離職率を下げる制度づくりに、従業員を参加させる効果!

斉藤永幸
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「若手社員の離職率を下げる!」本連載もいよいよ実践段階。これまでみてきた事例や考え方を自社でいかに取り入れ、運用していくかについて解説していきたい。

喫煙所の廃止がリードタイムを悪化させた工場の話

 前回、職場の人間関係の構築において、CSR活動を推進することの意義について解説したが、もう少し補足したい。

 社員がボランティア活動に参加することで得られるのは、企業イメージの向上だけでない、というのは前述したとおりだが、こうした活動で得られる2軸の人間関係が、離職のブレーキになる。1つはボランティア活動で得られた人間関係、もう1つはボランティアを通して関わる同じ会社の人間関係、である。

 以前、ある自動車関連メーカーで大きな騒動が起こった。きっかけとなったのは喫煙所の廃止。その会社で喫煙所は、様々な人が集う場として機能していた。営業、技術、管理、さらに新人からベテランまで。技術的な問題が起き、新人が悩んでいると、喫煙室にいるベテランに相談し解決する、ということも多かった。しかし、近年の流れで喫煙所が廃止された結果、試作品など技術が要求されるものの受注から納品までの期間が25%も増えてしまったというのである。

 喫煙所の廃止自体は、時代の流れである以上しょうがないのかもしれない。しかし、同じ会社の様々な人が集まる場、というのが大きな影響を及ぼし、必要だということが認知されたのである。

 その意味で、実はボランティアの場が、社員同士の交流の場となりえるのだ。様々な店舗の、新人やベテランが集まり、一つのことに取り組む。それだけで大きな意義があるといえるだろう。普段接することの少ない人とコミュニケーションを取ることで、新しいアイデアも生まれ、情報が活発になる。それは即、離職率の低下にもつながってくる。

 もちろんCSRに限らず、他の場を用意することも可能だ。こうした効果を狙ってか、社内で部活動やサークル活動など、一時期廃止されたものを復活させた企業も増えている。

 

自社に適用する方法は制度づくりに携わらせること

 離職率を低下させるために効果のあるものを、自分の経験からいくつかピックアップしてきたが、それに対して以下のような反感を持つ人もいるだろう。

 「なぜ部下や新人のために、会社がここまでやらなければならないのか」と。その感覚はある意味正しいし、ある意味間違っている。

 世の中の価値観は、時代と共に変化していく。それ自体が良い/悪い、という問題ではなく「どうしようもない」ものとして受け止めるべきことなのだ。就職・転職・離職といったものには、その価値観が大きく表れる。ただ、それを受け止めるか、はじき返すか、の差でしかない。それを受け止めることで利益があるのであれば、やはり受け止めるべきだし、そのためには自分自身も変化させていくのが正解なのだろう。

 ただ、今回挙げた離職率を下げるやり方などは、即効性は少ないものばかりだ。一方、劇的に離職率を下げようとすれば、それだけ反動が生じる。会社の理念を強烈に植え込み、管理をするなどすれば離職率を一時的に下げることは可能だろう。しかしそうすることで鬱病が社内で多く発生してしまったり、さらなるトラブルを招く可能性も高い。突き詰めていえば、離職率を低下させるには人間関係を良くする、ということに尽きる。そしてそれが一番コストもかからず、効果も高いのである。そして離職率を下げることができれば、社内のモチベーションが高くなり、生産性も向上するのだ。

 今回紹介した手法は、あくまでも一例だ。これをそのまま自社で使おうとしても企業文化や人事制度などの違いから、うまくいかないことも多いだろう。では自社の離職率を下げるにはどうすればいいのか。それは、会社や上司がルートを示しながら、社員一人ひとりに考えさせることだ。

 企業が様々な制度を整備しても、社員からすると「余計なお世話」であったり、使いづらく利用されないケースも多くある。そのため、こうした離職率を下げる制度や仕組みは、トップダウンではなく、ボトムアップでの制度作りが効果的なのだ。

 こうした制度作りに携わることで、社員のモチベーションもアップする。同時に、プロセスを公開することで、効果を高めることができる。制度を作る過程、そして完成までを他人事ではなく「自分事化(じぶんごとか)」させるのである。

 自分が離職率を下げる仕組み作りに携われば、その社員はやはり辞めたいと思ってもブレーキがかかるだろう。同時に制度作りという仕事に携わることで、やりがいや達成感、さらに社員の間で連帯感などが生まれれば、離職率低下の仕組み作りは成功といえるだろう。

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