第6回 自分の成功体験の押し付けが部下のやる気を萎えさせる

神南文弥(じんなん ぶんや)
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自分のやり方を強制すると、意識を萎えさせてしまう

 愛する娘と結婚した男性は義理とはいえ、かわいい息子のはず。その思いが強すぎると、今回のようになるのかもしれない。私は、次のような教訓を導きたい。

こうすればよかった①
上司の若かりし頃の成功は部下にとっては「遠い昔」の話

 義父の経営手腕は優れている。だが、息子も、それ相応の結果を出してきた。義父はそのことを本当の意味では心得ていなかった可能性が高い。自分の成功を教え込めば商売繁盛し、息子は苦労をしなくてすむと思ったのではないか。しかし、その成功はあくまで義父にとってのもの。他人であり、しかも自営業で、一家言をもつ息子には成功とはいえないのかもしれない。

 これは、会社員でもいえる。上司の若かりし頃の成功は部下にとっては「遠い昔」の話に過ぎない場合もある。少なくとも、上司はそのことを心に秘めて接したほうがいい。成功は控えめに伝えるからこそ、成功に見えるのではないか。

 

こうすればよかった②
実績や成果の捉え方は、個々の背景や価値観により異なる

 さらにいえば、義父は成功と呼ぶレベルのものであったのかどうか。売上はほかのラーメンと比べて確かに多い。25年も店を維持したのはすばらしい。大多数のラーメン店は10年以内で消えていく。だが、息子からすると、それを認める思いはなかったのかもしれない。ひとりで開店し、5年間、店を経営してきた。そのまま経営していれば、義父以上に稼いだ可能性もあった。

 実績や成果の捉え方とは、人それぞれの背景や価値観により異なる。そこに共有するものを見つけるのは難しい。双方が理解し合うのは時間とエネルギーが必要だった。義父は、急ぎすぎたのではないだろうか。

こうすればよかった③
模倣の強制は、最強の武器“意識”を萎えさせる

 義父は息子に自らのコピーをさせようとしたのだろう。店を継がせるのだから、ある意味で当然だとは思う。しかし、模倣の強制はそれを刷り込まれる側の感情やプライドを傷つける場合が少なくない。そして、自営業者の最強の武器ともいえる「意識」を萎えさせる場合すらある。会社員とは異なり、前向きな姿勢や考え方こそ、最大の資産ともいえるだろう。模倣の強制は、それを破壊する。

 1から教える場合、あるレベルに達する時期までは、マネをするべきだろう。そして、手取り足とりと教え込むべきだ。だが、今回のケースはそれとは違う。結局、義父はラーメンを作らせれば、ほかの店を圧倒する力はあった。だが、後継者を育て上げる力は著しく低かったのだ。今回の事例は、プレーヤーとしては優秀だが、部下を育てられない上司としては無能なケースに置き換えるとわかりやすい。

 

神南文弥 (じんなん ぶんや) 
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。

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