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店長主導型の店舗運営をもう一度やり直し、MD改革を成し遂げる=サミット田尻 一 社長

2009年度の国内スーパーマーケット(SM)企業は、内食回帰のフォローの風に乗った08年度から一転、厳しい売上状況が続いている。そうした逆風下でも持続的な企業成長を図るべく、サミット(東京都/田尻一社長)は09年度からマーチャンダイジングの改革を進めてきた。その進捗状況とさらなる改革の道程について聞いた。

消費者が買物の場に求めるものが変わってきた

たじり・はじめ 1956年生まれ。79年、日本大学芸術学部卒業。同年、サミットストア(現:サミット)入社。2001年、取締役就任。03年常務取締役、06年専務取締役を経て、07年6月、代表取締役社長就任。

──昨年10月以降、SM各社の売上状況が非常に厳しくなっていますが、サミットの状況はいかがですか?

田尻 当社も今、非常に厳しいですね。いちばんの要因は客単価の下落です。これは、2007~08年度が“商品の値上げ”基調だったものですから、その反動もあって、現在の客単価は06~07年度ぐらいのベースに戻った感じですね。

 08年度がSM業界にとってよすぎた、その揺り戻しが、この09年度で出ているということです。

──確かに08年度の決算発表時に、「09年度は数字が悪くなると思うが、07年度と比べてほしい」と発言していました。

田尻 そうは言っても、世間は対前期比で企業業績を判断するわけですし、実際に09年度の10~12月は対07年度同期比でもよくありません。09年度上期は、ほとんど07年度と同じ水準だったのが、下期から一気に数字が厳しくなりました。すでに申し上げた客単価の下落に加えて、客数も減りだしたことが売上高に響きました。

 これは、想定外でした。客数減の要因としては、不動産市況の激変が挙げられます。マンションを計画していた場所が急に商業施設に変わるなど、09年度は08年度の倍の数の競合店が出店しましたから、その影響が大きかったわけです。

 その不動産市況の変化で、今「嫌だな」と気になっているのが、東京都心にファミリーレストランの撤退跡地がポツンポツンと出てきている点です。売場面積200坪ぐらいの小型のSMが出店しやすい環境ができたわけですから、都心を中心に店舗展開する当社にとっては懸念している事柄のひとつです。

──既存店の客数減はオーバーストアの結果ということですね。

田尻 そう見ています。確かに、一部のお客さまからは、「サミットは高い」という評価をいただいていますが、その評価はマイナス面だけでなく、「高いけどよいわね」「高くても買物していて安らぎが得られるわね」というプラスの評価であったわけです。ところが、09年度下期からは、お客さまの価格に対する意識がより敏感になったという感じがします。

──以前から価格政策について、「相場価格には合わせるが、あえて低価格政策をとることはしない」と明言してきましたが、変化はありますか?

田尻 いいえ、変えていません。今ジタバタする必要はないと考えています。残念ながら、この経済環境はしばらく続くと思っていますから、当面は我慢をするしかなさそうです。ただ、売上が厳しいなりに見えてきたこともあります。それは、価格に敏感になってきている一方で、お客さまは価格だけを求めているのではないということです。お客さまが随分変ってきているなという感じを受けています。

──どんな風に変わってきているのでしょうか?

田尻 端的に言うと、買物の場でコミュニケーションを求めだしているということです。われわれチェーンストアオペレーションを行っているSMは、セルフサービスを採用していますから、コミュニケーションの部分を排除してきたという経緯があります。ところが今は、売場で商品説明を求められることが増えるなど、お客さまがSMという買物の場に対話を求め始めているなと感じています。

 その証拠に、「マグロの解体実演販売」などのパフォーマンスを行うと、該当商品の売上がものすごく上がります。お客さまは、そういうかたちで、買物時にちょっと背中を押してもらいたがっているのだと思います。これは、明らかに従来とは違う求め方をSMにしているということです。ただ商品を並べて売ればよいというわけではないということが、とくにこの1~2年顕著に出ています。

 そこで、当社では『おさかなキッチンコーナー』を“パフォーマンスする場所”と位置づけることにしました。試行錯誤しましたが、この半年ぐらいでやっとかたちが見えてきました。「マグロの解体実演販売」の場合、これまでと同じ特売価格で販売しているだけなのに、お客さまが二重三重に輪をつくり、われ先にと商品を奪い合っているのです。お客さまは、こうした市場(いちば)的な感覚をSMに求め始めているのかなという気がしますね。

──その傾向はとくに週末に多く見られますか?

