福岡県を地盤に全国にディスカウントストア(DS)を展開するミスターマックス・ホールディングス。かねてより取り組んでいる商品・オペレーション改革の成果が花開きはじめ、同社の業績はここ数年堅調に推移している。今期はデジタル技術に関する実験を構想するなど、次世代に向けた種蒔きも始めるという同社は現在どのような成長戦略を描いているのか。平野能章社長に聞いた。
オペレーションコストを“仕組み”で減らす!
──はじめに、ここ数年の業績の推移について教えてください。
平野 当社では、4年ほど前から現在に至るまで、商品およびオペレーションの改革に取り組んでいます。最初の1、2年は成果が出ませんでしたが、3年目に入ったあたりから数字が一気に上向き始めました。その結果、2018年2月期の通期業績では、営業利益は過去最高を更新、既存店売上高伸び率は対前期比3.3%増と、世間的にも評価していただける数字を残せたのではないかと思います。
──商品およびオペレーションの改革とはどのようなものなのでしょうか。
平野 赤字(編集部注:15年3月期は8億円の営業赤字)からの早期回復をめざすなかで、最初の1、2年は“力技”のような手法でコストを削減しようとしてきました。しかし、そのようなやり方は長続きしません。そこで考えたのが、“仕組み”でどうコストを減らしていけるのかということでした。売場状態の悪化などを極力避けながら、コストや人員を削減できる“仕組み”をつくろうとしました。
DSを標榜する以上、何よりも重要なのは「モノを安く売ること」です。しかし、競合他社よりも安く提供するというのは、原価の引き下げだけではできません。それよりも、どの競合よりも安くオペレーションするということが重要となります。オペレーションコストをうまく削減できたことが、18年2月期の好業績につながっています。
圧倒的に売れる商品を今まで以上に売るには
──オペレーションコストを削減する“仕組み”の具体的な内容を教えてください。
平野 とくに力を入れたのはストアマネジメントです。店次長から社員、アルバイトスタッフまで、従業員の動きを分析し、「必要な作業だけをやってもらう」ことを徹底しました。
その一例が補充作業です。たとえば、土曜日の夕方の時間帯になると、店頭在庫は減っていきます。こうした場合、これまでは『品切れはお客さまの迷惑になる』という考えのもと、棚欠品をさせないことを徹底していました。それでも、優秀なアルバイトや社員は、店頭在庫が減ってくるとすぐに商品を補充しようとします。
しかし販売データを分析すると、夕方の時点でたとえば在庫が100個あれば閉店時まで在庫数がゼロにならない、つまり欠品しない商品が数多くあることがわかってきました。そのような商品は補充をする必要がないわけですから前陳だけをやればいいわけです。このようなかたちで、マネジャー主導のもと、商品を補充するタイミングをカテゴリーごと、場合によっては商品ごとに設定していきました。
──補充作業を減らす取り組みが成果に結びついているのですね。
平野 商品部には棚割りを見直させました。仮に、ある店舗でペットボトルのお茶が1日500本売れるとします。この場合、店頭に山積みに陳列したとしても、ゴンドラに300本しか置けないようであれば補充作業が必ず発生することになります。
そこで取り組んだのは「それならば、500本置けるようにしよう」ということです。小売業の基本中の基本ですが、売れ数と陳列数を一致させる。この大原則を守るための棚割りづくりに力を注ぎました。
その結果、たとえば飲料のSKUは現在、一般的な食品スーパー(SM)よりも少なくなりました。ですが、1品あたりの陳列量は競合他社より多くなりました。これを突き詰めていくと、圧倒的に売れていた商品が今まで以上により売れるようになっていきます。ボリューム陳列を展開できれば、店内でお客さまの目を引くこともできます。
補充頻度が減ると、人件費が下がり、営業利益が上がってきます。飲料のような売上高のボリュームが大きな部門では、こうした効果が顕著に表れています。
