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One to Oneマーケティングを実現する=イオンマーケティング 小賀雅彦 社長

2009年7月に設立されたイオンマーケティング(千葉県/小賀雅彦社長)がいよいよ本格的に始動した。携帯電話を活用した販促を軸に、イオン(千葉県/岡田元也社長)グループのマーケティングを担う機能会社だ。イオンマーケティングは、イオングループの売場や売り方、販促にどのような新風を吹き込むのか? 小賀社長に聞いた。

データ分析により商品・売場を革新、従来のマーケティングを根本から見直す

イオンマーケティング社長 小賀雅彦 おが・まさひこ 79年ジャスコ株式会社入社 98年ジャスコ能代店店長 00年イオンストアーズ香港コーンヒル店店長 01年中国深セン永旺友誼百貨公司薫事総経理 06年イオン株式会社関東カンパニー千葉事業部長 09年7月24日、イオンマーケティング社長就任(現任)

──まず、イオンマーケティングが、イオングループにおいてどのような役割を果たすのかを教えてください。

小賀 イオンマーケティングには2つの役割があります。1つめはイオングループ全体のマーケティングを担う機能会社という役割。2つめがメーカーさんなど取引先さまのマーケティングや販促に役立つデータを提供する事業会社としての役割です。機能会社と事業会社、双方の役割を持っているということです。

 イオンマーケティングは、NTTドコモ(東京都/山田隆持社長)が29%を出資していることからも明らかなように、基本的には、モバイルを活用して事業展開します。ただそれだけではなく、すでにイオングループが持つ、イオンカード会員の顧客データなどを活用したマーケティング活動も同時に行っていきます。

──従来のマーケティングの問題点は、どこにあったと認識していますか?

小賀 これまで小売業界は右肩上がりで成長してきましたから、マーケティング活動が不十分でもそれなりによい結果を出すことができました。そのため、プロセスを見直すということをあまり重視してきませんでした。ある意味では、「結果オーライ」の考え方でも通用しました。

 ところが、右肩上がりの時代は終わり、国内マーケットは、少子高齢化、人口減少が進み、ダウントレンドに入っています。こうした“減”の時代には、去年と同じアプローチでは去年以上の成果を上げることは望めません。しかも、今は、いかに効率的に、かつきめ細かくお客さまにアプローチできるかが求められるのです。

 したがって、データに基づいた適切な計画を立て、翌年はさらに進化させるというPDCA(plan-do-check-act)サイクルを踏まえた、マーケティングの仕組みを構築していくことが必要です。その意味で、当社はまさに、根本的な見直しから始めています。

──イオンマーケティングがめざすかたちとして、あえて具体的な企業名を挙げるとするならば、英国テスコのマーケティングを手掛ける、ダンハンビー社のような存在でしょうか?

小賀 まさにそのとおりです。当社はダンハンビー社をベンチマークしており、まずはできるだけそこに近づきたいと考えています。

上位顧客の分析で数々の“気づき”

──次にイオンマーケティングの実際の事業内容をお聞きします。マーケティング事業、モバイル事業、そしてクラブサポート事業の3事業を手掛けますが、各事業では具体的にどのようなことを行うのでしょうか?

小賀 まず、マーケティング事業では、POSデータ分析を通じて、品揃えや売場構築、プライベートブランド(PB)商品開発などの支援を行います。現在はすでにあるイオンカードの購買履歴情報を活用して、上位顧客の分析を行っています。

 一方、モバイル事業は、携帯電話を活用した新たな販促媒体の提供と会員ビジネスの構築を行います。具体的には、(1)イオンにまだ来ていただけていないお客さまに来ていただく、(2)イオンのお店には来ているけれどあまりお買い上げいただけていないお客さまに買っていただく、(3)すでに来てくださっているお客さまの来店頻度を上げる、という以上3点において効果を出すのがねらいです。