田尻 輪をつくっているのは奥さんに連れられて来店した旦那さんで、もの珍しそうに、「うまそうだな」と興味を示しています。そういう意味では、週末のウエートが高くなっているのだと思います。一方、平日は、有職主婦が随分増えているという印象を持っています。

 とはいえ、わが社のポイントカードでデータを調べてみると、来店頻度は落ちてはいないし、カード会員の買上金額も、実はさほど減ってはいません。当社のカードホルダーは72~73%ですから、残り27~28%の人たちが浮動層で、こうした人たちの買上額や来店頻度が減っているということです。その浮動層をどう取り込むかは考えどころです。

──カード会員への待遇を厚くすると浮動層のほうは逃げるでしょうし、逆もまたしかりでしょうから、双方を上手に取り込む施策となると難しいですね。

田尻 すべての来店客にサービスを提供する目的で、『現金ご返金セール』を2月から13店舗で実験しています。これは、ポイントカードがなかった時代、他社に先駆けて当社が行っていたセールで、買物当日にレシートを精算所に持っていくと1割の現金をお返しするというものです。あと2~3回実験をしますが、このセールのほうが高い効果が得られるのであれば、先祖返りしようとも考えています。

 どんどんIT化が進んでいる中で、お客さまと店舗側とのこうした直接の触れ合いが薄れています。その皮膚感覚を逆に消費者は呼び覚ましたいのかを見極めたいのです。

NBにはない付加価値のあるオンリーワン商品をつくる

──次に商品政策についてですが、サミットは自社開発のPB(プライベートブランド)商品を絞り込む方針を打ち出しています。

田尻 そうですね。しかし、それはPBづくりをやめるということではありません。

 今、小売業界では、低価格訴求をメーンとするPBを取り巻く潮目が大きく変わってきています。マスコミの熱狂的なPB礼賛記事は半年ぐらい前からなりをひそめ、「もはや主流はPBではない」という論調が大手経済紙を中心に目立っています。

 そもそもナショナルブランド(NB)メーカーはPBの市場占有率について、ある一定の比率までは容認していますが、そのラインを越えると“PB潰し”に掛かってくるということを過去の歴史の中で何度も繰り返してきました。

 今は、その“PBが叩かれている”状態ですから、今後ある程度のPB比率に収斂されてくるものと見ています。そうなると安売り・デフレ一辺倒の経済市況からはだいぶ変わってくるのではないかと期待しています。

 そうした中で当社は、10年度の重点施策に「オンリーワン商品をつくる」というテーマを盛り込みました。ただ単にラベルを張り替えただけでは意味がないですから、NBにはない付加価値のある商品をできるだけ開発していくことにまい進していきます。

──商品開発を行う分野は主に何になりますか?

田尻 生鮮食品が主体にはなりますが、すべての部門が対象です。たとえばドライグロサリーでも、大きな売上ボリュームにはならないけれども、よいもので値ごろ感、価値がある商品というものが、いくつもあると思います。そうした商品をどれだけ品揃えできるかに挑戦します。簡単に言えば、“個性を出す”ということです。

 ただ、これも従来のチェーンストアオペレーションに乗せるのは難しい話です。“個性があってキラリと光る”企業は、せいぜい10~20店舗の運営規模ですから、これに当社のような100店近くの規模の企業が取り組むのは、相当なチャレンジで容易ではないことだと思います。

組織変更しマーチャンダイジング力を強化

──さて、田尻社長の持論は「マーチャンダイジングを完結するためには、商売人に徹することが大事になる」ですが、その実現のために、09年度から行っている“商売人プロジェクト”の進捗状況はいかがでしょう?

