アパレルビジネスの「一丁目一番地」は企画力か?将来AIで対応可能になる決定的な理由

河合 拓
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クリエーションのメカニズムとAIによるクリエーションが可能になる理由

Goran Jakus Photography/istock
Goran Jakus Photography/istock

 以前、ある講演会で「AIで自動でデザイン画を描いてもらうことは可能か」などという質問をしている人を見た。私は、どうもその質問が頭にひっかかり、来る日も来る日もグルグル同じ質問が回っていた。

 私には、確信にまでには至っていないがおそらくこうではないか、という仮説がある。それは、海外のトップメゾンと呼ばれるスーパーブランドをデザインする世界的デザイナーは、「01」の企画、つまり、これまでにない革新的デザインを創り上げているも、それ以外のファッション・アパレル企業は、「11.1、1→1.5」というように、このような革新的デザインをベースにしながら振れ幅には違いはあれど、カスタマイズして上塗りしているのではないか、ということだ。

 仮にそうだとしたら、パリやミラノ、ニューヨークなどのコレクションで発表される、複数ある革新的デザインを「0から1のクリエーション」(と呼ぶこととする)をベースとして選択し、振れ幅をパラメータ化すれば、理屈上では、AIでも独自性のある「企画」を作ることができる時代が来るかも知れない。しかし、これは恐ろしい仮説だ。ならば、人は一体何をするのか、ということが頭をもたげるからだ。

  まとめよう。今回述べたかったのは、私たちはビジネスモデル論から競争力を説明しがちだが、やはり消費者起点からしてみれば「企画力」が購買要因である。巨大外資アパレルの多くは、人によるバラツキや経営の不確実性をなくすため、データベースで流行服のデザインを真似ている。その一方で、日本の中価格帯アパレル企業の「企画力」は、クリエイターやデザイナーの属人性が主流であるのは、単なる流行の「パクリ」が通用しないぐらい完成度が高いからではないかと思う。

  しかし、アパレルをビジネスとして成立させるためには、ベースとなる革新的デザインの影響を受け、そこからのさじ加減が微妙だから属人性から抜け出せなくとも、将来はAIによるデジタル企画も不可能ではないのではないかということ。そして、こうした時代が来たとき、冒頭に述べた緻密なナローキャスティングによるターゲットのパーソナライズによるマルチ化、複雑化と相まって、アパレル企業は相当なテック企業になるのではないか、ということだ。デジタル化というと、生産性の向上が取り沙汰されているが、このように考えれば、デジタルを活用した「競争力強化」の時代に入るのかもしれない。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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