 3番目のクラブサポート事業は、グループ各社が個別に行っているダイレクトメールを発送するなどの業務を当社で一元化して請け負うものです。これにより、グループとしての効率をアップさせるのがねらいです。

──先行するマーケティング事業について、イオンカード会員の顧客分析の進捗状況はいかがですか。

小賀 この1年はお客さまの頻度を高めることを目的に、総合スーパー(GMS)の上位顧客の分析に取り組んできました。データ分析の結果、個々人の思い込みや経験則により、「これが正しい」と決めつけていたことが、事実とは異なるという事例がいくつもわかってきました。すでに、1~2の事例をグループ内で発表しています。

 このように販売に役立つ情報提供を、今後できるだけたくさん行うことで、グループ各社の日々の営業活動を支援していきます。なお、最近では上位顧客にとどまらず、中位顧客の分析もスタートしたところです。

──中核事業であるモバイル事業は、カスタマーネットグループ、モバイルソリューショングループ、そしてサービス開発システムグループの3グループから構成されます。それぞれがどのような事業を展開するのかを教えてください。

小賀 カスタマーネットグループは、平たく言えば、おサイフケータイ機能を活用したモバイルクーポンで「かざすクーポン」事業を行うグループです。ここでは、イオンモバイル会員を増やすために、魅力あるコンテンツづくりを日々行っています。

 サービス開発システムグループは、システム構築というハードの開発を担います。またモバイルソリューショングループは、モバイルコンテンツについて、どういう見せ方をしたらアクセス数が上がるか、見やすいサイトになるのか、といったソフト面の開発を行っています。

──イオンマーケティングはどのようにして利益を生み出すのか、その収益構造はどのようなものですか?

小賀 当社は携帯電話を活用した販促・マーケティングの会社です。したがって、モバイルコンテンツへの広告収入と、クライアントに対する企画提案への対価がメーンの収入となります。当然、会員数が集まれば集まるほど広告媒体としての価値が高まりますから、それに合わせて収入も大きくなっていきます。

 また、マーケティング事業では今後、分析データをサプライヤーに販売していきます。その第1弾がPOSデータの販売です。イオングループのように、全国を複数業態で網羅する企業グループは他にはありません。サプライヤーのマーケティング活動にとって、たいへん貴重なデータになるものと考えています。

10年10月「イオンかざすクーポン」始動

──さて、10年4月から、具体的なモバイル販促の第1弾として、グループ企業であるミニストップ(千葉県/阿部信行社長)のモバイルサイトをスタートさせました。

小賀 「お得なケータイサイト」を開設し、会員登録していただいた方へ、毎週1~2回メールマガジンの配信と、割引クーポンの発行をしております。非常に順調に会員が増えており、ミニストップの発表では10年11月上旬時点で延べ45万人に達しています。また、同月からはスマートフォンへの対応も開始しました。ますます多くの方にお使いいただけるようになっています。

──そして10年10月、いよいよGMS業態向けに「イオンかざすクーポン」のサービスを開始しました。

小賀 ええ。首都圏の47店舗を対象にスタートしました。対象店舗は、携帯電話と親和性がある人が多いマーケットから始めようということで、首都圏の店舗を選びました。

 サービスを開始してみて、個店ごとにお客さまの反応がかなり違うという結果が出ました。こちらから何も説明しなくても、どんどん会員が増えていく店もあれば、そうでない店もあります。とくにルーラル(=田舎)エリアの店のお客や年配のお客さまに対しては、説明なしではなかなかご理解いただけないようです。

 かざすクーポンの配布頻度は週1回で毎週水曜日更新。それとは別に毎週火曜日と金曜日にメールマガジンを配信しています。会員数は、初年度300万人、12年度末までに1000万人の獲得をめざしています。

──会員数を増やすためには、魅力的なコンテンツづくり、すなわちソフト強化が欠かせません。どのように進めていくのでしょうか?

