三陽商会「大江改革」の実態 繰り返す縮小均衡と連続赤字の先にある希望とは

河合 拓
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三陽商会の分岐点は、文化にそぐわない「SPA」を選んだこと

三陽商会の自社ECサイト
三陽商会の自社ECサイト

 このようにファンドそしてコンサルタントに翻弄された三陽商会。

 同社の変革を横で見ているだけで手も足も出せなかった私は、三陽商会という会社の性格を以下のように分析している。

 三陽商会は、寡黙で、自らの行動の合理性をもってバーバル・コミュニケート(言葉で交流する)する文化をもっていない、つまり、職人の集まりが会社になったような組織だった、と。

 そこに「口達者なコンサル」が入ればどうなるか。

  三陽商会の暗黙的コミュニケーションは崩れ、組織は「ある意味コンサルの思いのまま」になる。

 いつしか三陽商会はリストラを繰り返し、2015年に現預金(正確には現預金+未収入金)345億円、売上高974億円あったものが、2020年には現預金171億円、売上高688億円に減少していた。

 何が起きたのか病院の中からでは皆目知れず、ただ新聞報道を読み、思いを張り巡らすしかなかった。ただ、私からみて理解不能な改革が繰り返され、机上の空論のような組織になっていったように思う。

 当時の三陽商会の内乱の様子は、ダイヤモンド・オンラインの「三陽商会「大甘再生プラン」で内輪揉め、ガバナンス不全で大迷走の内情」という記事に詳しく書かれている。

 この記事では、再生プランに示されている販管費の削減は現実味がなく「大甘」と断じているが、決してそんなことはない。企業再生とはジャンプする前に一度しゃがむ。トップライン(売上高)の身の丈にあったコスト構造に変えるのは王道だ。

 しかし、私が最も理解不能だったできごとは、2018年度にEC支援子会社ルビー・グループを買収したこと、そして2021年に同社をソニーグループへ16億円で売却したことだ。

 ルビー・グループを活用した仕掛けは、華々しかったが浮世離れしていた。

 それは、新ブランド「CAST:」(キャスト)を立ち上げ、シネマコマースと命名された30分の映画を見ながら服を買うという仕掛けである。コンテンツ・コマースの行き着く先は物語であり、メタバースであると私は考えている。だが、ヒットもしていないような映画を30分も流し、それをお客が見てくれて、しかもその出演者が着用している服を買ってくれると考えるのは、どう考えても理解できない。

 企業は、製造業型と小売型の2種類に分かれる。三陽商会は典型的な製造業型であり机上のSPA(製造小売業)への転換は、組織が積み上げた文化にそぐわなかった

 彼らは、もっと製造業として生き残ってゆくべきだったと私は思う。

 では、いよいよ現社長・大江伸治氏による改革の実態と成果を、決算数値を分析しながら解説していきたいと思う。

 

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