丸紅(東京都/朝田照男社長)とイオン(千葉県/岡田元也社長)という2つの大株主のもと、ダイエー(東京都)が 復活の緒に就いた。率いるのは丸紅出身の西見徹社長とイオン出身の川戸義晴会長。新しい企業風土と企業文化の醸成に努める西見社長に、これまでのダイエー とこれからのダイエーについて尋ねた。
リーマンショックは大きな衝撃
──前職は丸紅の常務執行役員。海外経験が長く、また金融や物流、鉄鋼製品などの担当をされていました。2006年9月にダイエーに着任。10月から現職にあります。ダイエーについては、どんな印象を持っていましたか?
西見 私の出身は兵庫県ですので、子どものころは、家族でよくダイエーに行っていました。間口の狭い店舗に、お客さまが詰めかけ、活気にあふれる売場が印象的でした。
その後、上京し、学校を出て、就職をして海外勤務が長かったこともあり、ダイエーの店舗に行くことはほとんどなかったのですが、着任を機にあらためて、行ってみました。すると当時の熱気が失せており、“強いダイエー”が薄らいでいるのかなと正直なところ思いました。
──そして、リストラ(事業の再構築)に着手された。
西見 そうですね。ダイエーはここ数年、過去の負の遺産を短期間に急激に処理するため荒療治的な施策が進められてきました。それに伴う痛みを癒しながら、改革を 敢行してきました。07年には、イオンさんも株主になり、川戸義晴会長に来てもらった。ですから、ダイエーのプロパーの方、イオン、丸紅がスクラムを組む 格好で、有利子負債を減らし、オーエムシーカード(現セディナ)やマルエツ株の売却や子会社の再編などを進めてきました。現在も、「売上高・粗利益高の維 持と拡大」「ローコスト体質への転換」「不動産収支の改善」「グループ事業の再構築」という4つの課題に取り組んでいる途上です。
──そうした効果もあり、09年2月期の決算では既存店舗の客数が対前期101%、売上は同100%をキープしています。小売事業は、いよいよ回復基調にあると言っていいのではないですか?
西見 確かに07年末くらいから、08年にかけて、順調に回復しており、手応えも相当よいものがありました。しかしながら、昨年9月15日のリーマンショックは、本当に大きな衝撃でした。まるで10%くらいの需要が一気に吹き飛んだという感覚です。実際、09年2月期の第4四半期以降は特に衣料品、生活用品が 苦戦を強いられています。
武器は“低価格”だけではない
──さて、ダイエーは価格訴求にはとくに注力しているように見えます。09年5月には値下げ商品を約 6000品目に拡大。7月には医薬品・化粧品の合計約600品目の値下げ。また、期間限定ですが、『バーゲンブロー ノイヴェルト』(第3のビール)を 350ml1缶を79円(約11%値下げ)で売り出しています。ダイエーの差別化戦略の最大の武器は“低価格”になりますか?
西見 いや、価格だけではありません。小売業は、トータルの顧客サービスが絶対的に重要だと考えており、価格はその構成要素のひとつにすぎないと考えるからです。その意味では、これまでずっと「安心・安全」「簡便」「快適」を合い言葉にして経営をしてきました。
まず、「安心・安全」というのは商品の品質はもちろん、価格についても同じです。たとえば、世間相場よりも高値で販売していては、お客さまは安心して当社の商品を購入できないからです。
次に「簡便」というのは、ショートタイムショッピングのことです。品揃えや棚割などに配慮して、お客さまに探す手間をかけさせないとかフラストレーションを与えないような心がけのことです。
そして、最後は「快適」です。これはリラックスしていただける気持ちよさのことです。入店されてからお帰りになるまで、安寧な気持ちで買物を楽しんでいただけるような雰囲気づくりです。そして、この3つについては徹底的に追求していきたいと考えています。
──ただ、世間相場並みの価格訴求はしなければいけません。その値下げ原資はどこから捻出するのですか?
西見 昨年同時期に比べ、様々な分野で原材料価格が下がっており、その分メーカーさんにご協力をお願いしています。また、値下げした商品はダイナミックに売場展 開することで、販売数量が増加しますし、併せて定番商品との関連販売をご提案するなどして、トータルで粗利益を確保するようにしています。さらには、ダイ エー独自の付加価値型PB「おいしくたべたい!(食品)」「愛着仕様(衣料品)」「SALIV(生活用品)」、イオングループの「トップバリュ」などのプ ライベートブランド(PB)がありますので、これらを拡販することで利益を下支えします。
──ダイエーのPBはダイエー独自のPBとイオングループのPBが混在しているわけですが、いかにすみ分けをさせていくのですか?
