不振アパレルの売上がなぜ増える?百貨店は?新収益認識基準はアパレルをこう変える!

河合 拓
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どこで真の売上が上がっているのか?

さてここで問題にしたいのが、「果たして、どこで本当の売上が上がっているのか」ということだ。そこで、「収益認識基準会計」である。

「収益認識基準会計」というのは、文字通り、どこで売上が現実に立っているのかを認識するという意味だ。

百貨店の場合、消化取引(いわゆる消化仕入れ)以外に、完全買取(世界のトップメゾンのように、ベンダー側が強い場合わずかに残っている)と委託仕入(一旦会計上は仕入計上するが「委託販売」なので、売れ残れば自由に返品できる)があるが、後者2つはいずれも今ではごくわずかになっている。したがって百貨店と取引をするアパレル企業の多くは消化取引が一般的だ。この消化取引というのは、百貨店の売場の中で、実際に消費者が商品を買った時点で売上を立てているわけだから、売上は下代(仕入れ価格)でなく上代(販売価格)であるべきだ。そして、百貨店には家賃を払うのが新しい(というか、あるべき)会計処理となる。これが、「収益認識基準会計」である。

ここで勘の良い方はおわかりと思うが、アパレル企業の売上が下代ベースから上代ベースに変わった場合、百貨店が従来通り上代ベースで売上を計上してしまうと、日本のGDPがダブルカウントで上がってしまう。したがって、百貨店の売上は家賃ベースの純売上となる可能性が高く、これは公認会計士とも確認した。

つまり、(これは、現時点での可能性ではあるが)日本の百貨店の売上が「家賃代」、具体的に言うと、日本の百貨店市場が約5億円から1億6000万円〜2億円程度へと、従来の30%に縮んでしまう可能性について、誰も指摘していないのが気になっている。

実際、9000億円超の売上を誇る三越伊勢丹HDは、22年3月期より収益認識に関する会計基準を適用しており、同期第3四半期決算は売上高が3146億円まで減少、通期予想では4250億円となっている。なお、同会計基準を適用しなかった場合の通期の売上高予想は9230億円となっている(適用前比で54%減)。このように考えると、一時盛んに報道された「売上40%ダウン」などという「見出し報道」も誤解を助長するものとして、しっかりした検証が必要だろう。

いずれにせよ、百貨店アパレルと百貨店は、従来の売上基準による分析に加え、こうした事情をしっかり鑑み、こうした数字のマジックを読み取る分析力はいよいよ高まっている。

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新しく発足する「DX研究会」ですが、おかげさまで満席となりましたので本年度は打ち切らせて頂きます。本研究会にはダイヤモンド・リテイルメディアさんが協力頂き、半年後の研究成果を私が監修する中で世に発表することになろうかと思います。ご期待ください

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
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