ザラの12倍、生産日数は半年!?日本のアパレルが海外工場から「無視」されている事情とは

河合 拓
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3 台頭する中国企業によりアパレルビジネスは新しい時代へ

中国の地図アプリ「高徳」で確認できた、広東省・番禺(パンユー)にあるSheinの工場

 映画、音楽、ドラマなど、エンタメの世界は完全に韓国に抜かれ、デジタル技術では中国の後塵を拝し、メディアはリッチコンテンツ、つまり画像や動画に主戦場が移り、日本のファッション雑誌は壊滅状態となり、米国Meta(旧Facebook) のインスタグラム、あるいは中国TikTokのような動画コンテンツがZ世代と呼ばれるデジタルネイティブに訴求している。

 日本だけでなく世界のZ世代は、中国Sheinのようなテック企業による越境D2CDholicを代表とする韓国プラットフォーマーに完全に囲い込まれ、日本のアパレル企業は田舎の老人相手のビジネスに追いやられた。

 しかし、それでも縮小する市場に残り、成長している世界(特に東南アジア、米国など)に出ることをせず、レッドオーシャンと化した日本で潰し合いをやり、ひたすら「QR」にすがっている。それも、90年代のQRは、欠品ロスを最小化する目的だったが、2020年以降は、「在庫を残さないことを目的とするQRに最後の望みを託すようになった。

4 アジアの工場は、日本アパレルを無視 中韓ブランドに方向転換

 しかしそのQRも、付き合ってくれる海外の工場があればこそ、だ。
 「何度も無駄なサンプルを作らされる」、「量産発注は驚くほど小ロット」、「コストプレッシャーが半端ない」など、「うるさい」、「すくない」、「安い」の三悪企業と見なされた日本のアパレル・商社を見限って、アジアの工場は、成長する中国大陸や東南アジアを主戦場とした韓国、中国アパレル・ブランドの方に向くようになり、「日本のアパレルは無視」するようになった。

 私はあれほど「QRなどもはや通用しない、QRばかり追いかけるから工場の段取り替えが増え製造コストが上昇し、商品も同質化してコスト競争になる」と批判をしてきたにも関わらず、今度は、「PLMを導入すればリードタイムが短くなる」など、まったく状況把握ができていない解決案であちこちで自滅の道を歩んでいる

 今、平均リードタイムはバングラデッシュやミャンマーで3〜4ヶ月から半年。中国で23ヶ月で、この20年で約2倍になっている。ZARAの素材備蓄と世界中に張り巡らされたトレンドネットワークによる高いトレンド回転率によって蟻地獄に落とされた日本のアパレル企業は、自社のプロパー消化率を上げることこそやるべきなのに、「ボラティリティ(不確実性)が高いので、原価を低くする方が確実だ」と念仏のように唱え、半年のリードタイムでZARA12回転、24回転や、シーインの残反、残品による3日で数千枚の新規商品と戦おうと思っている。まさに、戦時中に竹槍訓練をしている姿と一緒だ。

 また、現場を全く知らない評論家集団が、未だにシーインが数日で数千アイテムのものづくりをするなど、産業界の人間が聞いたら大笑いするようなことを平気で書いているが、ある大手の関連企業から、「本当に3日で3000枚も生産できるのか」と私に問い合わせが来たほどだ。その企業は、「3日で3000枚」に対応すべく投資をどうやってすべきかを考えていたという。

 このように、コロナで分断された現地視察と、知ったかぶりの評論家、実務を知らない学者が産業界をいっそう混乱させた。拙著『知らなきゃ行けないアパレルの話』で、「日本企業が世界企業に将来勝つ見込みはゼロ」と私が断じた理由はこういうところにある。

 考えて頂きたい。工場を見て、自分の頭で考えられる人間であれば、生産納期は素材と付属がすべて揃っている前提で、1週間から10日だ。流れ作業の工程を見れば、机の配置の縦(スピード)と横(生産量)のかけ算でその工場のスループットは決まる。見れば誰でも分かるのに、こんな簡単なことさえ分からない。一体アジアまで何をしにいったのか。

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