アダストリアの中期経営計画がいまのアパレルの「お手本」である理由

河合 拓
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4象限にわけた戦略を解説する

アダストリア3カ年成長戦略骨子(M&A方針) 出展:同社3カ年経営計画
アダストリア3カ年成長戦略骨子(M&A方針) 出典:同社3カ年経営計画

同社は、戦略を4象限に分け、ボストンコンサルティングが提唱したPPM (プロダクトポートフォリオマネジメント)の構えを取っている。ただし、言葉の使い方に要注意だ。おそらく、現場に配慮したためと思われるが、4象限全てを「成長戦略」と捉えるのは、「釣り合いの戦略」としては、ややおかしい。まず、左上の「マルチブランド、カテゴリー」だが、これは縮小する国内市場。つまり、ミルキング事業と呼ばれるセグメントになると思われる。ここには、高齢化社会に対応するための新ブランド開発、および、デジタルによる生産性の向上を目指していると思われる。いわゆる牛の乳搾りにより、絞ったミルク(現金)を「スター」に飲ませ、さらなる成長をしてゆくわけだ。同社ではこのセグメントで500億円以上を目指す独立型ブランド、成長型ブランド、高収益モデルを目指す収益型ブランドの3タイプによってシュリンクする国内市場の中でも成長戦略を描こうとしている。

 次に、右上の象限に目を映すと、「デジタル化」という文字がでてきて、「さきほどの指摘とは違うではないか」という意見も聞こえてきそうだ。しかし、ここに書かれているのは、どこかの計画書に書いてあるような「OMO化します。だから、10%売上が伸びます」などという、「風が吹けば桶屋」論理とは全く違う。具体的に、スタッフボード(ライブコマースと思われる)強化、越境ECなど、事業との連関性と昨今のトレンドを抑えている。つまり、この象限は将来の投資領域と見るべきで、PPM的に言えば問題児、つまり、世界的に成長領域でありながら、その果実を味わい切れていないセグメントだろう。

さらに、左下に目を向ければ「グローカル」と呼ばれる、アパレル領域を牽引しているアジア、そして、ようやく日本製品の認知も広がった米国などの成長戦略だ。私は、北村嘉輝常務取締役をよく存じ上げているが、極めて聡明で地頭がよく、いわゆる「アパレル感」のよい方だ。この方が海外を任せられているという。きっと、アジアの成長の果実を自社に引き入れ次なる成長をしてゆくことだろう。もはや、分類学はどうでもよいが、この象限をあえてSTARと呼ぼう。

最後に、右下である。これをDOGと無理に当て込むつもりはないが、いわゆる「新しい資本主義下」で成長するためのスタートアップ支援や飲食事業が含まれる。おもしろいのは、右下と左上が、逆ではないかという感覚だ。昨今の同社の企業買収を見ていると、ワイアードカフェとの統合、ゼットンとの事業統合など飲食業に積極果敢に出て行っているように見えるが、このポートフォリオを見る限り、この領域のリスクは「高」となっている。さらにここでは空間プロデュース事業、さらに、機能を分解してB2Bに打って出るなど、大胆な戦略を掲げている。一方で、左上のマルチブランド、カテゴリーにおいて、コスメメーカーや家具事業、新ブランド開発を積極的に行うが、そのリスクは「低」としている。それでも「Z世代は韓国企業が競争相手」など、分析力は相当なものだと思う。

私は、飲食事業は、アパレルの店舗事業と同じく、もはや貢献利益ベースでのサステイナブルな黒字化は困難と見ていたため、同社の飲食事業への積極的な進出には首をかしげるところがあったが、彼らは「分かってやっていた」ということがよくわかる。そうなると、今後、オンワード(メーカー系アパレル)、アダストリア(リテーラー系アパレル)、MNインターファッション(商社) などの、まったくビジネスモデルの違う3社がアパレル企業OEMを狙って営業戦を繰り返すなど、一昔前には想像もつかなかった光景が目に入るかも知れない。

そうなると、いわゆるものづくりとしての勝負は、これまでのようにQCD (品質、コスト、デリバリ)から、企画力を加えたプラットフォーム戦になる可能性が高い。あくまでも想像だが、中国の公司が過去の商社の役割を果たすようになった今、資金的に余裕があるアパレルに分があるように思う。

 

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