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最大の経営課題は人材育成!持株会社移行で事業展開を機動的に=フレッセイHD植木威行社長

群馬県や栃木県、埼玉県に46店舗の食品スーパー(SM)を展開するフレッセイ(群馬県/植木威行社長)。2011年9月に持株会社体制へ移行し、フレッセイホールディングス(群馬県:以下、フレッセイHD)が誕生した。持株会社と傘下の事業会社の役割を明確にし、事業展開を機動的に進める。事業戦略について植木社長に聞いた。

2012年2月期は増収増益の見込み

──はじめに、足元の状況について教えてください。

フレッセイホールディングス代表取締役社長
植木 威行 うえき・たけゆき
1971年、群馬県生まれ。東京経済大学経営学部卒。シジシージャパン勤務後、98年にフレッセイ入社。2001年から常務、03年から副社長を務める。09年5月、代表取締役社長に就任(現任)。2011年9月、グループの持株会社への移行後は、フレッセイHDの代表取締役社長を兼務。

植木 既存店の売上高は全国的な基調とほぼ同じように推移しています。2月は当社の創業月であり、「大創業祭」を実施していますから、売上高はほかのSMチェーンと比べてもともと高いのです。新店の売上が好調に推移していることもあって、全体の売上高は増収基調にあります。2012年2月期は増収増益で着地できる見込みです。

──北関東は、SMチェーンの競争がとくに激しいエリアの1つです。その中でも着実に企業規模を拡大しています。

植木 北関東にはベイシア(群馬県/赤石好弘社長)さんをはじめとしたEDLP(エブリデイ・ロー・プライス)が特徴のSMチェーンや、ヤオコー(埼玉県/川野清巳社長)さんやヨークベニマル(福島県/大髙善興社長)さんのような「食の提案型」SMなど、さまざまなタイプのチェーンがあります。しかもどの企業も優秀で、伍して戦っていくことは大変なエリアだととらえています。

 とくに当社は、低価格を前面に打ち出すチェーンさんと長年競争をしてきて、多くのノウハウを学ばせていただきました。たとえば15年ほど前にディスカウントストアの「ビッグハウス」業態にチャレンジしましたが、うまくいかずに断念した経験もあります。現在でもローコスト運営の分野は不得手だと認識していますので、そういったところの改善余地は相当残っていると感じています。

持株会社体制移行の理由は「人材戦略」にあり!

──さて、フレッセイは11年9月に持株会社体制に移行しました。そのねらいは何ですか。

植木 持株会社の下には、SM事業会社のフレッセイ、物流事業会社の力丸流通サービス(群馬県/福島計吉社長)、自動車販売事業会社の清和コーポレーション(群馬県/植木康夫社長)の3社があります。

 持株会社体制への移行の目的は、(1)人材の育成、確保、採用、(2)事業展開の機動性アップ、(3)間接業務の効率化の3つです。

──いちばんはじめに「人材の育成、確保、採用」を挙げていますが、持株会社体制になることでどのように変わっていくのですか。

植木 持株会社へ移行するうえで、持株会社と事業会社の役割をまずは明確に定義しました。そしてフレッセイHDや各事業会社はどのような業務を行うのか、またグループにはどのような人材が必要なのかといったことを固めていきました。持株会社と事業子会社のそれぞれの役割に合った人材を適材適所に配置し、最終的にはフレッセイHDに外部から優秀な人材を受け入れることもできるように制度をつくりました。

──プロフェッショナルな人材を適材適所に配置するということですね。

植木 そのとおりです。

 たとえば、企画やIT部門の業務は、業界・業種を問わず、求められる能力、資質はほぼ一緒です。店舗開発部門においても、物件の選定から、ショッピングセンターをしっかりと管理運営できる能力は、小売業界だけに限らず、さまざまな業界・業種で求められると考えています。これから先、食品小売市場は業態の垣根を超えた競争が激しくなりますので、従来のような方法でゼネラリストを育成するだけでは競争に勝つことはできないと考えました。

 一つひとつのセクションでプロフェッショナルを育てるためには、その人材に求める能力、姿を明らかにする必要があります。ある分野に特化した能力を持っている人材は、十分そのセクションで活躍できるでしょう。

 そのような人材を私は「星型人間」と呼んでいます。コミュニケーション力は低いけれども、ある分野においては右に出る人間がいないといった「星型人間」でも、しっかりと活躍できる仕組みや評価制度をつくってあげれば、会社の中で大きな力を発揮できます。持株会社化でそういった仕組みをつくろうと考えました。

──SM事業会社のフレッセイはどのような人材を求めていますか。

植木 店舗運営に求める人材は、とにかく接客業が大好きで、お客さまがどういったことを求めているのかを常に考えているような人材です。

 持株会社とSM事業会社では、求める人材像がそもそも異なり、そこを分けて考えていないとプロフェッショナルは育てられません。制度も教育の仕方も分けて考えなくてはならないのです。持株会社への移行で、そういった制度、仕組みに則って事業を展開していく土台ができたと自負しています。

