連載「若手社員の離職率を下げる!」第3回はCSR(企業の社会的責任)に取り組むことが、どうして離職率向上につながるのだろうか?実はこんなロジックがある。第1回で説明した“気持ち”で働く若手社員の期待に応えるものでもあるのだ。
職場の人間関係が豊かになれば離職は防げる
CSRの効果は2つある。1つは企業イメージの向上だ。あるいは「企業のポジションを明確にする」効果もある。例えば衣料品ブランドのパタゴニアなどは、自然環境保護活動を行うNPOや公益団体を積極的に支援している。企業の立ち位置を明確にすることで、他のブランドとの差別化を図ることができるのだ。
転職サイトのマイナビが行った、「ビジネスパーソンを対象とした意識調査」(アンケート)によれば、企業理念について、「とても重要だと思う」(27.8%)、「どちらかというと重要だと思う」(48.8%)と、所属している企業理念への共感を重視している人が多いという結果が出ている(https://news.mynavi.jp/article/20181212-739892/)。
その一方で、企業理念を全社員に浸透させることは非常に時間がかかる。そこで、企業理念と関連するような、CSR活動に取り組むことで、社員に会社の姿勢をしっかりと認識してもらうことができる。自分の所属している会社は、こんな活動を行っていて、実際にこんな人たちを助けているんだ、ということが分かれば、社員の意識も変わってくるのだ。
これを一歩進めて、会社の福利厚生として活用している企業もある。大手電機メーカーでは、様々なNPOや公益法人と提携しており、ボランティア活動などに興味のある社員に対し、紹介や活動の斡旋を行い、さらにCSR休暇を与えるなどしている。
この効果はかなり高いようで、会社の代表としてボランティア活動に参加することで、「会社への帰属意識が高まった」、「自分の仕事の意義を改めて見直すことができた」、などの声が聞かれたと言う。
実際に行っている企業の人事部にインタビューをしたところ、他にも様々な効果があるようだ。
たとえば一人暮らしの社員は、以前は休日を家で寝て過ごすという人が多かったそうだが、CSR活動に会社が積極的に取り組むことで、休日をボランティアなどで過ごす人の割合が増えた。これにより、人間関係が豊かになり、発言が増したり、仕事上でのアイデアがたくさん出されるようになった、などの効果もあるという。さらにモラルが向上し、不祥事などのリスクも減らすことができる、と指摘していた。
離職率を低下させるには、人間関係が豊かであるかどうかが重要なファクターであることが実感できただろうか。孤独な人ほど極端な行動に走りやすく、ちょっとしたことで離職する、ということも多いようだ。それを防ぐだけでも、大きな意味がある。同時にCSRは、企業が一方的に利益を社会に還元するイメージがあるが、そうではなく、企業もまた離職率の低下など、様々なメリットを享受できるのである。
親が離職を踏みとどめてくれる!
以前、“採用の面接に親がついてくる人が増えている”というニュースが流れたことがある。「今の若い人は過保護に育てられている」、「今の親はどうしようもない」など、否定的なニュアンスを含んだ内容だった。
ただ、就職先を決める際、親を頼りにする人は増加傾向にある。HR総研が行ったアンケート調査(https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=171)によると、就職のことでよく相談する人への回答として、最も多いのが友人だが、次いで母親39.4%、父親25%の順だった。
実際に親が就職に及ぼす影響は大きく、企業は採用に際して親にアプローチすることも増えている。中には親に対して職場見学会などを開催しているところもあるほどだ。
しかも親に対するアプローチは、離職率を低下させる効果が高い。先に述べたように、離職の理由は人間関係が非常に多い。ファジーな問題で「辞める」に至っているのだ。こうした際、ちょっと引き留めてくれる身近な人がいるかどうか、が重要になってくる。
そこで、親が職場に肯定的な意見を持っていると、大きな効果がある。親が知っている企業か、親が安心できる企業か、というのは離職を防ぐために大きな要素となってくるのである。
実際、親の職場見学会を開催している企業では、離職率が大きく減ったところもある。
子どもが「転職したい」と相談した時、親が「もうちょっと頑張ってみたら」「あんな良い会社辞めるのはもったいない」という言葉があれば、踏みとどまることが多いのだ。
またある企業では、部下の奥さんの誕生日に、上司が必ず簡単なプレゼントをするそうだ。すると奥さんの会社に対する好感度が上がり、離職率も改善したそうだ。
昭和の時代、会社は社員と家族ぐるみで付き合っていた、というところも多くあった。
親は子供の働いている職場の上司の顔を知っているし、上司は部下の奥さんはもちろん、子供のことも良く知っていた。そんな風景が当たり前だった。しかし、近年ではそうした環境は非常に少なくなり、離職に際し、ブレーキとなる部分が失われている状態なのだ。これをうまく復活できれば、離職率を減らすことにつながる。