成長ドライバーは食品とHBC
──2019年2月期のここまでの状況を教えてください。
平野 第3四半期までは苦戦しています。要因は反動減です。当社はここ数年、国内EC向けに水の販売を強化していましたが、利益率が低いこともあり、販売を縮小しました。また、好調を続けていたインバウンド向けの紙おむつの販売が徐々に落ち着いてきており、反動減が表れています。
これら2つの反動減の影響により、第3四半期の連結売上高は対前年比0.5%減となりました。幸い、紙おむつとネット販売の縮小分を考慮しない場合の売上高は同0.4%増と前年同期実績をクリアしています。
──今後の注力部門を教えてください。
平野 食品とHBC(ヘルス&ビューティケア)が、2大成長ドライバーです。ここは安定的に強くなってきています。売上高構成比でいうと、食品が34%で、HBCが21%です。とくに食品では、飲料と菓子、米といった商品群は“勝ちパターン”が見えてきており、SMにも負けない自信がついてきました。
一方で課題となっているのが、加工食品と冷凍食品です。ここはメーカーや問屋さんの政策の見直しを含め、カテゴリー全体の組み直しを考えなければなりません。
加工食品については自社開発商品を増やしていきますが、冷凍食品は配送料や什器への投資といったコストの問題があるほか、粗利益率が低いうえ、さらに競争も激しい。まだ答えは見つけていませんが、売上高は伸びているカテゴリーですので、慎重かつ確実に変えていかなければいけない部門だと認識しています。
デベロッパーにとって“使い勝手のいい”業態に
──中長期の成長戦略はどのように描いていますか。
平野 当社は17年9月に持ち株会社制に移行しました。ミスターマックス・ホールディングスという会社のもとで、共に事業を行っていく仲間を増やしていきたいという思いからです。
業種はDSだけでなく、SM、ホームセンター(HC)などの小売業を想定しています。当社が掲げる「普段の暮らしをより豊かに、より便利に、より楽しく」という理念を共有し、EDLPで良いモノを安く提供するという考えが共有できる企業とグループになりたいと考えています。お話しできるような取り組みはまだありませんが、できるだけ早いうちにグループ全体で影響力のあるサイズにならなければいけないと思います。
──成長戦略における出店の位置づけを教えてください。
平野 自前の大型店をつくるのが最良ですが、最近は出店できる土地がありません。直近では17年3月に総合スーパーの退店跡に「MrMax守谷店」(茨城県守谷市)、18年7月にはショッピングセンター内に「MrMax南桜井店」(埼玉県春日部市)を開業しました。居抜き出店は何回か失敗をした経験がありますが、ようやく軌道に乗ってきたと手応えを感じています。
デベロッパーさんに話を聞くと、出店テナントを集める際、SMやドラッグストアはたくさん手が挙がるそうですが、売場面積1000~1500坪を埋めるようなテナントはなかなか見つからないとのことでした。そのくらいの売場面積となるとHC業態の出店が考えられますが、賃料負担力の面で難しい。そこで当社に声がかかるわけです。今後はこのようなチャンスが増えていくとみています。デベロッパーさんからみたときに、“使い勝手のいい”業態でありたいと思います。
──新たなチャレンジの構想はありますか。
平野 昨年は中国の先進的な小売業を見て回り、彼らのフットワークの軽さや実証主義的な考え方に衝撃を受けました。また、当社と同じ福岡県地盤のDSであるトライアルさんにも大いに刺激を受けています。そこで当社でも2020年2月期中に、ある程度の規模でデジタル技術に関する実験をスタートしたいと考えています。
もう1つは小型店です。一般に小型店といえば食品比率が上がりがちですが、これを一定に抑え、DSの品揃えをベースとした、非食品で戦える都市型小型店を展開したいと考えています。
将来的にねらうのは都心のマーケットです。都心は1店舗でも出店できれば、それだけでビジネスになりえますので、できるだけ早く展開していきたいと考えています。