東急(東京都)は5月10日から、グループ会社の東急ストア(東京都)店舗で、LINE上で提示可能なポイントカード「TOKYU POINT CARD on LINE」のサービスを開始した。コミュニケーションスマホアプリ「LINE」上からサービスを立ち上げ、表示されるバーコードを1度読み取るだけで、楽天ポイントと自社の「TOKYU POINT」が同時に貯められる仕組みで、鉄道業界系グループの共通ポイントでは初めて実現されたかたちだ。その背景には東急がLINE(東京都)とともに進める、グループのデータ活用戦略の存在がある。そのねらいと今後の方針を取材した。
国内スーパー初!
1回のスマホ提示で
ダブルでポイントが貯まる
「TOKYU POINT CARD on LINE」は、東急と、同社が包括業務提携関係にある楽天(東京都)と連携して開発したデジタルポイントカードで、鉄道業界系グループの共通ポイントでは初めて、「楽天ID」との連携を可能にしたものだ。現在、東急ストアが展開する食品スーパー全90店で利用できる。
東急ストアでは20年9月から全店で「楽天ポイントカード」の利用が可能だったが、これまで東急・楽天の両方のポイントを貯めるには、2枚のポイントカードを提示する必要があった。それを、国内の食品スーパーではじめて、1回の提示で両方のポイントが貯められるようにした。
もう1つ大きな特徴は、同カードは「LINE」上で提示するという点だ。東急ストアのLINE公式アカウント上でカードを登録・発行すると、アカウントページ上にバーコード付きのカードが表示され、レジで従業員がスキャンするとポイントがダブルで貯まる仕組みだ。来店客にとっては複数のポイントカードを準備する煩わしさがなくなり、従業員にとってもレジ周りでの店舗作業の負担軽減やレジでの対応時間の短縮につながっている。
この「LINE」の活用は、東急グループが19年以降、積極的に推進してきたデジタル上での顧客接点の強化において、柱と位置付けるほど、重要視していることだ。
現在「LINE」は、月間アクティブユーザー数が約9300万人に上り、今や国民的コミュニケーションツールになっている。ユーザーインターフェースに慣れている人が多いことから、LINE公式アカウントを入口に、自社ポイントプログラムの利用を促し、さらなる会員獲得が期待できる。
東急ストアの「友だち」
獲得件数が3倍に!
実際に、会員数の獲得は順調だ。東急ストアのLINE公式アカウント日別「友だち」獲得件数は「TOKYU POINT CARD on LINE」導入前の3倍となり、同利用者は7月末時点で約8万人となっている。SNS上では「ダブルでポイントが貯まるのはお得」など評価するコメントが多くあがっており、東急は一定の手ごたえを感じている。
東急デジタルプラットフォームマーケティンググループ・マーケティング担当主査の乗松康行氏は「TOKYU POINT CARD on LINE上では『楽天ペイ』『PayPay』などのコード決済も連携しており、スマホ1台でポイント獲得から決済まで完結できる利便性は大きい。現在、TOKYU POINTの会員数は約280万人であり、それに比べれば利用者数の伸びしろは大きい」と話す。
産直品を運ぶ様子を
リアルタイムで配信
東急が「LINE」の活用でねらうのはこれだけではない。リアルタイムに情報が発信できるという「LINE」の特性を生かした販促にもチャレンジしている。
その代表例が、産直商品が店頭に届くまでの実況投稿だ。東急ストアでは毎月、その月に販売を強化する旬の産直品を決めて訴求している。その産直品が出荷され店舗に届くまでの様子を、「いま産地を出発しました」「飛行機に積んだところです」「〇〇ごろ、店舗に届きます」といったように、各店舗のLINE公式アカウント上でリアルタイム配信しているのだ。3月には栃木県から陸送便の「朝摘みイチゴ」、6月には空輸の「白エビ」などで実施。到着予定時間に合わせて来店されるお客さまも多く、すぐに商品が売り切れてしまうことも少なくないという。
