ユニクロ独走の秘密は販管費にあるのに、原価削減を繰り返すアパレルの実態とは

河合 拓
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結論、ぶくぶくに膨れ上がった販管費率低減こそ今やるべきこと

onurdongel/istock
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前ページの図表1のようなグラフは、公開情報を元にすれば誰でもつくることが可能だ。また、世界のZARA(社名:インディテックス)、H&MなどグローバルSPAも同様に分析すれば、等しく、売上高原価率は40%台であることが分かる。加えていうなら、私は最近、外資企業より、TOKYO BASEに近いその他のスタートアップの分析を頼まれているが、彼らの平均売上高販管費率も40%台で、特にTOKYO BASEが「原価を有利に買い付けしている」などという話は、数字からは見えてこなかった。つまり、ゼロから積み上げれば販管費は売上対比で40%程度になるのだ。

しかし、大手アパレル企業は、もうこれ以上下げることができない原価率を必死に下げているが、前回の論考で示したように、ユニクロに勝てない理由は明確で、販管費で20ptも差をつけられていることは放置し、これ以上下げられない原価率を1-2ptを下げるべく必死になっている姿は、滑稽を通り越して、将来が不安になるのは私だけではないだろう。それでは、その販管費率の中身を見てみよう。

下図は、某老舗アパレル企業の販管費率だ。私は、老舗アパレル企業で、売上高販管費率が40%前後の企業をみたことがない。今回、あえてハニーズを比較に加えたのは、同社が10%の営業利益率をたたき出していることを専門紙で紹介されていたからだ。そのハニーズも蓋を開ければ販管費率は50%台である。読者の皆さんも各社の決算数値から販管費率を出してみれば、各社の実態がわかるだろう。

図表2 アパレル某社の販管費の内訳
図表2 アパレル某社の販管費の内訳

さて、この会社で、もっとも販管費率に占める割合が大きいのは地代家賃だ。駅ビル、ファッションビルを主戦場に出店している企業なので、家賃はほぼ固定費だろう。今の日本で、リアル店舗販売をしても、売上至上主義がもたらす店舗ごとに発生する「下駄履き余剰在庫」(店舗売上KPIが主流で、在庫責任を考慮した貢献利益率KPIでないため店舗は在庫を必要以上に確保する)と「低いEC化率」「他社ECによる2-30%の手数料」によって、いわゆる家賃(企業によっては、他社ECの手数料は、支払い手数料という勘定科目に入れている)が増加する。この企業は約15%なので、いわゆる「優良アパレル」の販管費率だが、グローバルで勝っているアパレルは家賃は一桁台が常識だ。
次に、大きいのは「役員報酬」だ。私は日本の役員の給与は低すぎると考えており、ここに対するコメントは控えるが、通常2年の役員任期ごとにしっかり役員パフォーマンスを確認できているのかは疑問だ。ほとんどの企業は、役員になれば定年もなく70歳になっても居座っているケースもあるからだ。また、本来取締役というのは、執行責任を持つ者の暴走を「取り締まる」のが仕事なのに、多くのケースにおいて、本部長の上位職として最高執行権限を持つなど、まともなガバナンスさえ効いていない。今後、外資アクティビストが、業績が悪い企業をどんどん攻撃してくるだろう。

また、世の中の一般消費者も、若い世代ほど貯蓄から投資へ資金を移動しており、多くの人が「投資家」化してゆき、企業を見る目も厳しくなる。ファーストリテイリングと比べ販管費が20%も高いというハンデを最初から背負い、無意味な原価低減を繰り返している経営を認めることはないだろう。 

「販管費」削減といえば、直ぐに「人のリストラ」を想起する人も多い。さあ、首切りだ、と経営の将来の読みが甘いのが原因なのに、2年おきにリストラを繰り返している企業もあるが、そんなことを繰り返していけば当然優秀な人材から逃げてゆく。そもそも人件費は、この企業の場合ではあるが、売上に占める割合が福利厚生と合わせ3.9ptしかなく、全ての人員を半分にしても2ptしか収益改善しない。手を付けるべき場所が間違っている。もはや、ブランド力がないアパレルは、リアル店舗を出しても赤字と余剰在庫を増やすだけで、売上を上げることはできないと考えるべきなのだ。

減価償却費にも目を向けたい。大半はシステム関連と思われるが、経年でみればこの減価償却費が増えている傾向がある。これは推測だが、次から次へと手当たり次第にシステムを導入するなどDX(デジタル・トランスフォーメーション)が失敗しているのだろう。システムを入れて自動化するなら、人を減らすべきだがそれをしない。販管費はどんどん増えてゆくわけだ。

次に、グローバル企業と同程度の販管費率を実現する会社の販管費内訳を見ていきたい。

 

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