景気低迷を背景に、脚光を浴びたディスカウントストア(DS)業態だが、客単価の下落と客数の伸び悩みから、売上高が苦戦する店舗が増えてきている。そうした状況下でも、既存店売上高対前期比2ケタ増と絶好調なのが、“生鮮食材超激安市”を看板に掲げる、タチヤ(愛知県/森克幸社長)だ。当期純利益率も4.6%と高水準を叩き出す。「他社が嫌がる、生鮮強化にすべてを傾けてきた」成果が今、実を結ぶ。同社の強さの秘密に迫った。
既存店売上高対前期比 10%増で推移!
──低価格戦略を明確に打ち出している大手総合スーパー(GMS)やスーパーマーケット(SM)各社の業績が、今年に入ってから悪化しています。生鮮食品を中心に低価格で販売されているタチヤの現在の状況はいかがですか?
森 昨年9月のリーマンショック以降、今年の8月ぐらいまで、既存店ベースで売上高対前期比2ケタ増と絶好調で推移しています。ただ、やはり客単価が若干下落する傾向にあります。
当社はその分を、客数増によってカバーできています。他のSM企業さんの話を聞くと、客数が横ばいで客単価が落ちているため、トータルの売上が下 がっている状況にあるようです。苦戦されているお店では、客単価も客数も減っており、単月の売上で対前期比80%台に落ち込んでいるケースも出てきている ようです。
──好調を維持できている要因をどのように分析していますか?
森 当社があまりグロサリーに力を入れていない点が、要因の1つだと思います。SM・GMS各社さんはグロサリーを安く販売し、それにより安売り合戦を繰り広げてしまいました。それが、客数が伸びない中で、客単価ダウンを引き起こしてしまったわけです。
当社は、他社さんがいくらグロサリーを低価格で販売しようとも、まったく無視しています。グロサリーの安売り合戦に巻き込まれてしまうと、商売が ぶれてしまうためです。当社はあくまでも、売上構成比の8割以上を占める生鮮で勝負していきます。グロサリーについては「お客さまがカレールーだけをよそ のSMに買いに行かれるのでは手間であり、申し訳ないから置いておこう」という程度の認識です。ただ、もともとグロサリーで儲けなくてもよいという考えで すから、グロサリーはサービス品という位置づけで、それなりに安い価格では販売しています。
──生鮮食品部門でどのようにして利益を稼いでいるわけですか? 多くのSM企業は、精肉部門を除けば、赤字に陥っているという状況です。
森 周辺には有力なSMさんがいくつもあり、そうした企業と競合していくわけですから、同じことをやっていたのではまったく勝ち目がありません。「だったら、 他社さんがいちばん嫌がる生鮮食品に力を入れていくしかない」ということで、人も金も時間もすべて生鮮強化に費やしてきました。それが今、生きてきている のかなとは思いますね。
私が入社した20年前から、青果ではどこにも負けないように、取り組んでいました。その後、青果部門がある程度かたちになったときに、精肉や鮮魚 売場が充実していないのではお客さまに満足していただけない、ということから、精肉・鮮魚にも力を入れたのです。現在のスタイルが完成したのは、今から 4~5年前です。
──とくに鮮魚部門の赤字に頭を抱えるSM企業さんが多いですが、タチヤさんではどのようにして黒字を出しているのですか?
森 逆に、どうして鮮魚部門で儲からないのか理解できません(笑)。当社は刺身でも全部短冊での販売だけですから、盛り合わせにして付加価値を高めて販売して いる他のSMさんに「あなたたちのほうが儲かるでしょう」と言うのですが、「ロスが出る(から儲からない)」と言うのです。私は、ロスが出るのなら、やめ ればよいのにと思います。
当社は、ロスは基本的にゼロだと考えていますし、実際にロスは少ないです。他社さんは、ロスを見越して値入れをしていますが、当社ではそれを絶対にやりません。
──ロス分を売価に織り込まない分だけ、他のSMとは価格差が出るわけですね。
森 ええ。私は、当社のことを支持して買ってくださるよいお客さまに対して、ロス分まで乗せて販売するのは、決して許せない。自分たちの商売の失敗を優良顧客 に押し付けているからです。逆に「雨の日と午前中に来店される方はよいお客さまだから、とにかく安く売ってあげるように」と言っています。
ちなみに、当社では値引きのことをロスとは言いません。宣伝広告費と言っています。100円のものが50円になれば当社が痛い思いをするわけですが、お客さまにとってみれば喜ばしいことなので、これは宣伝広告費ということです。
ホウレンソウの相場が高ければ、その日は品揃えしない!
