「無印良品」を展開する良品計画(東京都/堂前宣夫社長)の2022年8月期連結決算は増収減益だった。衣服・生活雑貨を中心に既存店の不振に苦戦するなか、堂前社長が示した今期の6つの重点課題とは――。
国内・中国は苦戦も東南アジア・オセアニアで増収増益
良品計画の22年8月期連結決算は、営業収益4961億円(対前期比9.4%増)、営業利益327億円(同22.8%減)、経常利益372億円(同18.0%減)、親会社株主に帰属する当期純利益245億円(同27.6%減)だった。
既存店売上高は国内事業で同4.6%減、中国大陸で同11.6%減と低調だったものの、出店拡大による店舗数増加により増収を確保。期中には国内外で94店舗の出店と24店舗の閉店を実施し、純増数は70店舗となっている。利益面では、国内事業を中心に衣服・雑貨の販売が苦戦したほか、急激な円安、輸送費の上昇により営業総利益率が低下し、各段階利益は減益となった
海外では、コロナ禍から徐々に経済活動が回復している東南アジア・オセアニア事業が増収増益と好調だった。営業利益率も11.2%と前期から5.2ポイント伸長している。欧米事業も売上が伸長し、営業損益は8億円の赤字だったが、赤字幅は前年から12億円減少した。
新業態「無印良品500」が好調
23年8月期の連結業績は営業収益5850億円(同17.9%増)、営業利益340億円(同3.7%増)、経常利益326億円(同12.4%減)、親会社株主に帰属する当期純利益213億円(同13.3%減)を見込む。連結での経常利益、当期純利益は減益予想だが、22年8月期で営業赤字の欧米事業を含め、すべてのセグメントで増収・営業増益をめざす計画だ。
期中には、国内で過去最高となる79店舗の新規出店を予定しており、500~600坪クラスを標準とした生活圏への出店を継続する。海外では62店舗の出店を計画しており、中国大陸を中心に店舗網を拡大していくほか、成長が見込める台湾や香港、タイなどにも出店する。
今期の目標を達成するための重点課題として、良品計画は「商品力の強化」「生産の内製化と最小原価の実現」「商品マーケティングの強化」「店舗売上構造の確立」「物流費、システム費の抜本的な効率化」「本業としてのESG推進」の6つを掲げる。
具体的には、22年9月開業の日用品・消耗品に特化した新業態「無印良品500」の既存店へのコーナー化、食品スーパーやコンビニエンスストアなどへの無印良品コーナーの導入、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)による衣服コーディネート提案の強化、衣服単独店やスキンケア・ヘアケア単独店の開発などに取り組む。無印良品500について、堂前社長は「今まで気づいてもらえなかった商品がお客さまに伝わり好調に推移している」と話す。
また、前述の各課題の数値目標として「23年秋冬に売上総利益率49%」「24年8月末までに工場との直接取引比率約80%」「生活雑貨の倉庫在庫3割減」なども掲げる。
ESGの事業化を推進
6つの課題の中で堂前社長が「これがいちばん大事」と強調するのが「本業としてのESG推進」だ。行政との連携を密にするほか、一部既存店で展開中の「まちの保健室」を軸とするヘルスケア事業、地域産業となる農と食の事業、使われていない不動産や自然資源、文化・伝統など地域の未利用資源を活用した観光や移住、体験といった事業など、地域社会によい影響をもたらす取り組みの事業化をめざす。「良品計画、無印良品はESGを本業としている。これを社員一人ひとりが認識して、当たり前のように、ESGという言葉を使わなくても、ESGが進むような体制をつくっていきたい」と堂前社長は力を込める。
決算と同時に発表された役員人事では、新任の社外取締役が3人選出されている。ここにもESGの事業化を推進する戦略が表れており、「今後、地域課題を解決するうえで事業が未経験の領域に広がっていくなかで、外部の知見のある方々と一緒に議論しなければならない」(堂前社長)という。
「無印良品港南台バーズ」(神奈川県横浜市)や「無印良品東京有明」(東京都江東区)をはじめ、以前から多くの店舗で地域社会の課題解決に取り組んでいる良品計画。ESGやサステナブルという言葉が一般化する前からさまざまなことに取り組んできた同社の事業領域は、単なる小売企業の枠を超えつつある。