こうした反応の高さから、当初は「LINE」での情報発信に躊躇していた店舗も、今ではほぼ全店が積極的に活用するようになっているという。
「現在、東急ストアのLINE公式アカウントは1つのアカウントに90店舗が紐づいており、全店舗向けの情報発信や、店舗ごとの情報発信に活用している。多い時には、全店舗向けの配信本数は月100本以上、個店向けの配信本数は200本を超える」(東急デジタルプラットフォーム・マーケティンググループ・マーケティング担当課長補佐の吉井光生氏)。個店向けの配信本数はまだ制限をしている状態だが、各店長からは「もっと本数を増やしたい」という要望があがっていて、新しい販促ツールとして浸透してきているという。
タイアップ企画や
クーポンも
メーカーとのタイアップ企画にもチャレンジしている。
たとえば、後に購入結果をデータで提供するという条件で、取引先メーカーにTOKYU POINTのポイント費用を負担頂き、それらの商品を「LINE」上で、注目のお買い得商品として訴求している。
このほか、紙によるダイレクトメールやクーポン、キャンペーン告知などについても、「スピードや画像による表現力(商品のシズル感)などの点から、LINEの方が優れている」として、LINEの活用を進めていく考えだ。
「LINE ユーザーID」で
グループ横断で顧客を分析
最後に、東急が最終的にねらうのは「LINEのユーザーID」を軸にしたグループ各社のデータ連携だ。「LINE」の存在について乗松氏は次のように見解を述べる。「個人の連絡先と言えば、かつては住所だった。それが、電話番号、メールアドレスに移行し、そして今は『LINEのユーザーID』がその役割を担っている」。
つまり、「LINEのユーザーID」は、国内の大部分の消費者をカバーする、顧客を特定できるIDであり、これを共通IDに、個人の東急グループ各社の利用状況を横断的に分析して顧客理解を深め、One to Oneのアプローチに活かしていく考えだ。
3つの顧客IDを
特性に応じて使い分ける
今回、「TOKYU POINT CARD on LINE」の導入により東急は、TOKYU POINTと、楽天ポイントを合わせて、異なる3つの顧客IDを有することになる。東急はこれをそれぞれの特性に応じて使いわけていく考えだ。
たとえばTOKYU POINT会員は、東急グループが長年にわたって関係を築いてきた層で、年齢の高い人が中心だ。それに対し、楽天とLINEは、新しい客層、とくに若年層が多い。
また楽天IDは既存の顧客より、購買金額、利用回数ともに低い傾向があり、今後、ロイヤルカスタマーに育成できるように、顧客の理解、分析を進めていきたいとしている。
独自のスマホアプリも
板のカードもなくさない
これらの取材を通じて、ある疑問が生じてくる。デジタル上で利用可能なポイントカード「TOKYU POINT CARD on LINE」のスタートにより、今後、板のポイントカードや、東急ストア独自のスマホアプリはどうなっていくのか、という点である。将来的にはすべてをデジタル上やLINE公式アカウントの機能として統合していくのだろうか。
これに対して東急の答えはノーだ。旧来からのロイヤルカスタマーは、プラスチック製の板のポイントカードや、独自のスマホアプリを利用する人が中心だ。「TOKYU POINT CARD on LINE」は、あくまでさまざまな顧客層にアプローチし、利便性を提供するうえでの1つの手段だという。
とくに独自のスマホアプリについては、多くのロイヤルカスタマーが存在するため、いっそう満足度の高いアプリに進化させていく。「TOKYU POINT CARD on LINE」を通じて得た新規ポイント会員も、ゆくゆくは独自のスマホアプリの利用に移行してもらいたい考えだ。
乗松氏は、顧客データを活用するうえでは重要な点は、「何のために使うのか」という目的を明確にすることだと指摘する。「東急は全国展開の企業やブランドとは異なり、東急線沿線に住むお客さまの生活に利便性や価値を提供することがミッションである」と同社の目的を述べ、グループ全体で連携して価値創出のための顧客データ活用を進めていく考えだ。