応えを感じました。

 それからというもの、高座に上がるたびにスーパーの話をしていたら、新作落語最前線にいらっしゃる林家彦いち師匠から

 「志ら乃さぁ、それ、一席にまとめてみたら?」

 とのアドバイス。

  そうして、私はスーパーのネタで新作落語をつくりあげ、高座で喋りはじめました。さらに、その音源で同人CDを作成しコミケで頒布。もう落語だけじゃもの足りなくなり、トークイベント「スーパーのはなしをしよう!」を開催。そんなことをしていたら、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」という番組の企画「スーパー総選挙」のゲストとして呼ばれ、これ以上のことはないだろうと思っていたら、この連載のお話が。

 せっかくなので、本稿を借りて、これからじっくりスーパーに感謝していきます。

立川志ら乃

立川志ら乃

1974年2月24日生まれ。98年3月、立川志らくへ入門。2012年12月に真打ち昇進。16年7月に「スーパーマーケットが好きである」ことを突如自覚。スーパーに関する創作落語に「グロサリー部門」「大豆なおしらせ」など。

Twitter:@tatekawashirano

 

 

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