ザラの12倍、生産日数は半年!?日本のアパレルが海外工場から「無視」されている事情とは

河合 拓
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「納期は半年」と言われて何が見えるか?

 日本のアパレル企業の人と話をすると、数字に弱い、論理に弱い、考える力が弱い、の「3弱」を強く感じることがある。例えば、納期が半年ですといわれたら、物理的な生産の流れを考えれば、横に並ぶ机の数(ライン)を少なくされているか、生産を後回しにし、稼働が空いた時間で日本の生産を差し込むかの二択しかないことは直ぐ分かる。つまり、工場の全体稼働を最大化するため、日本のQRと繰り返される無意味なサンプル修正によって後回しにされているわけだ。商社が仲介役に介在していたとき、こうしたことは全て管理していたのだが、最近はアパレルが直貿化を推し進め、工場との密接なコミュニケーションなどもなくなっている。酷い例になると、生産途中で数量やデザインを自由に変えられると本気で信じている人もいた。

 「私は工場を見たことがある」、「私は昔ものづくりをやっていた」と豪語する人も多いが、「そこから見えるインサイト(洞察)があるのか」と聞けばゼロで、ただアジアに行っただけという人がほとんどだ。また、最近では「工場でものづくりをやっていました」という人間も増えてきたが、細かな話と大きな話の論点設定がデタラメで、戦略から詳細設計という流れが組み立てられない。だから、アジアの工場に突然小ロット発注が増え、愛想を尽かされ納期が長期化するのである。

日本企業のものづくり戦略

コロナ禍にも拘わらずハニーズの業績が好調だ
ハニーズはミャンマーに自社工場を持つ

 日本企業のものづくり戦略は、ハニーズ、ワールド、MNインターファッション、オンワードホールディングス、三陽商会などがやっている如く生産工場を自社化する、あるいは、工場内シェアを圧倒的に増やすことだ。特にリテール出自のSPAアパレルは、取引先だけで1000アカウントもあるなど、集約がまったく進んでいない。だから、お互い本気になれない関係が続き、商社を外して直貿化をすれば、逆に工場側の発注量が減るため愛想を尽かされるのである。特にハニーズはミャンマーに自社工場を持ち、圧倒的コスト競争力を同社に与え、売上高販管費率は50%と高いものの、それでも営業利益は10%近くをたたき出し、他社を圧倒している。

その秘密は驚くほどシンプルで、仕入れた商品は全部定価で売り切る、というものだ。多くのいい加減な評論家の分析は信じてはならない。というより、ハニーズ自身も自分たちの利益率の高さをコストダウンの結果だと言っていることから、BSを絡めた立体的なお金の動きが分かっていないのだろう。だから、それをインタビューレベルでしか聞けない評論家もあやまって分析する。論理的に考えれば、販管費が50%で、営業利益が10%ということは原価率が40%ということになる。ここから、ハニーズはほとんど企画原価率とPL原価率が等しいということになり、損金処理と値引きがほとんどないという結論が導き出される訳だ。決して商社や工場を虐める単純なコストダウンではない。値引きをしなくてもよい価格設定を最初からする。実にシンプルだ。

 次に、素材の問題である。私は、事あるごとに「素材はアパレルリスクであらかじめ海外のアセットとして持て」と提案してきた。なぜなら、素材段階で持つ在庫は、虫食いや変色などが起きない限り、保存状態が良ければ何年でも持つし、簿価も製品の1/3程度、使い回しも効くからだ。製品で在庫を持つことは慣れているからといって、何十億円分も在庫を持ち、損金処理を出すくせに、素材で在庫を持つ方がよほどリスクが少ないし理にかなっていると言っても「過去前例がない」といって聞く耳をもたなかった。 

  しかし、スペインのZARAが素材備蓄し、ユニクロまで素材の備蓄宣言をした今、アパレルが素材をもたないことはリードタイムを長期化させるだけでなく、余った素材のコストを製品にのせ簿価ゼロにし製造原価を上げるだけでなく、シーインなどの餌食になることは幾度も話した通りだ。物理的リードタイムの中で最も時間が長く、サプライチェーンのボトルネックは「素材」なのである。

  ここまで書けば、PLMとリードタイムは全く関係ないこともおわかりだろう。本気でリードタイムを短くしたいのであれば、自社供給レベルにあった工場をM&Aなどで自社化するか、工場内シェアを6割から8割以上とし、実質的に自社工場の如くして、お互い戦略的データ連係をするなどサプライチェーンの垂直統合をすることだ。こうした話しをすると、必ずでてくる批判は「我々にユニクロになれということか」ということだ。しかしここにも論理的思考の弱さがあり、アイテム数とアイテム別総生産数の違いを理解できていないのである。実際に分析すれば、最も売れているのは「結果的に」ベーシックなもので、さらに、横のブランドのS-A型番のバラバラ発注を統一化すれば、十分小型工場のシェアを埋められる。 
 これは、個社の戦略の問題でなく世界的な日本の地位低下、および、生産現場を軽視してきたツケが回ってきた結果でもはや小手先のテクニックではどうしようもない。もはや打つ手は「素材の備蓄」と「工場の自社化」以外にない。直ぐにでも生産改革を正しく行わなければ、相変わらず「中国のロックダウンでサプライチェーンが分断化された」という話を永遠に信じ、実際は、愛想を尽かされた結果、リードタイムが長期化していることを知らず、徐々に必要以上のミニマムロットと半年以上の納期を突きつけられ、完全死が待ち受けている。変わらない、動かない、情報をもっていない。気づけば浦島太郎となっている日本のアパレル企業は、もっと世界の常識を学び、自社でできないのなら戦略コンサルタントを雇い、動かない車のエンジンをかけてもらいたいと心から思う。

 

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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