小賀 お客さまにとって、いちばんわかりやすいのは割引クーポンなどのお得な情報ですから、最初のうちはそれに注力します。ただ、それだけでは会員の維持、新規会員のさらなる獲得には限界があります。今後は、ゲームなどの若い世代向けのコンテンツ開発をどんどんやっていかなければならないと思います。

 理想的なかたちは、「乗換案内」のような、大多数の人が使用するキラーコンテンツがイオンのモバイルサイトにあるということです。そうなれば、使用頻度も高い、とても強力なサイトになると思います。ただ、将来的には、どの競合企業も同じような販促を開始するものと見ていますので、その時までに、イオン独自の強力なコンテンツをつくり、差別化できて支持されるサイトになっていたいと考えています。

段階的に、チラシからケータイ販促へと移行

──現時点では、会員に発信している情報は1種類だけなのでしょうか。

小賀 ええ、現時点ではそうです。ただ、ケータイ販促で先行している企業さんの実例を見ると、顧客の購買履歴等に応じて、何パターンかにセグメンテーションして、最適な情報を提供するということを行っています。当社も、今後そのようにしていく考えです。そして、最終的には、One to Oneマーケティングをめざしていきます。

──ある商品を買った人にだけ、クーポンなど特定の情報を配信できるようになるわけですから、実現すれば本当に革新的なことです。

小賀 ええ。ぜひとも、イオングループの現場で働く方の理解を得て、できるだけ早い段階で実現できるようにしていきたいです。

 ただし、One to Oneマーケティングの実現には、難しい点もあります。たとえば、われわれ小売業の店舗は膨大なアイテム数を取り扱い、食品だけでも1万アイテムにものぼります。日本マクドナルド(東京都/原田泳幸会長兼社長)さんのようにメニュー数が限られているわけではないですから、ともすると「どこに対象商品があるのかわからない」状態になり、お客さまに不愉快な思いをさせてしまうおそれがあるのです。

 その問題をどのように解決するかは、これから学習していくほかありません。ただ、非常に効果的な販促ツールとなることだけは、間違いありません。

──イオンマーケティング設立の記者会見の際に、年間のチラシ削減効果は約9億円と発表していました。これはかなり早い段階で実現できるものと見ているのでしょうか?

小賀 いいえ。画面が大きく文字も大きいというように、チラシにはチラシのよさがあります。とくに現在、ご高齢のお客さまには今後もチラシが効果的な販促手段だととらえています。

 とはいえ、新聞の購読率は下がる一方ですから、その効果は低下し続けていきます。また今の40~50代の方が高齢化したときは、今の高齢者とは情報をとらえるツールや感度がまったく異なるものと見ています。

 したがって、チラシよりもケータイ販促の優位性が、だんだん出てくるでしょう。急激にチラシからケータイ販促へと舵を切っていくのではなく、様子を見ながら段階的にシフトしていくことになります。

──最後に、イオンマーケティングの中期計画を教えてください。

小賀 お客さまにとって本当に買いやすい売場づくりとは何か、買いたくなる販促や商品は何なのか──。現場が「知りたいけど、まだ実態がわからない」ということは、まだまだたくさんあります。当社は、しっかりとデータ分析することで情報提供していきます。それが新しい戦略や新しい販促、新しい商品開発、そして新しい売場につながるはずです。これが基本的な目標です。とくに、増加していくシニア層をどう取り込むかは、最重要課題の1つとして意欲的に取り組んでいきます。

 そのうえで中期的には、グローバルな視野に立ったマーケティング活動も実施していきます。イオングループの11~13年度の中期経営計画で、日本、中国、アセアンの3本社制に移行することが、先般発表されました。

 アジアにおけるグループ事業展開が加速していくのに合わせ、当社も、グローバルでのマーケティング活動を推進していくことになります。グローバルでは日本のようなケータイ端末を活用したマーケティングは主流にはならないかもしれません。どのようなツールを活用してマーケティング活動を行っていくかは、今後の検討課題として考えていきます。