粗利率94%、営業利益率30%で在庫ゼロ!ZOZO、脅威のビジネスモデルをプロが分析

河合 拓
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非アパレルで事業拡大見込めるZOZOFIT

  次にWEARについて論じたい。「世界最大のファッションコーディネイトアプリ」と同社は「WEAR」アプリを称賛し続けているが、私はそうではないと感じている。少なくとも、同じ機能はInstagram(インスタグラム)がもっており、女子達の多くはインスタでインフルエンサーを追いかけ、WEARなど見ていない。いや、正確にいえばファッションオタクだけの遊び場になっており、これではZOZOTOWNの認知を広げるには至らないだろう。これは、どの統計を見ても明らかだ。ZOZOほどの開発力があれば、APIを公開したといわれるインスタグラムに結合して、ZOZOTOWNに誘導するアプリを作るべきだろう。

 大きな可能性を秘めているのがZOZOFITだ。ZOZOの新しい技術で、技術優先による大失敗、話題性だけでAcquisitionだけは成功し低コストで大量の顧客データを貯めることにだけ成功したZOZOSUITSをつかって、カラダの変化を計測し、必要な食事のレシピから運動、サプリまでをレコメンドするデジタル・パーソナル・サービスである。この発想は、腕の立つマーケターによるものではないかと思うほど、「この手があったか」と驚いたぐらいだ。  
 私は、ZOZOSUITSをリリース当初から散々批判し、「あんなものは誰も着ない。特に女子は絶対に着ない」と断じ、あちこちのファッション専門学校で講義の前に「この中でZOZOSUITSを着る人?」といって、手を上げさせたが、誰も手を上げなかった。私は、サイズの問題は、AppleiPhoneにデフォルトでついているライダースキャナーとメジャーアプリの二つで理論上計測は可能であり、近い将来、アップルは物体の計測技術をつかってビジネスをやるだろうと予想した。それまで、アップルはARVRをつかって、拡張現実の世界でサイズビジネスをするはずだと。しかし、ZOZOSUITSはこのようにスポーツ分野に使えば無限の可能性をもっており、大手商社に邪魔をされたが、下着メーカとスポーツメーカの事業統合戦略のコンサルティングの仕事をしていたとき、当時IBMにいた私が考えていた戦略と全く同じだ。ぜひ、成功してもらいたいと思う。

 この戦略をまず米国でリリースしたとZOZOは述べているが、これも正しいアプローチだ。日本に比べて米国の医療費は恐ろしいほど高く、ガン患者が一人でたら家が潰れるといわれるほどで、予防医療にもっとも力を入れているからだ。あのApple Watchも、数多くの健康管理技術を導入し、Apple Watchを健康管理ツールにしている。あのスーツをファッション好きな女子に着させるのはほぼ不可能だ。しかし、健康管理ならどうだろう。私は月に一度定期検診にゆくが、着ている衣料を着替えていろいろな検査をする。もう少し高い精度になる必要があるが、マーケティング的には非常に正しいアプローチだ。

図4ZOZOFIT(出所:同社決算説明資料)

ZOZO好調の秘密と死角

 さて、ZOZOは、膨大な顧客のデータベースを持ち、そのデータベースを活用したいテナントに30% の利用料金を徴収し、1600億円の売上を持ち粗利は脅威の94%。在庫リスクは一切持たず、売上を求めるテナントが増えれば増えるほど、顧客のビッグデータは巨大化しビジネスモデルは盤石となる。「成長」と言う2文字以外のものが見えない状況だ。

 最後にキャッシュフローについて触れると、同社は、キャッシュコンバージョンサイクルがマイナスという脅威の資金繰りが、彼らをキャッシュリッチにさせている。キャッシュコンバージョンサイクルがマイナスというのは、お金をもらってから支払うという意味だ。よく考えてもらいたい。例えば、100億円の事業をする場合、手元資金がゼロでも、100億円を先にもらって、その後に80億円を支払えばよいのだ。つまり、手元資金がゼロでもいくらでも成長する。これは、B2Bでは、日本の締め支払いという独特の慣習があるにもかかわらず、販売はCOD (Cash on delivery: 商品を渡した瞬間お金をもらう)という収支差がマイナスになっているからである。こうした仕組みから潤沢なキャッシュを使い、彼らはデジタル投資、人材投資、ブランディングを強化し、競合が追随できないように先を行っているのである。

  しかし、無敵と思われるZOZOに死角はないのだろうか?私は、オンワード、ユナイテッドアローズのように、ZOZOTOWNで、ある程度ブランドが有名になれば、自社ECに移ってゆくだろうと思う。百貨店でもようやく理解し、百貨店がデベロッパー化して顧客データをテナントに渡す動きが増えてきたように、アパレル企業が顧客データを持たないということは、今後の競争優位をもつ上でありえない話だと思う。

 今まで、リアル店舗中心に事業を展開してきたアパレルに、優秀なプログラマーやデータサイエンティストが入ってきているが、彼らと話をすると、多くが「うちの役員は全くデジタルマーケ、OMOを理解していない」という声を聞く。

 こうしたプレッシャーから、私がここに記したような、売上とのトレードオフにより、ZOZOTOWNの蟻地獄に入ることが分かってきたからだ。ファーストリテイリングは、一切、他社ECに出店していない(&モールには例外的にでている)ことを思い出してもらいたい。それでも、彼らは日本で1兆円の売上をあげているのだ。デジタル技術というのは、私が警報を鳴らしたシーインもそうだが、自分たちが昔のやり方だと思ってやっていることが、実は、デジタル・モンスターをどんどん成長させ、山のようにキャッシュや顧客を差し出しているのである。

 こうしたデジタル蟻地獄をアパレルが読めるかどうかが、ZOZOTOWNの将来を決めることになるだろう。

 

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
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