#1 経済疲弊の地・北海道で、なぜチェーンストアだけが成長し続けるのか

浜中淳(北海道新聞)
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アークスのラルズマート啓明店(札幌市内)
アークスのラルズマート啓明店(札幌市内)

北海道現象が起こる“法則”とは!?

 ここで重要なのは、鈴木さんは「北海道現象」を単なる表層的な「現象」ととらえるのではなく、なぜ北海道のように経済が疲弊した土地で急成長企業が次々と誕生しているのか、その合理的な「法則」をきちんと見いだしていたことです。

 「北海道現象」を起こした5社は、それぞれの小売業態で道内ダントツの存在です。当時の北海道のように誰もが「不況で暮らしが大変だ」と強く意識するようになれば、無駄な買い物をしなくなります。消費者は価格やサービスの中身を厳しく選別し、その結果として各業態のトップ企業に支持が集まって「独り勝ち」状態になる、というわけです。先述した通り、この5社は拓銀破綻直後の決算で過去最高益を更新しました。特徴的なのは、不況の影響で客単価が減少したものの、それを補って余りある客数増によって増収増益を達成したということです。不況が厳しくなるほど、同じ業態の2番手以下の企業から客を奪っていくので、トップ企業の独り勝ちが加速するということになります。

 もともと北海道は小売業にとって、全く恵まれていない市場です。九州の倍の面積に、約4割の人口しかおらず、物流に手間がかかる上に、購買力も決して高くない。早い段階から効率的な経営を意識してきた企業でなければ、成長どころか、生存を続けることすらできません。北海道は力のない企業が淘汰され、寡占化しやすい環境の市場だと言えます。そうして生き残った企業の中から、真のナンバーワン企業を決める「決勝戦」の意味合いを持ったのが、拓銀破綻後の不況でした。これが関東のような恵まれた市場になると、なかなか域内の勝負がつかず、かえって本物のエリアナンバーワン企業が生まれにくいのです。

イオン北海道の「まいばずけっと」(札幌市内)
イオン北海道の「まいばずけっと」(札幌市内)

 冒頭紹介したCSA誌の特集は「北海道現象-不況下に成長企業が出現する」というタイトルで98年10月15日号に掲載されました。「発見者」の鈴木さんと、当時の帝国データバンク札幌支店情報部部長補佐、それに私の原稿で構成されたこの特集が「北海道現象」を最初に紹介した一般メディアということになるようです。その後、北海道新聞をはじめとする一般紙や週刊誌なども取り上げ、「北海道現象」は流通業界の枠を超えて知られるようになっていきます。拓銀が破綻し、意気消沈していた道民にとっては「経済再生への希望」という意味合いを持つようになりました。何より「北海道現象」の当事者たちが自らの経営に自信を深め、さらに強い企業に成長していった効果も見逃せません。

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新ステージに入った北海道現象!

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