田尻 当社の現在の課題は、あまりにもバイヤーから店舗に送られる“指示文書”が多いことにあります。バイヤーが安易に発信する傾向が目立ち、仮に60人のバイヤーが毎日2枚出せば、店舗に120種類の指示が行くことになります。

 現場はその処理に翻弄され、通常業務がおろそかになるという事態が起きています。だから、本部と店舗の意思疎通をうまく行うことが、プロジェクトの大きな目的の一つです。過去にできたことが、なぜ今できなくなっているのかを分析し、解決していきます。その意味で、商売人づくりは、まだまだ緒についたばかりです。

──同時に進めているマーチャンダイジングの改革についてはいかがですか?

田尻 これは残念ながらまだ0点です。なかなか社員全員に理解してもらえていませんので、この10年度は組織を大きく変えて、改革に入り込んでいきます。

 3月16日に発表した新しい組織体制では、販売部と商品本部を統合し、営業本部とし、私が営業本部長を兼任します。そして販売部が「2エリア16ブロック」に分けて統括していた店舗については、エリア制を廃して10ブロックに再編し、営業本部のもとに直接置くかたちとします。

 もう一度、店長主導型店舗運営をやり直すことが今回の組織改革の最大のねらいです。そして、店長の上司であるブロック・マネジャーには、主に店長のサポートや教育に当たってもらうことで、店長の商売人としての力を育成していきたいと考えています。これらの結果、マーチャンダイジング力のアップに確実につながるものと見ています。

──サミット流マーチャンダイジングの具体的なかたちとして、「仕入れる側と売る側が一体化できる売場づくりにチャレンジし、週単位で、店内に入った瞬間に何を訴求したいのかがわかる売場にしたい」と話していました。

田尻 これもまだまだですね。どうしてもかたちから先に入ってしまっているので、そこに、人的コミュニケーションをどうやって注入していくかが10年度の課題になります。

 『52週マーチャンダイジング』とは簡単に言えば、行事・催事の展開が主ですから、それをうまく取り込みながら、お客さまとコミュニケーションしていくようにします。

 すでに成果がでている一例が節分イベントで、今年の丸かぶり寿司(=恵方巻)は1日で約18万本売れました。売上は年々高まっていて、本部社員総出で巻いても間に合わないぐらいの売上規模になっており、すでに、土用の丑の日やバレンタインデーに次ぐほどの大きなイベントに成長しています。

 今後、これに次ぐ大型のイベントをどうやってつくり上げていけるかが課題だと思っています。そこでスタートしたのが、「マグロの解体実演販売」であり、「バナナ大房の叩き売り」だったりするわけです。こうしたイベントは、今お客さまにたいへん受けがよい状況です。

── 一方で、イベントが増えるということは、日によっても部門によっても売上に凹凸が生じますから、御社が強みとするLSP(レイバー・スケジューリング・プログラム)が機能不全に陥る懸念はないのでしょうか?

田尻 ええ、ですからそれを、1年間かけて組み替えました。たとえばイベントのときにどうLSPを組み替えるか、あるいは部門を超えて人員をどう配置していくかということです。3月ぐらいから全店で新しいLSPを導入して、5~6月ぐらいから軌道に乗ってくれるかなと思っています。

 部門によって忙しいときも暇なときもありますから、従業員の多能化を進めて、効率的に割り当てできるようにしていきます。現に今、パート社員の多能化に取り組んでいるのですが、1人が2部門以上できるようになることで効率はたいへん上がっています。

──最後に、10度の出店について教えてください。

田尻 今確定しているのは5店舗ぐらいで、10~11年度にかけてという案件が2店舗。翌11年度は8~10店舗の計画です。出店エリアはほとんどが、都内・神奈川県内になると思います。