新フォーマット「クラシーズ」が好調

──11年は新フォーマットの開発にもチャレンジしています。

植木 はい。11年11月25日に群馬県伊勢崎市へ開業した近隣型ショッピングセンター「フレッセイ連取(つなとり)モール」の核店舗、「クラシーズ連取店」がそれです。

 当社は高級SM「クラシード若宮店」(群馬県前橋市)を04年に開業しています。しかし広域からの集客を図る高級SM業態は店数を多く増やすことができません。群馬県内に4?5店舗を展開するのがやっとでしょう。

 だから「クラシード若宮店」をモデルに、「品質」と「価格」を両立させた、多店舗展開できるフォーマットとして「クラシーズ」を開発したのです。多店舗展開のモデルとして「S」をつけて、複数形の屋号にしています。

 売場面積620坪ほどの連取店は、生鮮特化型のSMであり、「魚屋の惣菜」や、鮮魚や精肉の素材を使用したサラダをあつめた「旬鮮サラダコーナー」などの即食商品も充実させています。

 「品質」については、とくに鮮魚に力を入れています。当社は160年以上前に創業した鮮魚専門店が前身ですので水産部門が当社の看板なのです。「海なし県」である群馬県の多くのお客さまにおいしい魚を食べて欲しいという創業時からの思いがありますので、品揃えと鮮度にはこだわっています。

 もう1つのコンセプトである「価格」は、グロサリーについて地域いちばんの「価格」にこだわる必要はないと割り切っています。ただし、お客さまが許容できる価格差であるべきだと考え、日常ふだんの生活に必要なコモディティアイテムについては、地域でいちばん低く売価を設定する競合店価格の5%以内の範囲にすることを1つの基準にしています。「価格が妥当である」という評価をお客さまからいただけることが大事だと考えています。

2015年2月期までに10店舗を新規出店

──連取店のオープンから2カ月が経過しました。業績はどのように推移していますか。

植木 おかげさまで売上は好調です。初年度の年商は17億円以上を達成することができそうです。

 多店舗展開モデルの成否については、1月に最終的な検証を行って「いける」と判断しました。当社の標準的な投資回収の基準に合致するレベルの収益構造になるというのがその理由です。今後は「クラシーズ」業態を中心に出店していきます。

──今後の出店戦略について教えてください。

植木 「クラシーズ」業態を確立できるめどがついたことで、新規出店はこれまでの1年間に2店舗のペースから3年間で10店舗ほどに速めることができると考えています。15年2月期までに10店舗を新規出店することを計画しています。なお、この3月23日には「クラシーズ」2号店を群馬県大泉町に出店します。

──「クラシーズ」は600坪クラスです。小型店の出店は考えていますか。

植木 まだまだ検討段階ではありますが、市街地や過疎地へ小型店を出店することはあり得ます。

 というのも、本部に隣接するプロセスセンター(PC)を今秋に大改装することが決まっていて、13年から稼働を開始する予定です。現在は、水産と畜産の2つの部門の商品をメーンに加工していますが、改装後は青果と総菜部門の商品の加工も行えるようにします。

 このPCを活用することで、小型店の出店が可能になります。店内加工の作業を減らして運営コストを低減すれば、不動産コストが比較的高くつく市街地や、高い売上が望めない過疎地への出店ができるようになると考えているからです。

 当社の店舗の中には小型の不採算店舗が少なからずありますので、13年以降、生鮮食品や総菜の商品をPCからの供給に切り替えて、店舗モデルを確立したいと思います。

──現在、群馬県、栃木県、埼玉県の3県に店舗を展開しています。今後、新規出店するのはどのエリアになりますか?

植木 まずは現在の店舗展開エリア内の店舗密度を高めていきます。新規出店案件は、フレッセイHDの役員会で決めますので、物件によっては未進出のエリアに出店することもないとは言えませんが、基本はドミナント化を進めていく方針です。

店長候補の育成が課題 人材育成が未来決める

──最後に、現在の経営課題について教えてください。

植木 2つあります。

 1つは店長候補の人材の育成です。

 当社では12年からの5年間に多くの管理職が定年を迎えます。ちょうど50歳代後半の優秀なベテラン店長が退職し、次の世代に入れ替わる時期に差し掛かっています。

 従業員の定年は「すでに起こった未来」ですから、先ほど述べた新規出店のペースと照合すれば新店長が何人必要になるのかは計算できます。当社は店長候補の人材育成を急がなくてはなりません。これが最大の経営課題です。

 この3年間に、どれだけの人材を育成できるかで、当社の未来が決まってくると言っても過言ではありません。店長候補の人材の教育で大きく失敗し、店舗の力を落としてしまえば、再び同じレベルまで引き上げるには長い時間を要します。

 そういった意味で、この3?5年間に、人事と教育の仕組みとその運用方法を確立できるかが10年後の当社の盛衰を決めると断言できます。

 もう1つは、各事業会社がグループ内だけではなく、外部からの仕事を受注できるようにし、自立を促していくことです。グループ内で仕事を回しているだけでは、早晩、事業は立ち行かなくなると考えています。グループ外から仕事を受注できるような力量がないと今後は勝ち残ることが難しいでしょう。

 先ほどPCの大改装について述べましたが、実はPCを事業会社化する予定です。SM事業会社のフレッセイだけでなく、同じCGCグループ(東京都/堀内淳弘代表)加盟のSM企業さんにも商品を供給していくことを検討しています。