──タチヤさんでは、保有する40台のトラックを使って、各店舗・各部門ごとに担当者が市場に仕入れに行くというスタイルを貫いています。そこが商品政策上の差別化になっています。
森 そうです。9店舗の担当者がそれぞれトラックで仕入れに行くわけですから、他社さんから見れば、まったくの無駄にしか映らない。
ただ、そこが当社のミソなのです。自分の目で見て、自分で値段交渉して、仕入れてきたものだからこそ、原価もわかっているし、責任を持って売り切 ることができます。そして、どうしてこの商品が店頭に並んでいるか、つまりなぜこれを市場で仕入れたのか、がわかっているかどうかの差は大きい。たとえ ば、「見た目は悪いけど、味がすごくよかったから」とか「市場でダブついていたから半値以下で買えた」とか、仕入れの背景・理由がわかっていれば、お客さ まにきちんとお伝えすることができるし、自信を持って販売することができます。
──商品知識や目利きをはじめ、人材を育てるのはたいへんそうですね。
森 だから当社は出店が遅いのです。人材が育たないことには出店できないですから、大体、2年に1店舗という出店ペースです。生鮮食品には旬がありますし、時 期によっていちばんおいしい産地がどんどん移り変わっていきます。生鮮の仕入れでは、いつ産地を切り替えるのかというその変わり目を見つけるのがいちばん むずかしいのです。商品の変わり目を最低2度経験してもらうという意味で、育成にはどうしても2年はかかります。
──その時々によって変わる、いちばんおいしい産地の商品を、担当者自らが仕入れて、自分の責任で値付けして売る。シンプルですが、強いですね。
森 普通のSMの在り方だと私は思います。やはりSMは、お客さまが欲しいものを、欲しい値段で、どれだけ限られたスペースに並べるか、これだけだと思いま す。今日キャベツを買ったお客さまは、明日キャベツは買いませんから、いたずらに品揃えの充実を図る必要もありません。たとえばホウレンソウが300円 だったら、当社の店では仕入れません。絶対ホウレンソウが必要だというお客さまはまずいませんから。「ホウレンソウはないの?」といわれた時に、うまく 「ホウレンソウは原価で300円でしたから、最低でも300円で売らなければいけないので、今日は仕入れるのを止めました」と。するとお客さまは、 「えー! 300円もするの!?」と言うわけですが、ここで「今日はこれが安くてオススメです」と、代替案を言えるか言えないかの差は大きいですよね。
──お店が休みの水曜日と市場が休みの日曜日以外は毎日市場に行っているのですか?
森 その2日を除く週5日は毎日必ず行きます。行かないとわからない情報がたくさんありますから、市場には毎日行ったほうがよいです。極端な話、買うものが何 もなくても行ったほうがよい。たとえば、「明日から入荷量が減って高くなるから今日買ったほうがよい」とか、逆に「明日安くなるから、今日は少ししか仕入 れない」という具合です。
また、仕入れに使うトラックは、毎朝3時間ぐらい使うだけで、次の日の朝まで置きっぱなしです。もったいないと思われるかもしれませんが、仕方がありません。ここが当社の強みの元ですから、私は無駄だとは思っていません。
コストから入ると無駄な部分はたくさんあると思いますが、必要なコストまで削る気はありません。ましてや人件費を削る発想などありえません。SMにとっていちばん大事なのは人であり、とくに当社は人力に依存しているからなおさらなのです。
──それでも売上高販売管理費率の低さは群を抜いています。
森 売上高販売管理費率は13.6%です。お客さまに迷惑がかかるところにはお金を惜しまずにかけますが、それ以外のところにはお金は掛けない方針です。です から事務所も質素ですし、本部スタッフも数人しかいません。一方で、当社は人材が命ですから、給料もボーナスもとても高いです。
──お店を午後6時閉店にしている理由は、翌朝早くに仕入れに行く従業員の健康のため、という話を聞いています。
森 そうです。もう1つ理由があって、当社がターゲットにしているのは、食べ盛りのお子さんを抱えるお母さんだからです。お子さんが夕食を我慢できる限界が午 後7時だと思っています。そうすると6時に買物を終えて家に帰れば、7時には夕食の支度が整う。だったら6時閉店でよいのではないか、というのが私の考え 方です。
一方でターゲットを単身赴任の方などにも広げていくと、アイテム数はどんどん増え、取り扱いカテゴリーも増え、営業時間も長くなります。その結果、ロスも増えてしまうのだと思います。
15店舗・200億円
経常利益率7%が1つのかたち
──さて、親会社であるバロー(岐阜県/田代正美社長)さんは御社のことをどのように評価していますか? また、バローさんのプライベートブランド(PB)の取り扱いについても教えてください。
森 バローの田代社長も、タチヤのよさは、毎週休日があって、午後6時閉店、店舗にお金をかけない、という点にあることをよく理解していただいています。そし て、それらのうちどれ1つが欠けてもタチヤは成り立たないから、「きちんと守っていくように」と言っていただいています。バローさんのPBは取り扱いして いますが、あまり多くはありません。必要なものだけ仕入れさせていただいている格好です。
──親会社に対しては、利益で貢献するという考えですか?
森 1つはそうですね。もう1つはIR(投資家向け広報活動)で親会社に貢献したいなと考えています。「子会社に、生鮮食品のDSでタチヤという高収益企業があります」と宣伝に使ってもらえればと思います。
──森社長は現在、同じバローグループで静岡県地盤のDS企業・食鮮館タイヨーの社長も兼務されています。タイヨーの状況はいかがですか?
森 タイヨーは今、この厳しい時代に既存店売上高対前期比がプラスです。青果で同15%増、鮮魚同10%増、精肉同3%増ぐらいです。しかも、全店で営業時間 を短くして、営業日数も減らしている中で、既存店売上高を伸ばしているのです。タチヤを見にきて、売場づくりを勉強するなど、見よう見まねでがむしゃらに 取り組んでいることが実を結んでいます。
一方でモチベーションを高めるために、先行投資もしました。店長や幹部クラスのボーナスを倍にしたのです。もちろんバローの田代社長にも相談しましたが「全部任せたのだから、いちいち聞くな!」と言っていただきました(笑)。
──それはモチベーションが高まりますね。最後に、タチヤの今後の経営プランについて教えてください。
森 タチヤは、このやり方だとあと5店舗の新規出店まで。全体で15店舗体制、多くても20店舗体制が限界だと思います。逆に、あまり規模を大きくしていくの ではなくて、15店舗で売上高200億円、経常利益率7%がきちんと出る会社をつくり上げたい。それが出来上がれば、1つの節目かなという気がしていま す。
その先の成長プランについては、県外ですとか、青果・精肉・鮮魚各部門ごとにテナントとして他のSMや商業施設などに出店していくなど、そんなことができないかなと考えています。