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出版市場は堅調も書店の店舗数減少には歯止めかからず……リアル書店の生き残り策は?

長時間立ち読みをしていると店主からハタキをかけられる。そこまでいかなくても「いい加減にしなよ! 坊やは〇〇小学校?」とどやされる……1960年代は1つの街に何軒も「本屋さん」があった。当時は少年漫画の全盛期で、発売日には分厚い週刊漫画誌が店頭に並んでいた。そんな本屋さんが、街から急激に姿を消している。書店に行けなくなることで私たちは何を失うのか。本稿では、大量閉店が相次ぐ書店業界がこれまで果たしてきた役割、今後の展望について考えてみたい。

Yokko/istock

歯止めかからぬ書店の減少

 出版科学研究所の公表資料によると、1998年に約2万2000軒あった書店は、毎年3~5%のペースで減少し、2020年には約1万1000件と約22年間で半減した。

 大手書店も例外ではなく、店舗数を減らしている。上場書店の三洋堂ホールディングス(愛知県)はピークの89店舗(2014年)から2022年6月には76店舗にまで減少。同じく上場書店の文教堂ホールディングス(神奈川県)は137店舗(2014年)から87店舗に店数を減らしている。丸善CHIホールディングス(東京都)も21年7月に「丸善池袋店」を閉店、23年1月にも「丸善渋谷店」を閉店することを発表している。

 書店大量閉店の背景にあるのは、売上の低迷だ。

 出版市場全体が振るわないわけではない。1996年のピーク(2.65兆円)以来下落し続けてきた出版販売額は、2018年の1.54兆円を底に持ち直しつつあり、2021年は1.67兆円に回復。ここ3年は前年比プラスが続いている。

 そのけん引役となっているのがコミックを中心とした電子書籍で、3年間で販売泊は倍増の勢い(2018年:0.24兆円→2021年:0.46兆円) だ。爆発的ヒットとなった「鬼滅の刃」をはじめ映像化作品がマーケット拡大に寄与した格好だ。

 「少年マガジン」を出版する講談社や「少年ジャンプ」を擁する集英社、デジタル化に注力したKADOKAWAと、大手出版社の業績はここ数年堅調に推移している。出版社は原作の版権を握っているケースが多く、映像化やキャラクターグッズ販売などのライツビジネスで「2度」稼げる。加えて出版社には、雑誌の広告収入も入ってくる。要するに、出版社は「本を売る」以外にもさまざまな収益源がある。

 一方、書店や取次店は「本を売って」稼ぐしかない。しかし出版復調の中、紙媒体は相変わらず低落が止まらない。

 紙書籍の市場規模はこの3年間で7%もダウンした(2018年1.29兆円→2021年1.20兆円)。1.2兆円という数字は、ピーク時と比べると半分以下の水準だ。本の単価自体は上昇傾向にあることを踏まえると、売れている冊数はもっと落ち込んでいるようだ。

 さらに、しぼんでしまった紙媒体の市場をネット書店が侵食しており、リアル書店はますます生き残りが難しくなっている。

複合型店舗の開発は書店の活路になるか

pukupix/istock

 書店生き残り策として有力な選択肢の1つが、「複合書店」と呼ばれる新業態の開発だ。「複合」の歴史は古く、書店では以前から本と親和性の高い文房具を取り扱ってきた。ただ、文房具はおおむね単価が安く利幅が薄いうえに、書籍・雑誌と違って小売店買取を基本としており、書店にとってはうまみの少ないビジネスといえる。

 CDやDVDのレンタルもユーザー層が近いことから、かつては本屋と併設するケースが多くみられたものの、音楽業界もネット配信に追われ、レンタル店そのものの廃業が相次いでいる状態だ。

 そうした中、大手書店を中心に成長性が見込まれかつ一定水準以上「稼げる」商材・サービス探求に向けた取り組みが進んでいる。

 最近多く見かけるようになったのが、カフェを併設した複合店舗だ。「TSUTAYA」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(東京都:以下、CCC)は、「スターバックス」と提携して「Book&Cafe」を展開する。

 また、行政との連携も有力な選択肢だが、実現のハードルは高い。CCCによる「ツタヤ図書館」の取り組みも、開館時間延長や貸本の宅配などで利便性を高めた結果、多くの利用者を集めたものの、民間業者による運営には購入書籍選択などに課題を残し、関係者による反対の声も根強い。

ネットにはないリアル書店の魅力

 世はネット時代、消費行動の多くがオンラインにシフトしている中で電子書籍や本のオンライン購入も当たり前になった。それでも、書店にはネットでは味わえない魅力がある。

 新刊コーナーに山積みされた話題の書籍から自分好みの本を探す楽しさは、ネットでは代替できない。マニア向けの専門雑誌や専門書との出会いも書店に行く醍醐味の1つだ。地方では、書店は地域の住民が集うコミュニティースペースの役割を果たしている。

 出版文化を支え、次代に継承していくためにも書店には経営努力を重ね生き残りを模索してほしいところだ。