西見 もともと、ダイエーは経済合理性追求ブランドの「セービング」と付加価値型のPBを展開していました。このうち、経済合理性を追求する領域のPBは大量生 産大量販売が前提になるわけですが、今のダイエーの店舗数で「セービング」を継続するよりは、イオングループの「トップバリュ」に置き替えたほうが良いと 判断したため、「セービング」の販売は、09年2月をもってほぼ終了しました。
今後は、当社独自の3ブランド「おいしくたべたい!」「愛着仕様」「SALIV」に「トップバリュ」を加えたPBの展開を強化し、売上構成比率を前期の11%から今期は15%まで拡大していく計画です。
GMSはやり方次第で復活できる
──ダイエーは、「ごはんがおいしくなるスーパー」というコンセプトで事業展開していますが、現在、「食料品」対「衣料品・身の回り品」対「生活用品」の売上構成比は65.8%対16.8%対17.4%と依然、非食品が34.2%を占めています。
西見 現在、GMS(総合スーパー)は134店舗を展開しています。GMSは「何でもあるけど何もない」と揶揄された少し前の状態からは進化していると自負していますが、業態としては、なかなか難しいと見ています。
ですから、これから店舗拡大を図っていく際は、SSM(大型食品スーパー)かSM(食品スーパー)を主力に出店していきたいところです。SSMは 規模的には800坪くらいがひとつのひな型になります。500坪くらいが食品で残りの300坪が生活雑貨・日用雑貨などのコモディティ商品になります。
ただし、GMSについては当社にとっては大切な資産であり、この資産をバリューアップして、会社の業績に貢献させなければいけないわけです。
私は、GMSはやり方次第で復活すると考えています。たとえば、ガソリン価格が高騰する中で自転車が見直されているわけですが、GMS店舗でも自転車を強化し、品揃えをよくすると、1店舗で月300台近く販売する店舗も出てくるわけです。
ライフスタイルの変化に合わせて売れる商品は変わっていくのですから、それに対応するかたちで品揃えを変えていけば、十分やれると考えています。 しかし、いつの頃からかお客さまのニーズにお応えするという努力が不足して他業態に顧客を奪われてしまった。けれども、お客様ニーズへの対応という視点 で、こうしたカテゴリーを一つひとつ見直していけば、お客さまのご支持を取り戻すことは十分可能だと考えています。
──GMSという資産のバリューアップのために、テナントを誘致するとか、部分的に売却するなどの考え方もあります。
西見 確かにGMSの館全体の魅力を高めることはとても重要です。強力なテナントが階上にあればシャワー効果を、階下にあれば噴水効果を期待できますので、そのことはまったく否定していません。
現在、当社のGMSには、産業再生機構の支援のもとに誘致されたテナントが数多く出店しています。
しかし、その当時からも、生活者のライフスタイルは大きく変化していますので、テナント数の多い20店舗にテナント副店長をあらたに配置するなどして、時代に適応できていないテナントを活性化し、館全体の魅力を創出していきたいと考えています。
もちろん、直営売場にも多くの可能性が宿っていると思います。ここ数年ダイエーは売場効率や採算性を重視し、直営売場の圧縮を行ってきました。しかし、半面、縮めすぎたという反省もあります。当社は、衣食住の商品をしっかり揃えてお客さまにお買い上げいただくビジネスであるにもかかわらず、売場面積を縮めすぎたことで自社のノウハウを失ってしまいました。そして、そのことが、本来、小売業の持っているはずのバイタリティの劣化につながった。だか ら、現在は過去に取り扱いを止めたり縮小したりしたカテゴリーを見直し、復活させたりすることで小売業としての力を蓄えているところです。
企業としてのクオリティアップに専心
──社内の組織的には、代表取締役が2人いるわけですが、いかにすみ分けを図っているのですか?
西見 川戸さんは、小売業一筋43年の大ベテランで、イオンモール(千葉県/村上教行社長)の社長もご経験されショッピングセンターの事業にも明るく、営業部隊や不動産部隊を引っ張ってもらっています。川戸さんは、この長い経験から多くの情報や問題を解決するノウハウを有しており、私は、それを学びながら、ダイエーの企業としてのクオリティを上げることに専心しています。
とくに、従業員のモラル(moral)とモラーレ(morale)アップを心がけています。モラルとは社会の一員である企業として求められる“高い倫理観”や“社会規範を遵守する精神”のことであり、モラーレとは“活力”や“エネルギー”“意気軒昂な気持ち”です。そのために、社長に就任してから 売場回りには力を入れてきました。2年7カ月で通算700回以上、店舗を訪れたのではないでしょうか。売場では、最初の30分は店長や営業部長と会社の現 状や方向性などをじっくり話します。その後、1時間ほど店を見て気づいた点を意見します。
──新しい企業風土や企業文化が醸成できている。
西見 そうですね。確実にレベルは上がってきています。それは経営者としての責任のひとつです。
──最後に、大株主のひとつの丸紅は東武ストア(東京都/玉置富貴雄社長)や相鉄ローゼン(神奈川県/春日徹夫社長)などと業務提携、またマルエツ(東京都/橋惠三社長)の株主でもあります。こうした企業との連携の可能性はあるのですか?
西見 当社はそれらの企業との連携は考えておりません。しかしながら、当社の企業価値向上に結びつきそうなことには、何でも挑戦したいと考えています。
例えば、昨年9月からネットスーパーの実験も東大島店(東京都)でスタートさせており、順調に推移しています。現在、店舗数拡大に向けた準備をしています。
今は、なりふりを構っていられません。中期的な経営目標である、「12年2月期に連結営業利益率1.2~1.5%」に向けて全従業員一丸となって邁進中です。