コロナ、円安でもユニクロ過去最高益の秘密と、他のアパレルが絶対勝てない理由とは

河合 拓
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アパレル企業の再建論点は肥大化した販管費

実際、私の頭の中にもアパレル企業の収益構造は、企画原価率が30%、値引き+ライトオフで20%、あわせて原価が50%。販管費が50%で、この構造の中から、何かを絞り出して5%未満の営業利益をねん出するという図式がある。この公式の中で、コストダウン可能なもの、売上対比で不釣り合いなものをカットするところから再建が始まるのがセオリーとなっている。

現実に、原価率は他の日本企業とユニクロは変わらないではないか。つまり、圧倒的な販管費の差で日本企業は負けているのだ。デジタルをいれても人員生産性を上げられない肥大化した販管費を見直さなければ、これからの10年、ファーストリテイリングのような世界企業と伍して戦うことはできないだろう。今、価格は正義なのである。

もちろん、1000億円を超える企業となれば、様々な複合事業が重なりあって、それほど単純に計算できない、という声も聞こえそうだ。しかし、こうした負け口上をいくら言っても、数字は嘘をつかない。実際、調子がよいといわれているアダストリアでさえ、営業利益率は3%なのだ。

そもそも日本のアパレルは、販管費が30%のユニクロに、50%で戦っている(ハンデが20%もある)ということを知るべきだ。しかも、忘れてはならないのは、市場価格でもさらにユニクロのコスパはさらに上を行っており、ものによっては販管費50%のアパレル企業の衣料品の半値以下で販売している、という事実である。

破壊的販管費率の低さは規模の経済差とDX効果

あるアパレル経営者と話をしたところ、「うちは規模は追わない、小さくても付加価値の高い企業を目指している」と断じた方がいた。私は、付加価値に必要な費用は使うべきだし、ビジネスモデルが違えば収益構造も違って当たり前だと思う。しかし、海外で商社を使って製品を生産し、ECとお店で服を売るというビジネスモデルになんら違いを見ることはできないし、数字を見れば、原価率は等しいが、販管費が50%台でそもそもどうやって戦うのか、規模の経済の恐ろしさを知っているのかと聞きたい。また、トップラインを上げる施策、あるいは、販管費を大きく下げる施策なくDXを進めれば、減価償却費やサブスクリプションフィーが増え、いっそう販管費を押し上げて勝負にならなくなる。

ここからも、今後、弱り切ったアパレル企業から買収対象にされ、高い付加価値のところだけを残して統合が進むのは過去の銀行や百貨店の歴史を見ても明らかだ。あらためて、ファーストリテイリングの強さを見せつけられた上期決算であり、他のアパレルが「デジタルディスラプション」(デジタル化により破壊される様)される将来図を見た気がした。

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
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